第156話 初めての口付け
「赤星…」
アルテミアの全身にも、矢が突き刺さっていた。
「浩一!」
アルテミアはまた、吐血した。
普段なら、この程度の攻撃は避けることはできた。
しかし、今のアルテミアにはその力がない。
(こんな…最後)
アルテミアの瞳から、涙が流れた。
悔し涙だ。
もう涙を流すことしかできない己も、恥じた。
「ああ…」
アルテミアの視界は、涙で曇っていた。
(せめて…)
アルテミアは目を瞑った。
瞼の裏では、はっきりを姿が見える。
(赤星に会いたい…)
もう一度だけ…会いたい。
「浩一…」
瞼を閉じていても、涙は流れた。
「初めてだね。下の名前で、呼んでくれたのは」
「え?」
温かく…とても、温かい声がした。
その声を聞くだけで、体が温まった。
「嬉しいよ」
目を開けると、まだぼやけているが、赤星浩一がいた。
「赤星…」
驚くアルテミアに、僕は微笑みかけ、ゆっくりと屈むと視線の位置を合わした。
「アルテミアの泣き顔なんて、初めて見た」
微笑む僕の顔に、アルテミアは思わず顔を背け、
「あ、あたしが泣くかよ!」
強がってみせた。
「そうだね…。アルテミアはおっかないから」
「な!」
アルテミアは、僕と話すだけで、元気になったように見えた。
(不思議だ…)
アルテミアは顔を背けながら、横目で僕を見つめた。
さっきまで、まったく動かなかったのに、首が動き、顔が微笑んでいるのがわかる。
アルテミアは初めて…実感した。
これが、愛するということなのだろう。
「アルテミア」
僕は真剣な顔になり、アルテミアの肩を持つと、引き寄せ抱き締めた。
「心配しないで…君は、死なない。死なせないから」
「あ、赤星!?」
僕が抱き締めた瞬間、突き刺さっていた矢は消滅した。
「今から…僕の血と力を上げる」
僕は初めて、アルテミアを抱き締めていた。
本当なら、嬉しいはずが…少し切なかった。
「赤星!」
アルテミアは、何とか離れようとした。
アルテミアには、これから…僕がやろうとしていることを理解できたからだろう。
「やめろ!肉体を失ってもいい!もう一度、お前と融合したらいい!」
僕は、首を横に振った。
そして、強く抱き締めた。
「君は…君の体でいてほしい」
「赤星!」
「最後に、君を抱けてよかった」
僕は体を離すと、アルテミアに笑顔を向けた。
「あ、赤星!」
「は、初めてだから…ご、ごめんね」
「ば、馬鹿!」
はにかみながら…僕はアルテミアの唇に、唇を重ねた。
そして、再び抱き締めた。
(赤星…)
アルテミアの頬に、涙が流れた。
それは、嬉しさの涙であったが、悲しみの涙でもあった。
アルテミアは、僕に抱かれながら…眠りについた。