第14話 僕は....
朝の眩しい光が、僕を包んだ。
学校への道を歩いていく僕と、すれ違う自転車や車。
だだっ広い一本道をとぼとぼ歩いている僕に、苛ついたように、後ろからクラクションが鳴った。
僕の隣を通り過ぎた…無駄に大きい外車の窓から、二十歳ぐらいの男が睨んだ。
僕はその男を、横目で見送りながら、苛立ちもむかつきも覚えず、ただ呟いた。
「平和か…」
空を見上げても、ドラゴンもいない。
この道の先に、魔物が待ちかまえてるわけでもない。
僕は、道の端で足を止めた。
なぜか、違和感を感じた。
(今…僕は…)
太陽の眩しさも、街の喧騒も、平和なのにどこか疲れた大人達も、自分と同い年の学生も、今の自分とは違う。
「やらなくちゃならないんだ…」
僕は、学生達の流れとは逆を走り出した。
(僕は…逃げてた)
登校する生徒達をかき分け、僕は全力で走った。
「赤星君?」
僕の目には、生徒達も映らない。
憧れの矢崎絵里が、横を通っても。
家へ帰る途中、幼なじみの明菜の家の前に来ると、僕は足を止め…頭を下げた。
「きっと助け出す」
僕は、必ず助けてみせる。
自分の家につくと、息を吐いた。母親はパートに行ってる為、中には誰もいない。
だけど、そおっと家に入った。
靴を下駄箱にしまうと、僕はゆっくりと階段を上り、部屋のドアノブを掴むと一気に中に入り、そのまま鍵をかけ、ベッドに飛び込んだ。
「行こう…あの世界へ」
無理やり、目を瞑ったけど、眠くないから寝れない。
15分間…眠れなかった僕は、仕方なく…呟いた。
「モード・チェンジ」
僕は、異世界の海岸にいた。
もう日は昇り、海岸を犬を連れて、散歩する人もいた。
海岸の右向こうにある港からは、汽笛を上げて、戦艦が出航していった。
もうロバートはいない。
テントがあった岩場から階段を下りて、砂浜に入った僕は…迷わずに波際まで歩いていった。
歩くたびに、スニーカーが砂に足を取られるけど、気にせずに歩いていく。
波が、スニーカーの先に当たる所まで来て、
「危ない!」
犬を連れて、散歩していた白髪のお爺さんが慌てて、僕に声をかけた。
「ここの海は、魔物の海じゃ!装備もなく、入っちゃいかん」
「ありがとうございます」
僕はお爺さんの忠告に、素直にお礼を述べた。
自然と、笑みがこぼれた。
「でも、大丈夫ですから」
僕は学生服の胸ポケットから、カードを取り出した。
「召喚!」
僕は海を渡る為の物を、頭に描いた。
番号を打てば、召還できるものを指定でできるが、想像した場合ポイント残高とレベルで決まる。
すると、空間を破り、フライングアーマーが飛び出してきた。
昔の僕なら、装着できなかった。
海に向かってジャンプした僕の背中に、フライングアーマーが装着され、海に落ちる寸前、海面ギリギリを疾走した。
左右に、水飛沫を上げながら飛ぶ僕は、すぐに浅瀬を過ぎた。
海の中から殺気を感じ、海面の底を見た僕は体を起こし、一気に上昇した。
と同時に、周りから巨大な水飛沫が上がり、中から数え切れないくらいの魔物が、襲いかかってきた。
魚の顔をした半魚人や翼の生えた鮫、巨大な海蛇…。
いちいち確認してる暇はない。
「いけ〜え!」
フライングアーマーのバックパックが開き、数十発のミサイルを発射した。
そして、僕は手に炎で作ったマシンガンを持ち、ただ連射した。
ミサイルが空になったフライングアーマーを外すと、そのまま海蛇にぶつけた。
僕はすぐさま、新たなフライングアーマーを召喚し、ミサイルを発射し続けた。
(ポイント、ゲット)
と召喚を繰り返し、増えても、ポイントが減っていく。
しかし、ある程度魔物を退治していくと、減りよりも増えるスピードが、増して来た。
「だけど…数が多過ぎる」
壁のように、次々と立ち塞がる魔物達。
さっきから、あまり進んでいなかった。
前に行こうとしても、連携しているのか…上手いこと進路を、塞がれていた。
右に旋回したら右を、左に旋回したら、左を塞ぐように、海から魔物が飛び出して来た。
「チッ」
僕は舌打ちした。
このままでは、ポイントが減らなくても、体力がもたない。
食人飛び魚の群が、海面から顔を出し、口から物凄い水圧をかけた水鉄砲を一斉に、僕に向かって発射した。
何とか、炎のバリアーを張ったけど、フライングアーマーの両羽根は貫かれ、破壊された。
バランスを失い、落下する僕を目掛けて、魔物は一斉に、僕に襲いかかってきた。
気が動転している為、反撃をすることもできない。
食人飛び魚がまた一斉に、水鉄砲を放とうとした時、空気を切り裂くような鋭い音がした。
「え?」
飛び魚達の頭が、一斉に胴体から、離れ…落ちた。
「え?」
目に見えない程のスピードで飛ぶ謎の物体は、微かだが…朝日に反射した。
物体、2つある。
「刃物?」
僕は冷静さを取り戻し、何とか、背中のバーニアを点火させ、体勢を反転させると、足からの落下に変えた。
光の残像は時折、乱反射しながら、魔物達の間を飛び回り、切り刻んでいく。
「召喚できない!」
落下速度が早く、フライングアーマーのバーニアでも、殺せない。
新たなフライングアーマーを召還しょうにも、故障したのか…背中から離れない。
足から、海面に激突する。
そう確信した…その瞬間。
魔物を切り刻んでいた2つの物体が、天高く舞い上がり、空中で合体すると…一つの物体になり、信じられないスピードで、落ちていく僕を追った。
海面に、激突する刹那、僕は光の上にいた。
「チェンジ・ザ・ハート!」
僕は、その回転する光の物体に見覚えがあった。
アルテミア専用の万能武器。
「どうして?」
だけど、考えてる余裕はなかった。
僕はバランスを取りながら、チェンジ・ザ・ハートの上に立つと、炎のバズーカを想像し、前方に向かって乱射した。
チェンジ・ザ・ハートは、迫り来る魔物達を凪ぎ払いながら、ただ前に進んでいった。
「近づいているな…」
ぐったりと意識を失った明菜を、傍らに寝かせて、バイラは大陸の遥か向こうで、繰り広げられている戦いの気を感じていた。
「女神の片割れがくると」
ギラは、実世界でいう日本海の方を見た。
かつて、38度線にあった結界。
今はもうなく、新たな結界は、遥か後方に張られていた。
バイラ達は、38度線から北に川を渡った山の頂上に、陣を張っていた。
「折角、もとの場所をあけているのにな」
ギラは、人の臆病さを笑った。
「まあ…我らが近くにいるのだから…仕方あるまい」
山の麓から山頂まで立ち並ぶ天空の騎士団の旗印が、風に靡いていた。
「フン」
バイラは、鼻で笑った。
ギラは、その仕草の理由が分からず、少しバイラを見た。
バイラは無表情で、明菜を見ていた。
明菜の左手についた、指輪を。
ギラは視線を外し、山頂の一番端で1人佇むサラの背中を見た。
「サラ…」
サラは日本海とは違う場所を、軽く睨んでいた。
「信じられん…」
サラの呟きに気づき、ギラは彼女に近寄った。
「どうした?」
ギラは、サラの顔を覗き込んだ。
サラは、嬉しそうに笑っていた。
そんなサラの表情を見て、ギラは訝しげに首を捻った。
「少し用ができた。すぐに、戻る」
サラはそう言うと、蝙蝠の羽を広げ、山頂から下界に向けて下りていった。
「サラ!勝手に、持ち場を離れるな」
ギラが制そうとしたら、後ろから声がした。
「好きにさせてやれ」
バイラは指輪から視線を離さずに、口を動かした。
「しかし、今は」
ギラの言葉を遮るように、バイラは明菜を抱きかかえると、その場から背を向けて歩き出した。
「どいつも、こいつも」
ギラはため息をつくと、両手を組み、1人で臨戦態勢に入っていた。
ギラの脳裏に、アルテミアの姿が浮かぶ。
巨大な蝙蝠の羽を広げ、圧倒的な魔力で、防衛軍が送り込んだ勇者達を、指先1つで皆殺しにするアルテミア。
後ろで控えるギラ達は、その魔力に震えが止まらなくなっていた。
自分達に向けられていないことは、わかっていても、恐怖は拭えなかった。
(ギラ)
それに気付いたのか…アルテミアは、勇者の首筋に噛みついたのをやめ、ギラの方に振り返った。
「どうかしたのか?」
顔を向けたアルテミアの口元が、血で真っ赤だ。
「いえ…」
ギラは自分でも血を吸うが、その時のアルテミアには、異様な殺気を感じていた。
ギラは、その場で深々と頭を下げた。
(クスッ)
アルテミアは笑った。
かなわない存在。
「今は、昔より…格段に、弱くなったというが…」
ギラの額に、冷や汗が滲んだ。
「信じられん」
ギラは緊張と恐怖に、体を強ばらせた。
その頃、僕はやっと…大陸の岸辺に、辿り着いていた。
浅瀬から何とか抜け出し、砂浜につけた足跡をすぐに波に消されながら、海からやっと抜け出した。
遠くの方から汽笛が聞こえ、昨日の夜、日本を出航した船がドックに入っていくのが見えた。
しかし、煙が上がっており、船は半壊していた。
僕が海を渡っている時、船は魔物に襲われ、沈みかけていた.
だけど、僕が他の魔物と戦いながら近づくと、襲っていた全魔物は船から僕へと攻撃対象を変え、襲いかかってきた。
「おかげで…レベルは上がり、ポイントも入ったけど…」
僕は、ポイントカードを確認した。
「げ!」
僕は、目を疑った。
「あんなに…戦ったのに」
ポイントは貯まったけどレベルが…1しか、上がっていなかった。
確かに、レベルが上にいけばいく程、レベルアップには時間がかかるとは、きいていたけど…。
がくっと肩を落とし、ため息をついて、砂浜に横になった。
すると、僕は疲れから…眠ってしまい、少しだけ実世界のベットに戻ってしまった。