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第148話 勇者

防衛軍が、すべてを守れる訳ではない。


何の助けも来ないで、滅びる町もある。


「お母さん!」


母親と2人逃げる少年は、何かに追われていた。


それは、魔物だ。


彼らが住んでいた町は、翼ある魔物達に攻められ、皆殺しにされた。


唯一町外れにあった少年の家族だけが、逃げ延びることができた。


トラックに乗り込み、父親と逃げたけど…魔物の追撃は速く、トラックは破壊された。


魔法が使えた父親は、2人が逃げる時間を稼ぐ為に、カードを取り出した。


「安全な町で暮らす為に、今までためたポイントを!使ってやるわ」


家族で一軒家を買う為にためた一万ポイントを、父親はミサイルを召喚するのに使った。


空を飛び回る魔物を遊撃するミサイルの束。


しかし、それだけでは勝てないことはわかっていた。


「逃げろ!防衛軍の管轄地である町まで」


トラックは、町まであと数十キの距離に来ていた。


しかし、徒歩では町に着く前に、魔物達に捕まる。


何もない草原には、隠れる場所がない。


母親は自分のカードを取り出し、確認した。


「ポール…」


母親は、自分のカードをポールに渡し、


「このポイントを使い、あなたはお逃げなさい。1人用のホバーバイクなら召喚できます」


「で、でも!お、お母さんは?」


「あたしはいいの」


母親はポールに笑いかけ、


「あなたさえ…生きてくれたら」


ポールの頭を優しく撫でた。


その瞬間、母親の体に槍が背中から突き刺さった。


「ポール…早く…」


心臓を一突きされた母親は、血を流しながら、その場で倒れた。


ポールにカードを押しつけて。


「お母さん!」


カードを握りしめ、母親にすがり付くポールの頭上を、数百の突き翼ある魔物が旋回していた。


「お母さん!」


ポールの絶叫も、翼ある魔物達の嘲るような笑い声にかき消された。


もうポールには、逃げる時間なんてなかった。


「人間の男は、食う気がしなかったが…女は別だ!それに、子供は男でも、柔らかいからなあ」


ポールの頭上で舌舐めずりする魔物達。


「女も、固くなる前に…食わないと!」


そんな魔物達のことより、母親を殺された悲しさがポールを動けなくしていた。


母親の遺体にすがり付くポールに、魔物達が上空から襲い掛かる。


「お母さん!」


ポールは目をつぶった。


母の死のショックで、動けなくなっていたのだ。




「ぐぎゃあ!」


悲鳴はポールではなく、魔物達から発せられた。


「おい!そこの人間のガキ!」


「え?」


ポールは、そばに誰か立った気配に気付き、目を開くと顔を上げた。


前に立つ細身で、背が高い女。


長いブロンドの髪が、魔物達の翼がおこす風に靡いていた。


さらに、ポールが顔を上げると、上空で回転する物体が、魔物達を蹴散らしていた。


「お前が握り締めているのは…例のカードか?」


「え!」


ポールは突然の質問に、答えられない。


「知らないのか?人間が魔力を使う為に、必要なカードかときいている」


ブロンドの女は振り返り、ポールを見た。


ポールはあまりの美しさに、息を飲んだ。


ブロンドの美女は、そんなポールを目を細めて見ると、


「魔物の数が多い!このままでは、あたしもお前も殺される…。だから、あたしにそのカードを…」


渡せという前に、ポールはブロンドの美女にカードを差し出した。


「天使様だ」


感嘆の声を上げるポールを、ブロンドの美女は訝しげに見つめた。


「本で見たことがあるもん!天使様だ…天使様が助けに来たんだ!」


「天使って…どんな姿だ?」


あまりのポールの羨望の眼差しに、ブロンドの美女は鼻をかいた。


「とっても綺麗で…白い翼が生えてるの!」


「そうか」


ブロンドの美女は、カードを受け取ると、軽く笑みを浮かべ、叫んだ。


「モード・チェンジ!」


その瞬間、ブロンドの美女は姿が変わり…まるで、本当に天使のような姿になった。


エンジェル・モード。


魔王の娘であるアルテミアが、悪魔の姿を捨てた瞬間であった。


白き翼を広げ、再び天を翔るアルテミア。


しかし、アルテミアの目に映るのは、地上で見上げるポールの姿。


「一気に終わらす!」


空中を飛び回っていたチェンジ・ザ・ハートが、アルテミアの手に戻り、槍へと変わる。


「くらえ!」


カードが反応し、アルテミアの魔力が戻り、魔力が上がっていく。


「A Blow Of Goddess!」


風が起こり、カマイチが魔物を切り裂き、そして、雷鳴が空を破壊した。


女神の一撃。


その名の通り、一撃で魔物の軍団はすべて消滅した。


「チッ」


しかし、アルテミアは舌打ちした。


明らかに破壊力が落ちていた。


それに…たった一撃で、カードのポイントを使いきり、天使の姿から元に戻ったアルテミアは地上に降り立った。


「すまない。ポイント、すべて使ってしまった」


申し訳なさそうに、カードをポールに返そうとした。


だけど、ポールは受け取らなかった。


「これ…天使様にあげる」


「え?」


「天使様持ってないんでしょ!お母さんの敵もとってくれたし」


ポールの笑顔に、アルテミアは照れた。何とも言えない感じになってしまった。


まだ草原は危ないから、アルテミアはポールを、目的の町まで送った。


「ありがとう!天使様」


手を振り、町へ向かおうとしたポールは足を止めて、アルテミアを見た。


「天使様のお名前は何って言うの?」


「え?」


ポールの無垢な瞳に、アルテミアは素直に答えてしまった。


「アルテミア…アートウッド」


「アルテミア・アートウッド様!ありがとう!」


手を振り、走り去っていくポールを、アルテミアはしばらく見つめていった。


町の中に消えて見えなくなっても、アルテミアはしばらく視線を外せなかった。


アルテミアはカードを握り締め、町に背を向けた。


「あたしは、強くなる!」


アルテミアの目の前に、仲間が殺られた為、仇討ちに来た魔物の大群が向かってくるのが見えた。


町に行かす訳にはいかない。


アルテミアは、チェンジ・ザ・ハートをトンファーにすると、ゆっくりと歩き出した。


アルテミアの手にあるカードは、零になったはずなのに…ポイントが増えていた。


さっき魔物を倒したポイントが、加算されたのだ。


「あたしは…アルテミア・アートウッド!勇者ティアナ・アートウッドの娘だ!」


アルテミアは再び白き翼を広げると、たった1人で向かっていった。


そして、この戦いが今につながる始まりとなった。





数年後、アルテミアは魔王と戦い、敗北する。


その敗北により、肉体を失ったアルテミアは、異世界より赤星浩一を呼び、彼と融合するのだ。



 番外編 女神の誕生 完。


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