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第175話 それは....何?

「どうして?」


なぜ…こんなところにいるのか、美亜自身にもわからなかった。


だけど、そんな深く考えるたちではなかった。


すぐに、気を取り直すと、スキップしながら、フェンスの裏から消えた。





「な」


しばらくして、プレッシャーが消えたカレンは、その場で崩れ落ちた。


全身にびっしりと、汗をかいていた。


「はあはあはあ」


激しく肩で息をしながら、カレンは目の前にあるグラウンドの土を、指で抉った。


「い、今のは…」


プレッシャーから自由になっても、カレンの緊張がとれることはない。


「く、くそ!」


カレンは、抉った土を握り締めた。


前に同じようなプレッシャーを受けた時、カレンは逃げ出してしまった。


今回は、逃げ出すことはなかった。


だが、それは....逃げ出さなかったではなく、逃げれなかったのだ。


「あたしは…今まで、何をしてきたんだ!」


握り締めた拳で、地面を叩いた。


あの日…。女神から逃げたあの日から、カレンは自らを鍛える為に、修行をしてきた。


なのに、何も変わらなかった。


プレッシャーに動けなかった。


しかし、カレンは知らない。


そのプレッシャーを与えた者が、その女神以上の存在であることに。






「どうなさいました?」


校舎の奥の部屋で、グラスを傾けていた哲也は、目の前にいる神流の様子が変わったことに気付いた。


目を見開き、明らかに震えていた。


神流の持つグラスの中にあるワインの表面が、揺れていたからだ。


「いえ…何でもないわ」


神流は平然と哲也に笑顔を返すと、グラスに口をつけた。


中身を飲み干しながら、神流は思考を巡らした。


(今…一瞬、感じたのは、神レベルの魔力。それも、トップクラスの)


神流は冷静を感じながらも、脇に流れる冷や汗を感じていた。


(誰だ?)


神流は、その一瞬の反応に、一抹の不安を抱いてしまった。


これからの未来に。





乙女ピンクこと―カルマを救出した闇に侵された者達が、帰還した場所は、実世界の教会に近い建物だった。


しかし、その建物に掲げられた十字架は、単なる十字架ではなかった。


十字架に似た剣。


かつて、この世界を掌握する歴代の魔王達と戦った勇者が、手にしていた…剣。


しかし、実際に…その剣を振るう勇者は、いない。


剣のオブジェで守られた扉を潜ると、老人達は足を止めた。


建物の中は単純であり、入るとすぐに、礼拝堂があった。


その奥に、居住空間がある。


老人は苦笑した。


祭壇の前で跪き、祈りを捧げる男がいたからだ。


「何の冗談ですかな」


老人は跪く男の背中に、声をかけた。


「くくく…」


祈りを捧げている男の背中が、震えだした。


そして、ゆっくりと立ち上がると、老人に向かって振り返った。


「冗談ではありませんよ。何もできない神に、慰めを与えていただけですよ」


にこっと微笑む男は、タキシードの裾をはたいだ。


「闇の使徒である貴方様が、神に祈るなど…ナンセンスじゃな」


老人の言葉に、タキシードの男は肩をすくめ、


「そうですかね。神だって、祈りたくなる時があるかもしれませんよ。助けてほしいとね」


その言葉に、老人は目を細めた。


「それが…闇の女神の本心…かな?」


「え?」


タキシードの男は、目を丸くした。


「女神は、我々に救いを求めている」


老人は、タキシードの男の瞳の奥を探るように、じっと見つめた。


「ほお〜」


タキシードの男は、感心したように背中を反らすと、


「これは、これは…」


つねに口許に讃えている笑みを封印した。


老人の後ろにいた闇に侵された者達にも、緊張が入る。


老人は、後ろの様子に気付き、


「お前達は、奥にいけ。ここからは、わしだけが話す」


礼拝堂から出ることを促した。


「し、しかし…」


最初は、躊躇っていた者達も、老人の前にいるタキシードの男の異様な雰囲気に、唾を飲んだ。


危険を感じ、その場から立ち去りたいが、その為には、タキシードの男の横を通らなければならない。


どうしたらいいのか…狼狽えてしまう者達に、タキシードの男はいつものように、笑いかけた。


「どうぞ。緊張なさらずに、皆さんには危害を加えませんよ」


その笑顔に、余計に体が凍りついたが、人々は知っていた。


言う通りにしなければいけないと。


何とか一歩を踏み出すと、まるで弓矢のように、人々は走り出した。


「皆さん。あまり急がすに。特に、生け贄を担いでる方は」


タキシードの男は、カルマを運ぶ男達に、笑顔を向けた。


「ひ、ひぃい!」


悲鳴を上げながら、タキシードの横を通りすぎる者達がいなくなると、礼拝堂に静けさが戻った。


タキシードの男はため息をつくと、目の前に立つ老人を見て、首を傾げた。


「おかしいですねえ。確か…脳は、最初に侵食されたはずなのに」


その言葉に、老人は歯を食い縛った。


「そうじゃ!しかし、まだ完全に侵食された訳ではないわ」


老人の腕から、皮膚や肉を突き破って骨が飛び出し、それが剣になった。


「元ブレイクショットの1人!鋼鉄の漸次!例え、闇に侵食されようが、己のやることは見失わん」


漸次は、剣を振り上げ、


「この一瞬の為!我は、最後の自我を残していた」


タキシードの男の脳天に向けて、振り落とした。


「この身が、人間でなくなろうとも!」


「いやはや」


タキシードの男は避けることなく、ただ首を横に振った。


「これだから、人間は嫌いです」


漸次の振るった剣は、タキシードの男に突き刺さることはなかった。


剣は、タキシードの男の頭上…数ミリ上で止まっていた。


漸次は感触で、それがどういうことかわかっていた。


見えない何かに、受け止められたのだ。


「な」


驚愕する漸次の目が、何もないはずの刃の下に、何かが形作られていくのをとらえた。


それは、闇。


刃の下だけに、闇が現れるのを目視できた。


タキシードの男と漸次の間に、1人の女が立っていた。


真っ黒な姿は、闇より黒い。


「ば、馬鹿な!」


漸次の振り下ろした剣は、その女の人差し指一本で止められていた。


女は、人差し指を弾いた。


すると、剣は弾かれ、漸次の両腕も上がった。


上段の構えのようになった漸次の胸が、露になる。


そこに、女は回し蹴りを喰らわした。


「うぎゃ!」


ふっ飛んだ漸次は、礼拝堂の床を転がった。


しかし、歴戦の勇者であった漸次は、すぐさま立ち上がった。


「ど、どうしてじゃあ!なぜ」


漸次は翼を広げ、体勢を整える為、その場から離脱しょうとした。


しかし、女はそれを許さなかった。


突然、後ろに現れた女は、漸次の翼を手刀で切り裂いた。


「ぎゃああ!」


悲鳴を上げる漸次を見て、タキシードの男は笑いを堪えていた。


「どうして、どうして!」


両方の翼を切り裂くと、女は漸次の足を払った。


尻餅をつく漸次。


「どうして!」


女の右足が、輝き出した。


「どうして!」


そして、女は漸次に向かって飛んだ。


「乙女ブラックがここにいる!!」


「月影キック」


漸次を蹴り飛ばし、床に着地した乙女ブラックは、呟くように言った。


「どうしてえええ!」


漸次の全身にヒビが入り.....そして、破裂した。


「す、素晴らしい!」


タキシードの男は、興奮気味に拍手をした。


乙女ブラックは、タキシードの男の方を向くと、無表情のまま…眼鏡を外した。


すると、変身が解け、1人の少女に戻った。


「ご苦労様でした」


タキシードの男は片膝をつき、少女に向かって頭を下げた。


「九鬼様」


そこに立つのは、紛れもなく九鬼真弓であった。


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