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番外編 女神の誕生 第145話 若き女神

蝙の羽を広げ、あたしは天を駈けていた。


天空の女神であるあたしを、遮るものはない。


「お待ち下さい」


数多くの翼ある魔物が、あたしを追い掛けてくるが、追い付く訳がない。


空は、あたしのものだから。



天空の女神アルテミアは、他の女神より、圧倒的に若い。


さらに、人間とのハーフということもあり、数多くの魔神から不信感が沸き起こっていた。


しかし、その若さからは想像もつかない凄まじい力は、騎士団長達も黙るしかなかった。




「う〜ん!」


あたしは、大きく背伸びをいた。この世界で一番高いというエベレストの山頂に立ちながら。 


そこから、世界の風景を眺め、あたしはほくそ笑んだ。


「あたしはいずれ、お父様の跡を継ぎ、魔王になる」


その後、含み笑いをし、


「お姉様方には、悪いけど…」


二人の姉…マリーとネーナは属性も違うし、物凄い力を有しているが、あたしには勝算があった。


「お母様に、あれを教えて貰ったら…」


あたしの母親…ティアナ・アートウッドは人間であるけど、お姉様方をも凌駕する力を持っていた。


それは、モード・チェンジ。


各種属性に変化できる…その能力を、あたしはほしかった。


だから、城に帰ってから、お母様にあたしは頼んだ。


教えて欲しいと。


だけど、お母様は意外な言葉を、あたしに浴びせた。


「あなたには、早すぎるわ」


いつも優しいお母様の冷たい口調に、凍り付いた。


こんなお母様を初めて見たから。


「どうして、どうしてなのですか!」


理由がわからないあたしは、お母様に詰め寄った。


城と離れをつなぐ渡り廊下にたくさんの花壇を置き、いろいろ花々を大切に育てているお母様は、水をやりながら、あたしに諭すように言った。


「…あなたは、ライの力を色濃く受け継いでおります。ただ力を解放するだけで、魔神さえも圧倒するでしょう」


お母様は、花々の健康状態もチェックしていた。


虫に喰われたところを、手を触りながら、アルテミアの方に振り向いた。


「だけど、あなたには経験が足りません。ただ力を使い、破壊するだけの存在…」


「あら?それが、悪いのかしらねえ」


話の途中、空からマリーが下りて来た。


あたしとお母様の間に立ち、あたしをチラッと見た後、お母様を睨んだ。


「家畜の癖に、えらそうに!我等女神には、すべてを破壊する権利と力がある!家畜風情に、否定される筋合いはないわ!」


お母様は、マリーに頭を下げ、


「恐れながら、申し上げます。すべての魔物の頂点に立つ御方が、破壊だけの力でよろしいのでしょうか?」


「はあ?」


マリーは顔をしかめた。


次の瞬間、氷の剣を持ったマリーと、お母様のライトニングソードが、火花を散らした。


「あんた!やる気なの!」


マリーは力付くで剣を押すが、ライトニングソードが刃に食い込んでいくだけだ。


「場所を変えて頂けるなら、お相手致しますが」


お母様の鋭い眼光が、マリーを怯ませる。


「お止め下さい。マリー様…そして、ティアナ様」


二人の間に割って入ったのは、水の騎士団長カイオウだった。


「カイオウ!邪魔するな!」


マリーの一喝にも動じずに、カイオウは言葉を続けた。


「ここは、ライ様の居城!例え、お二人といえども、争うことはご法度のはずです」


「チッ」


カイオウの言葉に舌打ちしたマリーの後ろに、闇を纏ったラルがいつのまにか佇んでいた。


「くそ!」


マリーは、蝙の羽を広げると、空中に飛び上がった。


すると、手に持っていた剣が折れた。


「クッ!」


マリーは剣を投げ捨てると、どこかへ飛び去った。


その様子を見届けたラルも、煙のように消えた。



「ティアナ様」


カイオウは、お母様の前で跪いた。そして、顔を上げ、


「無理をなさらぬように…あなたのお体は…」


「知っていたのか」


お母様は、ライトニングソードを一振りした。その剣圧で、風を切る音が、カイオウの言葉を止めた。


「だが…」


お母様の手から、ライトニングソードは消え…2つの物体に変わる。


「それも、運命の予定…」


お母様は、その2つの筒ようなものを握り締めた。


「悪い予感が致します。次回の会合…。今日は、あなたをお止めに」


「カイオウ…ありがとう」


お母様はカイオウに微笑みかけると、立ちすくんでいたあたしに、その2つ物体を差し出した。


「この武器は…チェンジ・ザ・ハート。今日からは、あなたが使いなさい」


あたしは嬉しいけど、目を丸くし、


「こ、これは…お母様の…」


あたしの言葉を、お母様は遮るように微笑んだ


「チェンジ・ザ・ハートは、あたしが作りましたが…素になった武器があります。その武器を、あたしは使えなかった…」


ティアナは一度、言葉を切り、


「チェンジ・ザ・ハートは、使った者の記憶を刻むことができます。これを使いこなせるようになれば、あなたも、モード・チェンジが使えるようになるでしょう」


「これで…」


あたしは、受け取ったチェンジ・ザ・ハートを見つめた。


その時、あたしはチェンジ・ザ・ハートを貰った嬉しさで、肝心なことに気付かなかった。


お母様の優しげな瞳に、やどる影に…。



その日、安定者の1人でもあるお母様は、その会合へと旅立った。


自らの武器であるチェンジ・ザ・ハートを、あたしに譲って。


そして、あたしは生きたお母様に、二度と会うことはなかった。






お母様を見送った後、あたしはチェンジ・ザ・ハートを手にただ嬉しさを隠し切れずに、サラとギラと組み手を行なっていた。


「うりぁあ」


チェンジ・ザ・ハートをどう使っていいのか、わからなかった。


最初、お母様のようにライトニングソードにしょうとしたが、あたしにはできなかった。


「この武器は、使い手の思考で、形が変わるといいます。アルテミア様の考えで、使ってみては如何かと」


サラの言葉に、2つの筒を回転させると、トンファーのようになった。


あたしは、トンファーを振り回し、ギラに向かう。


「フン!」


ギラの気合いをかわすと、回し蹴りを首筋にたたき込んだ。


「…アルテミア様は、接近戦がお好きですな」


少しぐらつきながらも、ギラは笑っていた。


「だって、お前らには、あたしの雷撃は効かないし」


ギラから離れ、着地したあたしは、不満げに口を尖らせた。


「それは…我等は天空の騎士団長なれば、雷撃でダメージを受けることは…」


ギラは首を回しながら、


「しかしですな。アルテミア様が、全力で来たならば、我等もただでは、すみますまいて」


「そうか?」


あたしは拳を握りしめ、思い切り力をためてみた。


自分でも驚く程の電気が、発生した。


その輝きに、ギラは冷や汗を流した。


「さすがは…天空の女神」


「ギラ!サラ!いくよ」


あたしは、二人に向かって、雷撃を放った。


そんなあたしの様子を、バイラだけは腕を組み、ただ見守っていた。


視線は、あたしではなく…チェンジ・ザ・ハートをとらえていた。




「なんという…お力…」


ギラが膝を落とし、


「強い…」


サラは、ふっ飛んだ。



「弱いな〜」


あたしは何げに、トンファータイプとなったチェンジ・ザ・ハートを、くっ付けてみた。


すると、巨大な槍になり....あたし、はそれを振り回した。


それだけで、竜巻のようなエネルギーが沸き起こった。


「凄い…」


自分自身で興奮しだすと、体から電気が発生し、竜巻に絡み付く。


「これは…」


目を見開くギラとサラは、身の危険を感じた。


「えい!」


勢いよく振り落とした槍から、風と雷の共鳴した塊が、放たれた。


「何と!」


ギラとサラは、この塊を受けることを諦め、その場でテレポートした。


ギラとサラが避けた為、あたしの雷撃は、城の周りに咲く向日葵畑を直撃しょうとした。


「しまった!」


この花畑を管理しているのは、お母様である。


あたしは、調子に乗って、技を放ったことに後悔していた。


すると、今まで動かずにいたバイラが、向日葵畑の前にテレポートして、片手を突き出した。


「バイラ…ブレイク」 


バイラの雷撃が、あたしの攻撃を相殺するはずだった。


しかし、それでも無理を悟った時、バイラはもう片方の手も突き出した。


バイラブレイクの二撃で、あたしの攻撃はやっと、消し去ることができた。



「よ、よかった…」


安堵の息をついたあたしは、胸を撫で下ろした。


そんな状況でありながら、バイラはただチェンジ・ザ・ハートを見つめていた。


(どうしてだ?)


バイラは、チェンジ・ザ・ハートを今の状況下で、あたしに渡したことで、お母様を心配していた。


チェンジ・ザ・ハートがここにあるということは、お母様は丸腰で、防衛軍本部に向かったということになるのだから。


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