第154話 幼なじみ
「ジェーン様!これ以上は悲しまないで頂きたい!」
次の日。
玉座に座りながらも、項垂れているジェーンに堪らず、ソリッドが叫んだ。
跪き、ジェーンに人類侵攻や対魔王軍に対する計画を述べていたが、あまりのやる気のなさに、ソリッドは我慢できなくなった。
「あなたは、アステカ王国の王女なんだ!この王国の行く末を案じ、いかにして生き残っていくかを思案する!それが、王の勤めであります」
ソリッドは顔をしかめると、
「それを…たかが、体が変わったくらいで、落ち込まれて!」
少し感情的になるソリッドに、隣で控えているカルマがたしなめた。
「言葉が過ぎるぞ。ソリッド」
ソリッドは言葉を止め、ちらっとカルマを見た。
ずっと頭を下げているカルマに、何か言い返そうとしたが、
「チッ!」
明らかに大きくした舌打ちをすると、ソリッドは玉座に背を向けた。
「気分が優れませぬ故」
そのまま玉座の間から、テレポートして消えた。
それでもジェーンは、顔を上げることはなかった。
しばらく、無言の時が過ぎた。
「…」
これ以上いても仕方がないと思ったカルマも、頭を下げ、玉座の間から消えようとした時…ジェーンは口を開いた。
「ここは…国と言えるのか…」
ぽつりと呟いた言葉に、カルマは顔を上げた。
「…」
言葉が出ないカルマに、ジェーンは言葉を続けた。
「まともに動ける者は、我等くらいしかいない。後は…長年の近親者同士の交わりで、種として崩壊しかけた者ばかり…」
「だからこそ!ジェーン様のように、精神を他者に入れかえ、肉体を新しく」
「フッ」
その言葉に、ジェーンは力なく笑った。
「ジェーン様…」
「だとすれば…精神は、我等かもしれないが、肉体は別物。もし、この体で子を授かったとしても…その子は、アステカの子であらず」
ジェーンは、玉座から立ち上がり、カルマの前まで歩いて来た。
「それとも、我は子を産むなというのか?」
ジェーンは屈むと、跪くカルマの頬に手を伸ばした。
「お前は、まだ若い」
ジェーンは微笑み、
「まだ…生まれたままの体だ。願わくは、この国から出て…外の世界で生きてほしい」
「そ、外の世界とは?」
カルマの体が、震えだした。
「普通の人間の社会だ」
ジェーンの言葉に、カルマは触れる手をすり抜け、立ち上がった。
「私は、アステカの守護神!この国を護る為に、存在します!」
ジェーンも立ち上がり、
「国を護るということは、何も戦うだけではない」
カルマの目を見つめた。
しかし、カルマは顔を背けると、
「私は、守護神です」
あまりにも、強固な意志に、ジェーンはカルマを哀れに思った。
つい最近までのジェーンなら、それも潔いと感心しただろう。
しかし、姿が変わり…あの男の知る自分ではなくなったことを知った時、ジェーンは自らの肉体を捨て、精神だけ残る自分に哀しみを覚えた。
これでは、地縛霊と変わらないのではないか。
アステカ王国に縛られた悪霊。
ジェーンは前の肉体が、焼却されたと知った時、言いようもない苦しさを味わっていた。
本当の自分は、すべて火葬されたのではないかと。
だとすれば、今の自分はなんだ。
それを、自分で見つけた時、ジェーンという存在は消えるであろう。
(私は…劣化した…ただの人形)
その人形は、大量生産された…粗悪品。
だからといって、これを捨てることはできない。
まだ…ボロボロになっていないのだから。
「ジェーン様…」
カルマはやっと、ジェーンの苦しみを理解できた。
しかし、守護神として、アステカ王国の中でもずば抜けた肉体を持ち、若さを兼ね備えたカルマには、すべてわかるはずもない。
そして、まだ…真の意味で、人を愛したことのない戦士は、痛みの本質を理解はできない。
まだ愛とは気付いていないが…ソリッドの方が、心の奥で痛みは知っているだろう。
しかし、向き合っていない愛など、所詮…逃げ道が多い…ただの戯れ言だ。
「私は、この国を護ります!」
カルマの言葉に、ジェーンはゆっくりと首を横に振った。
「種族としての限界が来ている。外の人間と交わり、子を作らなければ…アステカ王国の未来はない」
「他と交わってしまえば!アステカ人にあらず!」
「だったら…」
ジェーンは、自らの胸をぎゅと握りしめ、
「私は、アステカ人ではないわ」
「あ…」
ジェーンの言葉に、カルマは絶句した。
そうだ。
明菜の肉体を奪ったジェーンは、アステカ人の体ではない。
カルマの反応に、ジェーンは悲しく微笑んだ。
「その通りよ。私は、もうアステカ人ではないのよ」
「そ、それは…」
カルマは無意識の内に、ジェーンから後退った。
「私は…ただの…」
「ただのなんだ?」
突然、玉座の後ろから声が聞こえてきた。
「!?」
驚いた2人が振り返ると、玉座の背もたれに後ろからもたれて、腕を組むアルテミアがいた。
「天空の女神!」
アルテミアの姿を認めた瞬間、カルマはテレポートすると、アルテミアの死角に現れ、サイコキネッシスを発動しょうとした。
「な!」
手を突きだしたカルマの前に、アルテミアがいない。
「超能力が、万能だと思うな」
逆に、カルマの死角に現れたアルテミアの手刀が、カルマの首筋を強打した。
崩れ落ちるカルマ。一撃で、気絶した。
「カルマ!」
駆け寄ろうとするジェーンに、アルテミアの殺気が飛んだ。
「な!」
ジェーンの足がすくみ、動けなくなった。
「自分らの都合で、明菜の肉体を奪っておいて!自分は、アステカ人ではなくなっただと!」
アルテミアの瞳が、赤く輝いた。
「人の体を弄んでおいて!悲劇を気取るな!!」
アルテミアの怒気が、アステカ王国を揺らした。
「ジェーン様!」
玉座の間に、ソリッドや側近達がテレポートしてきた。
アルテミアの姿を見つけ、ソリッド達は絶句した。
「て、天空のめ、女神!どうやって、ここに!?」
先日、王国の外壁を破壊されたことにより、アステカ王国は幾重にも結界を重ね、アルテミアの力も計算して、強固に防御壁を張り直したばかりだった。
「フン!」
アルテミアは鼻を鳴らすと、
「今のあたしに、こんな結界など意味がない」
一歩前に出た。
自分の肉体を取り戻したアルテミアは、女神本来の力を発揮できた。
そして、そんなアルテミアの前には、自分の肉体を失った女が1人。
「落とし前をつけて貰う!」
アルテミアの手に、ライトニングソードが握られた。
「さ、させるか!」
ソリッド達は、アルテミアに向けて手を突きだした。
「フン!」
アルテミアは、ライトニングソードを一振りした。
目に見えない光や空間すら斬り裂くライトニングソードは、ソリッド達が放ったサイコキネッシスを斬り裂いた。
「え?」
ソリッド達には、自ら放ったサイコキネッシスの軌跡を見ることはできない。
ただアルテミアが、ふっ飛ばなかったのがわかった。
アルテミアは回転し、二撃目を放った。
「ライトニングアーム!」
「うわああ!」
ソリッド達の全身が、輝いた。その為、一瞬だけ電気の網で絡まっているのわかったが、光はすぐに消えた。
と同時に、ソリッド達は気を失った。
「ソリッド!」
崩れ落ちるソリッド達の様子に、ジェーンは愕然とした。
アルテミアは、ライトニングソードを突きだしながら、ジェーンとの距離を詰めていく。
「終わりだ!」
「いや!」
ジェーンは、両手を突きだした。
ソリッド達全員の力よりも、協力なサイコキネッシスが放たれたが、簡単に斬り裂いた。
「死にたくなっていた癖に、いざとなると、怖いのか!」
とめどもなく放たれる念動力に、アルテミアは斬るのを止めた。
ライトニングソードを突きだすと、まるで岩が川の流れを変えるように、切っ先から左右に拡散させた。
「終わりだ」
アルテミアは、ジェーンの目の前まで来ると、下から蹴りを放ち、両腕を突き上げると、一瞬で後ろに回った。
そして、ジェーンの首筋に刃を突きつけた。
「い、いや…」
ジェーンは、テレポートで逃げようとしたが、ライトニングソードの刃が肌にはり付き、能力が発動できない。
アルテミアはゆっくりと、握る手に力を込め、ライトニングソードを押した。
首筋に少し食い込んだ刃に、すうと血が流れた。
冷静に、ジェーンの動きに注意しながら、アルテミアはライトニングソードを押し込んでいく。
本当なら一気に、首を跳ねることは可能だった。
しかし、冷静を装いながら…アルテミアの心は揺れていた。
(明菜!)
なぜならば、目の前にあるのは、まごうことなく明菜の体だからだ。
そんなに親しかった訳ではない。
ただ一度、一言二言話しただけだ。
だけど、それだけで…心を通わすことができた存在であった。
同じ男を愛する女として。
(赤星に殺される前に…あたしが一気に!)
アルテミアは心の中で、目を瞑った。
そして、明菜の首を跳ねようとした時、アルテミアの手を誰かが掴んだ。
「よかった…間に合った」
力強い腕とは逆に、ほっと安堵の息を吐いたのは、ジャスティンだった。
「お、お前は!?」
気配さえ感じさせずに現れたジャスティンに、アルテミアは驚いた。
「少し寄り道をしたが…何とかギリギリだったな」
ジャスティンは、アルテミアの腕の下から肩を入れると、強引にジェーンから引き離した。
「ジャスティン…」
ジェーンの頬に、涙が流れた。
「どうして、ここに!?」
少しふらついたが、体勢を整えたアルテミアは、ジャスティンを睨んだ。
ジャスティンは、ジェーンを見つめながら、
「アステカが、赤星君を狙っているのは知っていた。だが、どのような手を使うのかわからなかった故、前回招待された時に、盗聴器を仕掛けておいた。玉座の裏にね」
「盗聴器だと!?」
ジャスティンの登場で、心が乱れているジェーンに変わって、アルテミアが訊いた。
「魔力を使ったものは、さすがに感知されるだろうが…」
玉座の裏からは、魔力を感じない。
「機械…つまり、科学を使った単純な物は、気付かない」
ジャスティンが仕掛けた盗聴器は、赤星の世界のものと似ていたが、深海にあるアステカから声を受信できることから、かなり高性能であった。
「それに、この国は長年潜んでいた為に、防犯システムが甘い」
ジャスティンは、アルテミアを目だけを向け、
「今…お前が、やろうとしていたことがわかっているのか?」
「ク!」
アルテミアはライトニングソードを下ろし、ジャスティンから顔を背けた。
「今のジェーンは、赤星くんの幼なじみの体を使っている。彼女を殺せば、赤星くんがどんなに悲しむことか、わからないはずがあるまいて」
その言葉に、アルテミアは体を震わせると、ジャスティンを睨んだ。
「だが!こいつは、乗り移ったとか操っているではない!明菜の脳に、直接この女の記憶と思考を植え付けたんだ!」
アルテミアはライトニングソードを構え直すと、ジェーンに向けた。
「アルテミア…」
「赤星は、こいつに手を出せない!明菜の体を使っているこいつには!だから、また!あいつが苦しむ前に!いや!もうあいつは、苦しんでいる!」
アルテミアは、一歩前に出た。
「あたしは、あいつの為に…この世界の為に戦うあいつの負担を、軽くしたい!だから…あたしが、殺すしかないんだ!」
アルテミアの決意の強さと切ない思いにに、ジャスティンは目を見開いた。
(あの女神が…男の為に…)
ジャスティンは、アルテミアの変化を知った。
(いつのまにか…人の痛みを知る…女になったのか)
ジャスティンは、アルテミアの成長に感慨深くなっていたが、今はそんな場合ではない。
だからこそ、止めなければいけない。
(悲しみを自ら…背負うことのできる者。それも…愛する男の為に…愛する男の幼なじみを斬ることができる者に…それは、絶対させてはいけない!)
ジャスティンは、アルテミアとジェーンの間に割って入った。
(そのような者は、背負うだけで…悲しみを癒すことはできない!いつまでも、悔やむ!)
ジャスティンは、アルテミアを見つめ、
(なぜなら…その者は、優し過ぎるからだ)
「どけ!」
アルテミアはライトニングソードの切っ先を、地面と平行にした。
「例え…お母様の知り合いとはいえ!どかないなら、その女ごと斬る!」
アルテミアの言葉に、ジャスティンは笑った。
「何がおかしい!」
「お母様か…」
ジャスティンは、アルテミアの手にあるライトニングソードに視線を移し、
「先輩ならば…そんな単純な手段を選ばない!ただ相手を殺すだけなんてな!」
ジャスティンは視線をアルテミアに戻し、
「例え無理だとしても、他を助ける為に考え、苦しみ、努力する!先輩ならば!」
ジャスティンは手を伸ばし、ライトニングソードの刃を握り締めた。
「殺さない!」
力を込めた手から、床に血が流れ落ちた。
「え!」
アルテミアの表情が変わる。張りつめていた顔が緩んだ。
その瞬間、ライトニングソードは消え、二つの回転する物体に戻った。
「アルテミア…何とかなる!いや、何とかする」
ジャスティンは、優しくアルテミアに頷いた。
「ジャスティン…」
アルテミアの体から、力が抜けていく。
「心配するな」
ジャスティンは、傷を癒すことなく、拳を握り締めた。
「ジャスティン?」
後ろからか細い声がして、ジャスティンは振り返った。
床に崩れ落ちていたジェーンが、顔を上げていた。
「ジェーン…」
ジャスティンの口から、その名を聞いた瞬間、ジェーンの瞳からまた涙が流れた。
「あたしは、ジェーンなの?あたしをジェーンだとわかるの?」
ジャスティンは静かに、頷いた。
「あたしを、ジェーンだと理解してくれるの?」
ジャスティンは頷いた。
ジェーンの涙は止まらない。
「あたしを…これからも、ジェーンとして、扱ってくれるの?」
ジャスティンの動きが止まった。
「ジャスティン?」
ジェーンは大きく、目を見開き、
「ジャスティン!」
「…」
ジャスティンは一度深呼吸をすると、首を横に振った。
「ジャスティン!」
その悲痛な叫びにも、ジャスティンは再び…首を縦に振ることはなかった。
「ジャスティン!!」
ジェーンは立ち上がると、ジャスティンにすがり付いてきた。
「…」
一瞬目を瞑り、顔を背けそうになったジャスティンは…意を決して、その場から消えた。
「テレポート…」
掴んでいたジャスティンの上着の感触が消えた。
「ジェーン…」
少し距離を取り、真後ろに現れたジャスティンはジェーンの背中を見つめ、
「俺が知った頃の君が、オリジナルの体だったかは、わからないが…」
ジェーンは振り返った。
「俺にとっての君は、あの姿の君だ」
きっぱりと言い切ったジャスティンに、ジェーンの瞳から…これまでで一番の大粒の涙が流れた。
「君は…」
ジャスティンは、その涙に心が揺らいだが、決定的な真実を突き付けた。
「劣化したコピーだ。ジェーンとしての記憶と、人格をコピーしただけの…」
「いや!」
その言葉を遮るように、ジェーンの手から、サイコキネッシスが放たれた。
部屋にあった玉座が、一瞬で塵になった。
「人形だ」
ジャスティンは、再びジェーンの後ろに現れた。
ジェーンはすぐに振り返ると、再びサイコキネッシスを放つが、ジャスティンには当たらない。
腕を組んで、様子を見守っているアルテミアの真横の壁に、すり鉢状の穴があいた。
「あたしは!あたしよ!」
ジェーンが叫ぶ度に、壁に穴があいていく。
だが、ジャスティンに当たることはない。
「念動力は、万能ではない。魔力のように、具体的な色がないだけだ」
ジャスティンは、サイコキネッシスを避けながら、
「放つ対象と、狙う的さえわかれば、避けること容易だ!」
姿が消えた。
「その的とは、俺!君が狙っているのは、俺だけだ」
ジェーンの耳元で、ジャスティンの声がした。
「いやああ!」
ジェーンは振り向き、ジャスティンに手のひらを向けた。
今度は、ジャスティンは消えない。
「あたしは!あたしよ!」
サイコキネッシスが放たれた…はずだった。
玉座の間に、変化は起きなかった。
無防備なジャスティンも、ダメージを受けていない。
「超能力は、魔法のように…他と契約することもなく、自由に使える素晴らしい力だ」
ジャスティンは、ゆっくりと歩きだす。
「しかし…人の精神力を使う限りは、無尽蔵ではない」
ジェーンの手が震えた。
ジャスティンは悲しく微笑み、
「終わりだよ…ジェーン。しばらくは超能力は使えない」
「ジャ、ジャスティン…」
ジェーンは、近づいてくるジャスティンの様子に明らかに、今までと違う雰囲気を感じ取っていた。
「ジェーン…」
ジャスティンは優しく…できるだけ優しい表情を浮かべ、手を突きだした。
「さようなら」
ジャスティンは表情とは逆に、肉体は鋭さを増す。
揃えた指先が、まるで刃物のように輝く。
「ジャスティン…?」
ジェーンは悟った。これから、起こることを。
だけど、それでも信じられなかった。
ジャスティンが、自分にそのようなことをするはずがないと。
ジャスティンの手刀が、ジェーンに突き刺さる刹那、ジャスティンの手首を、アルテミアが掴んだ。
「えらそうに言っておいて…結局、やることは一緒かよ」
アルテミアの呆れたような言い方に、ジャスティンはフッと笑った。
「同じではないよ。いろいろ考えた結論だ」
「どこがだ!」
アルテミアは、ジャスティンの手を振りほどいた。
「アルテミア…」
ジャスティンは少し、ジェーンから離れると、アルテミアの方を向き、
「お前が手をかけるのと、俺が手をかけるのでは、意味が違う。俺は、赤星くんに恨まれても、この子達に恨まれても、大丈夫だ」
ジャスティンは、腰が抜けたのかその場で崩れ落ち…自失呆然になっているジェーンを見下ろした。
「だから…俺が、終わらせる」
ジャスティンは、再び手刀を作り出した。
「馬鹿か!」
アルテミアは、ジャスティンの肩を後ろから掴んだ。
その瞬間、アルテミアの手を振りほどいたジャスティンは、回し蹴りを放つ。
アルテミアも同時に放っており、蹴りと蹴りとがクロスする。
「何!?」
バランスを崩したのは、ジャスティンの方だった。
いつのまにか黒いボンテージ姿に、モード・チェンジしていたアルテミアは、蹴り足を床につけると体を捻り、逆足で二撃目を食らわした。
「チッ」
ジャスティンは蹴りの流れる方向に、自らジャンプすると、威力を逃がした。
その行動の為、ジャスティンはジェーンから離れてしまった。
アルテミアはその隙にジェーンに近づくと膝をつけ、呆けているジェーンの両方の耳に手を当てた。
「さっきから考えていた。こいつの脳は、真っ白にして、新しくすべて書きかえた訳じゃない。ただ…明菜の記憶の上に、新しく書き込んだだけだ!」
アルテミアは、ジェーンの目を見つめ、
「だったら、できるはずだ!」
アルテミアの手を輝きだした。
「脳の伝達や信号は、微弱な電波で行われている!」
「アルテミア!」
ジャスティンは、アルテミアのやろうとしていることがわかった。
「あたしは、天空の女神!雷鳴の女神でもある!電流なら、操れる!」
「できるのか?」
「多分…だけど、あまりに微弱な電流だから…調整が難しい。こんな細かいこと…普段やったことがない」
いつものアルテミアを知る者なら、彼女から繊細さを感じることはないだろう。
「あああ…」
ジェーンの頭が小刻みに震え、白目を向く。
「明菜!」
アルテミアは叫んだ。
「目を覚ませ!自分を取り戻せ!」
アルテミアは、明菜の眠っている意識を揺り起こそうとした。
ジェーンの人格によって、奥に隠され、抑えられた明菜の人格が、再び戻ってくるように。