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第13話 いっしょにいても、永遠のさよなら

「帰ったか…」


朝を迎える前に目覚めたロバートは、テント内に赤星がいないことを確認した。


「仕方がないか」


ロバートは呟くように言うと、テントから這い出た。


もう意味がないから、結界を解くと、ロバートは岩場から歩き出した。


砂浜まで伸びる階段を、ゆっくりと下りていく。


まだ太陽は、昇っていない。


後ろを振り向くと、微かに明るくなりかけていた。


ロバートは、砂浜に足跡を残しながら、海に近づいて行った。


「戻ってくるかな…」


赤星に、酷なことを言ったのは、分かっていた。


彼に、この世界を守る義務はない。


しかし、この世界には、彼が必要なのだ。


理不尽だと思うが…ロバートは、エゴを押し付けることにした。


「不甲斐ない」


ロバートは、自分に毒づいた。


自分に力があれば…。


ロバートは、左手の薬指にはめた指輪を見つめた。


エメラルドに輝く指輪。


「サーシャ…」


ロバートは、押しては引く波が…ぎりぎり靴に当たるところで、足を止めた。


朝日が少しずつ昇るたびに、指輪は輝きを増していった。


その輝きは決して、眩しくなく…あまりにも切なかった。




あの日。


「サーシャ!」


消え去ろうとするサーシャの魂に、ロバートは手を伸ばした。


38度線の戦場で、光を失った空間に向って、ロバートは走り出した。


「ロバート!」


仲間の声を振り切り、持ち場を離れ、結界の外に飛び出すと、ゴブリンの群に突っ込んだ。


「邪魔だ!」


ロバートは両手を広げ、気合いを入れた。


ロバートの周りにいるゴブリン達が突然、地面にめり込み出した。


それは、ロバートの攻撃魔法――重力操作だった。


半径5メートル内の重力を、自由自在に変えられた。


だから、自分自身にかかる重力を調整すれば、空を飛ぶことも可能だった。


一瞬にして、ゴブリンの群の頭上を飛び越えた時と、サラからの撤退の命令が、魔物達に響いたのが同時だった。


「サーシャ!」


ロバートの足下でゴブリン達が引き上げ、ドラゴンや蝙蝠の魔物達が、ロバートの横や頭上を通り過ぎていった。


ロバートは、結界を球状に張りながら、空に浮かんでいた。


「サーシャ!」


ロバートの絶叫に呼応するかのように、風に乗った朧蛍が、一匹…ロバートの結界に、吸い込まれるように近づいて来た。


そして、結界に触れた瞬間、結界全体が、エメラルドグリーンに輝きだした。


「サーシャ…」


結界の中、ロバートの前にサーシャが現れた。


(ごめんなさい…)


サーシャの体は透けており、まるで蜃気楼のように、揺らめいていた。


やさしく微笑むサーシャの目に、涙が溢れた。


(あなたとの…約束を守れなかった)


サーシャは、もう消えようとしていた。


(ごめんなさい)


「サーシャ」


消えようとしているサーシャに、ロバートは手を伸ばし、しっかりと捕まえようとするが、感触がなかった。


(さよなら)


サーシャは、満面の笑顔を見せた。


「嫌だ!消えるな!」


何度も指を動かし、何とか掴もうとした。


サーシャの手を、腕を、頬を、胸を、頭を、耳を、唇を。


「離すものかあああ!」


ロバートは全身で、消えかけているサーシャを包むように、抱き締めようとした。


その時、ロバートは思い出した。


魂を捕まえる方法を。


しかし、それは禁呪の魔法だった。


(ロバート…)


ロバートは、感覚のないサーシャの体を、ぎゅと抱きしめながら、


「構うものか」


サーシャに、口づけをした。


「お前が…いなくなる方が、嫌だ」


(あたしと…あなたは、一緒になる)


サーシャは、悲しげな笑みを浮かべた。


「もう永遠に離れない」


ロバートは、切なげにサーシャを見つめた。


(だけど、あたし達は…二度と、会うことはできない)


サーシャの頬を…大粒の涙が流れた。


「サーシャ…」


(あなたに触れることも、愛し合うことも、できない)


「だけど、感じることはできる!」


(もう…キスもできないわ)


「お前を失うより、ましだ」


(あたし達は、永遠に一緒にいながら…永遠に、会うことはない)


エメラルドグリーンに、輝いていた結界は弾き飛び、魔物が去った戦場に、下り立ったのは…。


「ロバート!」


戦いは終わった為、結界を解いた同僚が、ロバートに駆け寄った。


しかし、途中で足を止めた。


「ロバート…お前…」


愕然とした同僚の前に…立つ人物は、エメラルドグリーンの髪を、風に靡かせた…ブラック・サンレンスの女戦士サーシャであった。




あれから、数ヶ月がたった。


「仕方がないな」


ロバートは、昇り来る朝日に背を向けながら、左手の指輪を海の方へ突き出した。


「モード・チェンジ!」


朝日より輝く光が、海面に反射した。まるで…もう1つの朝日のように。


「召喚!」


光の中から走り出たサーシャは、指に挟んだカードに叫んだ。


「ウェイブライダー!」


しばらく海の中、浅瀬を走っていたサーシャは、空間を切り裂いて、現れたウェイブライダーに飛び乗った。


サーフボードのように、海面を疾走するサーシャ。


右手を一振りすると、ドラゴンキラーが装着された。


「ウオオオ!」


獣のような雄叫びを上げながら、海を渡るサーシャの目の前に、無数の水柱が上がった。何十匹もの…身長百メートルは、あろうかという…海蛇が、頭上から襲いかかって来た。海中からは、食人飛び魚の群れが、飛びかかってきた。


サーシャは、1人奮闘した。


「グラビティ・ブレイド」


いや、1人ではなかった。


サーシャの装着しているドラゴンキラーが黒光りし、妙な重さを感じさせて、威圧感を増した。


頭上から一振り、凪ぎ払っただけで、海は裂け、まるで…モーゼの十戒のように、海に道ができた。


その中を、サーシャは駆け抜けていった。




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