第149話 親
かつて、この世界には、異世界から来た…心優しき勇者がいた。
その名は、赤星浩一。
太陽のバンパイアといわれた彼。
異世界から来たエトランゼは、この世界の人々の為に戦った。
天空のエトランゼ-太陽のバンパイア-第二部にして、赤星浩一の章…ラスト。
彼は如何にして、伝説になったのか。
その物語が始まる。
深い闇…質量さえ、いや、何もないのに、闇という何もない空間に、存在感を感じた。
そんな闇の中で、さらなる闇を思わせる存在は、その中心で、ただ目をつぶっていた。
「何のようだ…」
闇が話した。
そして、ゆっくりと瞼を開くと、空間に赤い光が、2つ浮遊していた。
その血のような瞳に、対する闇は笑った。
「何のよう?」
笑う闇もまた、瞼を開けた。
「わかっているはずだが?それとも、何か?」
闇が縁取られていく。
闇よりも濃い闇が、人の形を取る。
「お前には…もう…そういう気持ちが、なくなったのか?」
人の形を取った闇が、右手の人差し指を上に向けると、闇に光が灯った。
「ティアナだけを思う気持ちは、残し…娘への思いはなくしたのか?」
「…それは、お前の役目だろ」
明かりがついた部屋の中央で、玉座に座る…魔王。
「そうだったな」
その魔王の前に立つバイラ。
バイラは、魔王を睨む。
「だが…いや!だからこそ、お前から、返して貰わねばならないものがある」
魔王は、苦笑した。
「…フン。なるほどな。親心にでも、目覚めたか?」
「そうかもしれない!俺は、ライ!お前と違い…あの子のそばにいたからな」
バイラの3本の角が、放電し出す。
その様子を見て、ライはせせら笑った。
「お前が、私に勝てるはずがない。お前の力は、私の3分の1にも満たない」
「そうだな」
バイラはそれでも、ライから目を離さない。
ライは眉を寄せ、
「お前!?」
バイラの覚悟を感じた。
バイラの目が赤く光り、全身の魔力が上がっていく。
「お前の分身である俺は、お前に勝つことはできない!しかし、我が女神…我が娘の為に!」
バイラは、玉座に一歩足を出した。
「我が娘アルテミアの為に!」
ライは、目を見開いた。
「お、お前!」
バイラの両手が、電流でスパークした。
「いずれは、この体はお前に吸収され、消える!ならば、その前に!」
玉座に座るライに向かって、バイラは飛んだ。
「一度くらいは、娘の為に!」
「愚かな!」
ライの瞳も輝いた。
「返して貰うぞ!娘の体を!」
電気の刃と化した手刀を、ライに向かって、突きだした。
「父親だと!魔王の分身が!」
ライは玉座から、立ち上がった。
圧倒的な魔力を感じながらも、バイラは前に出た。
「お前は、怖いのだ!愛する者をまた、失うことが!母親を手にかけ、愛するティアナさえ、守れなかった!だから、貴様は!」
バイラの手刀が、ライを貫く。
「もう失いたくないのだ!魔王でありながら、お前は…悲しみを背負ってしまった!」
「だから、どうした?」
ライは、バイラを睨んだ。
バイラの手刀は、確実にライの心臓を貫通いていた。
なのに…。
「クッ」
バイラは、顔をしかめた。
「憐れな…」
ライはバイラに向かって、フツと笑った。。
「これが…もしかしたら、我の結果だったのかもしれない」
「悪くない」
バイラは笑った。
「我は、魔王だ!」
ライの鋭い声が、空気を切り裂き、バイラをも切り裂いた。
「親ではないわ」
「フン…」
バイラの体が、分解されていく。原子レベルで。
「まあ…いい」
バイラは笑った。
ライを見ながら、
「お前は、ティアナだけは否定はできない」
そして、分離されていく残った左手を、ライに向けた。
「バイラブレイク!」
雷鳴が、炸裂した。
「だが…」
ライは目を瞑った。
「ティアナは…もういない」
呟くように言った。