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第137話 叶わぬ思いと敵わぬ力

太陽を背にして、地上へと降下していく僕は、信じられない程のプレッシャーを送りつけてくる存在に、気付いた。


明らかに、僕だけに向けられていた。


「赤星!」


耳につけたピアスから、アルテミアの声がした。アルテミアも感じているようだ。


「この気は…」


僕は、炎の翼を転回しながら、気の発する場所を探した。


「お父様……いや、魔王だ!」


思わずお父様と呼んでしまったアルテミアは、恥じるようにすぐに言い直した。


「魔王が…?」


全身の毛が逆立つような感覚に、僕の額に冷や汗が流れた。


(さすが…魔王!こんなプレッシャー…実世界では、感じなかった)


普通なら、魔界にある城から感じるはずが…そのプレッシャーは、魔界と反対側から発せられていた。


僕は気を探り、場所を確定した。


「ロストアイランドか!」


ロストアイランド…。僕が迷い込み、フレアやティフィン、メロメロに出会い…先代の魔王レイと戦った大陸。


実世界のオーストラリアと同じ位置にある。


懐かしさが込み上げてきたが…それどころではない。


魔王といきなり、戦わなければならないかもしれないのだ。


「赤星…」


アルテミアの声もどこか…震えていた。


「心配しないで…」


僕は両手を握り締め、眼下に見えてきたロストアイランドを見下ろした。 


「やるなら…早い方がいい」


そう言うと、体を回転させ、炎の翼で体を包んだ。


「いくよ…」


「気を付けろ!赤星!この感じは…少しいつもの魔王と違うぞ!」


アルテミアの警告を気をしながらも、僕は回転し、落下速度を速めた。


(行けば分かる!)


魔王と戦う決意も力もある。


僕は迷うことなく、ロストアイランドの上空に突入した。


かつて、魔王レイを幽閉する為に張られていた結界も、今はない。


プレッシャーを感じる場所は、魔王レイの居城だったところだ。


三途の川の川原で積み上げられた石のような城は、僕によって半壊し…原型は留めていない。


僕は懐かしき場所のそばに、降り立った。


骸骨の兵士も…骸骨の怪鳥も…もういない。


レイの居城にいく為に渡らなければならない…湖だけが残っていた。


石を積み上げたような不気味な城も、半分が消滅しており…何もない城の内部を露呈していた。


僕は、湖のそばに立ち、辺りを伺った。


僕が、降りたことはわかってるはずだ。


なのに、着地と同時に、気配が消えていた。


「あれだけの強化な気が…消えるなんて…」


城の方を見ようと、振り向いた瞬間、


僕はふっ飛んだ。


「うっ!」


声を出せない程の激痛が、腹部を襲った。


「な…なんだ…」


僕には見えなかった。だけど、明らかに、蹴られたのだ。


あまりの痛みに、片膝をついた僕は、蹴られた辺りを凝視した。


「赤星!」


アルテミアが叫んだ。


「な、なんだと!」


誰もいないと思っていた空間を、意識して集中的に見つめると……僕はやっと見ることが…いや、認識することができた。


そこに立つ人物を。


僕は、乱れた呼吸を整えながら、立ち上がった。


ある種の達人は、自分がいることを…自分の存在すらも認識させないことができるという。


そばにいてもだ。


そいつは、僕がこの地に降り立った時から、そばにいたのだ。


そして…やっと、蹴られたことにより、何もない空間に存在を探す行為をして、僕は見つけることができたのだ。


「バイラ…」


僕は、体勢を整え…バイラと対峙することができた。


「久々だな?少年……いや」


バイラは口元を緩め、


「赤の王よ」


「バイラだと!?」


ピアスからのアルテミアの驚く声がスイッチになり、僕は戦闘モードに切り替えた。


(こいつは、手強い!)


今まで感じたことのない…不気味な雰囲気に、僕は最初から全力で、いくことを決めた。


片手を前に突き出して、僕は呼んだ。


「チェンジ・ザ・ハート!」


二つの物体が飛んできて、僕の手におさまるはずだった。


バイラは、にやりと笑うと、同じく片手を突き出した。


僕の目の前で、信じられないことが起こった。


チェンジ・ザ・ハートは、僕のところには来ないで、バイラの方へ飛んでいた。


そして、バイラは二つの物体をクロスさせると、十字架に似た純白の剣を、手にした。


「な!?」


唖然とする僕の目の前に、バイラがいた。


一気に間合いを詰めたバイラは、僕の目を笑いながら見つめ、呟くように言った。


「シャイニング…」


僕が着ていた学生服が裂け、顕になった胸元に、十字架の傷が走り…そこから、血が噴き出した。


「ブラッディクロス」


噴き出した血が、十字架を形作ると、破裂した。


またふっ飛んだ僕は、湖の浅瀬に転がった。


「シャイニングソード…」


バイラは、シャイニングソードを一振りすると、刀身についた血を拭い、ゆっくりと湖に近づいていく。


「バンパイアを斬る為に作られた剣…。この剣で斬られれば…不死のバンパイアであろうと…傷を癒すことはできない」


僕は何とか、立ち上がったが、血が止まらない。


「赤星!」


アルテミアの声も、今は聞こえない。


僕の瞳が赤く光り、牙が唇の端から覗かれた。


「この剣こそ…まさに、バンパイアキラー」


浜辺まで余裕で来たバイラを見て、僕はキレた。


「舐めるな!」


両手に炎の気を集め、バイラに向かって放とうとした瞬間、バイラはシャイニングソードを一回転させ、水面に突き刺した。


直径一キロはある湖に、電流が走った。


バイラが突き刺した剣は、シャイニングソードではなく、ライトニングソードだった。


僕の全身に、高圧電流が流れた為、思わず…ためていた両手の気が消えた。


水の中で両膝をついて、崩れ落ちていく僕の耳に、やっとアルテミアの声が聞こえた。


「赤星!避けろ!」


いつのまにか上空に飛び上がったバイラの脇には、槍となったチェンジ・ザ・ハートがあった。


大気が渦を巻き、バイラの周りに集約され、電気を帯びた槍が、輝きを増していく。


それは、今まで何度も見た光景。


アルテミアの必殺技。


「Blow Of Goddess」



「女神の一撃…」


僕は一瞬だけ痺れたが、すぐに立ち上がった。普段なら、これくらいでダメージなど受けるはずがないが…胸に刻まれたブラッディクロスから、血だけでなく、力も抜けていっている。


(傷がふさがらない)


だが、そんなことを気にしてる場合ではない。


「赤星!」


アルテミアの激が飛んだ。


(わかっているよ)


僕は頷いた。


戦いは意地の張り合いじゃない。劣勢ならば、その流れを変えなければならない。


僕は、押されている。自分達の武器が、使われているからだ。


バイラは槍を振るった。


最初は、カマイタチが相手を切り刻み、その後に竜巻を纏った雷撃が、襲い掛かる。


天空の女神の…神の一撃である。


僕は、左手を突き出した。


「モード・チェンジ!」


僕の声に重なるように、


「モード・チェンジ!」


アルテミアの叫びが、放たれた女神の一撃にかき消された。


ライトニングソードを突き刺した時とは比べものにならない電流が走ったと思ったら、湖の水はすべて吹き飛んだ。


荒れ狂う竜巻が、湖底や周囲の地面を抉り、砂嵐を起こし、風が鋭いナイフのように、空中に浮かんだものを切り刻む。


「どうだ?」


そのすべてを確認できる位置まで、羽を広げて静止するバイラは、地表を見下ろした。


そして、視線の端に映った影を見逃さなかった。


鼻を鳴らすし、


「逃げ足だけは速いな」


苦笑した。


「誰が逃げ足が速いって!」


突然影をとらえた反対側の死角から、声がしたと同時に、しなやかな鞭のような蹴りが、バイラの顔面に向かって、襲い掛かってきた。


「甘い」


バイラは持っていた槍状のチェンジ・ザ・ハートで、蹴りを防いだ。


「チッ」


アルテミアは舌打ちすると、バイラから離れ、


「モード・チェンジ!」


フラッシュモードから、エンジェルモードへと切り替えた。


白いドレスと、白い翼が天使を思わす。


「魔王の娘が、天使を気取るか?」


バイラは、槍状のチェンジ・ザ・ハートを回転させた。


「何?」


僕はピアスの中から、絶句した。


チェンジ・ザ・ハートが、巨大な砲台を連想させるライフルに変わったのだ。


バスターモード。


それは、僕専用のモードだったはずだ。


バイラはすぐに、引き金を弾いた。


「てめえが昔!自分で言っただろが!」


放たれた雷鳴と炎の光線を睨みながら、アルテミアは銃口に向かって飛んだ。


「こいつは、接近戦向きではないと!」


長い銃身を避けると、アルテミアの体が変わる。短髪で黒のボンテージ姿になる。


ストロングモード。


格闘専門の肉体に変わったアルテミアの膝蹴りが、バイラの脇腹にヒットした。


しかし、今度はヌンチャクへと、形を変えたチェンジ・ザ・ハートが、アルテミアの背中を強打した。


「クッ」


予想外の攻撃に顔をしかめながら、アルテミアは水がなくなり、クレーターのようになった地表へと落下していく。


「アルテミア!」


僕の心配気な声に、アルテミアは笑った。


「心配するな」


地表に激突する寸前、体を捻り、激突の衝撃を拡散する為に、まるでダンスのように地表を跳ねて、アルテミアは見事に着地した。


そして、ストロングモードを解き、普段の流れるようなブロンドと、透き通る白い肌…青い瞳の輝く小顔を、空中に浮かぶバイラに向けた。


「なるほど…」


空中から、鉄球を落としたように、バイラが地表に降り立った。


アルテミアの姿を観察し、


「バンパイアの力を使わずに、人間にチェンジしたか…」


シャイニングソードのつけた傷は、バンパイアの体にしか効果はない。


同じ体を共有する僕とアルテミアだが、血は流れることなく、止まっていた。


ふくよかな白い胸には、うっすらと傷が残っているだけだ。


「とっさに、それに気付くとはな…」


バイラはフッと笑うと、


「坊やとは…経験の差か」


アルテミアを冷ややかな目で、見つめた。


「しかし!人の身で、我らに勝てぬことは、経験済みのはずだが…」


バイラは、頭上で槍を一回転させた。


「フン」


今度は、アルテミアが笑った。


バイラを睨み、


「一体…いつの話をしている」


アルテミアは少し…腰を下ろした。そして、左足を少し前に出し、体を斜めにした。


「人は、成長する。バンパイアと違ってね」


「ほざくな!」


バイラは、チェンジ・ザ・ハートを二つにわけた。


「いつから、あたしにタメ口をきくようになった?」


アルテミアは、呼吸を整える。


「いつまでも、天空の騎士団を率いる女神のつもりだ!」


バイラは、二つの物体をクロスさせると、


「人に拘るならば!かつて、希望の象徴だった剣で、死ぬがいい!」


ライトニングソードに変えた。


勇者ティアナが持ち、魔王と戦った武器…ライトニングソード。


ティアナは、アルテミアの母である。


ライトニングソードを見ても、アルテミアは動揺しないで、微笑んだ。


「武器が……希望になるわけじゃない!」 


アルテミアの髪が、ブロンドから…エメラルドグリーンに変わっていく。


「それを振るう…人間の思いが、心が!希望を生むんだ!」


アルテミアの右手に、ドラゴンキラーが装着される。


そして、アルテミアはそのまま、マラソンのスタートダッシュのように、バイラ向けて、飛び出した。


「馬鹿が!」


バイラも飛び出した。 


「そんなありふれた武器が!ライトニングソードにかなうか!」


バイラとアルテミアは、一瞬と接近し、刃を交えた。


笑うバイラの顔が……凍り付いた。


簡単に折れると思ったドラゴンキラーが、ライトニングソードと競り合っているのだ。


「あり得ん!」


目を見開くバイラに、アルテミアは笑った。


「当たり前だ!この剣に、どれほどの思いが詰まっていると思うか!」


アルテミアは、じりじりとライトニングソードを押し返す。


「てめえなんかが、握るライトニングソードは……」


アルテミアはにやっと口元を緩めると、


「軽るすぎるぜ!」


ライトニングソードを弾き返した。


「クッ!」


バランスを崩し、アルテミアから離れる体を、バイラは後ろ足で踏み止まり、一瞬でライトニングソードから、槍へと変えた。


一気に間合いが長くなり、ライトニングソードよりも細い槍を突きだし、バイラは後ろ足で地面を弾くと、前に出た。


普通ならば、アルテミアの体のどこかに突き刺さったはずの…槍だが、アルテミアには刺さらなかった。


まるで、バイラの行動を読んでいたように、アルテミアは槍をドラゴンキラーで防ぐと、そのまま槍にそって、刃を滑らした。


驚愕するバイラの横を、アルテミアが通り過ぎた。


「…刃渡り…」


アルテミアは、バイラの後ろで振り返った。


「どうだ?」


そして、バイラの背中に話しかけた。


「これが、人の思いだ」


「あり得ん…」


バイラの左肩から、鮮血が飛んだ。


崩れ落ちるバイラに向かって、アルテミアは背面跳びのように、ジャンプした。


(借りるぜ!サーシャ!)


バイラの頭上から、アルテミアは斬りかかる。


「グラビティソード!」


普段なら魔力を使い、重力を刀身に増し、重さを増すのだが、今のアルテミアは、魔力を使えない。


器用にも、踵落としのように跳びながら右足を上げ、バイラの頭に刀身が当たる寸前に、踵の先をたたき込んだのだ。


「器用なことよ」


真っ二つに斬り裂いたはずの、頭に感触はなかった。


当たる寸前、バイラはテレポートしたのだ。


数メートル程前方に移動したバイラは、ゆっくりと振り向いた。


「認めましょう…。少しは、強くなったと」


こちらに、全身を向けたバイラの頭から、血が流れていた。


少しは、当たったらしい。


アルテミアは、すぐに体勢を立て直した。


対峙する二人。


「魔力をほとんど使わずに…よくここまで…」


バイラは血を拭うことなく、槍から…トンファに変えた。


「だが…まだ甘い…」


バイラは飛び上がると、トンファを天に向けた。


「あの構えは!」


僕の叫びに、アルテミアは舌打ちした。


「あれも…使えるのか」


「空雷牙…」


僕は唖然としながら、呟いた。


星の鉄槌ともいわれる技。


この星を巨大な顔とするならば、空雷牙は…星の牙である。


この星が発生できる…限界の雷。


それが、空雷牙…または、雷空牙といわれる技である。


「いでよ!雷神!風神!」


バイラの両手にあるトンファ-タイプのチェンジ・ザ・ハートに、エネルギー体である雷神と風神が、乗り移る。


(アルテミアが…初めて使った時の発動方法)


最近は、一瞬で空雷牙を撃てるようになったが…昔はプロセスを踏んでいた。


「フン」


アルテミアは、ドラゴンキラーを一振りすると、頭上に突き上げた。


「撃つなら、撃て!」


アルテミアには、微塵の恐れもない。


「雷…空…」


空中で、バイラが発動体勢に入った時、無数の光線がバイラの背中を直撃した。


「な!」


突然の攻撃に、バイラは弓なりに背中を反らせ、体勢を崩れた。


光線は、間をあけずに次々に、バイラに当たった。


アルテミアは、ドラゴンキラーを消すと、空中にジャンプした。


アルテミアの目は、バイラの持つ手が緩んだことを、見逃さなかったのだ。


「チェンジ・ザ・ハート!」


アルテミアの声に呼応して、チェンジ・ザ・ハートは突然回転すると、バイラの手を弾き、 突き出したアルテミアの両手に向かって、飛んでくる。


「モード・チェンジ!」


再びエンジェルモードになったアルテミアは、空中でチェンジ・ザ・ハートを掴むと、槍に変えた。


間髪を入れずに、槍を振るう。


「Blow Of Goddess!」


雷神と風神の力を宿した女神の一撃を、バイラの足元から突き上げる形で、炸裂させた。


「ク」


バイラは、背中に攻撃を受けながら、両手を下に突き出した。


バイラの雷撃が、女神の一撃を受けとめるが....それを突き破り、バイラは雷鳴に包まれた。


凄まじい光のフラッシュバックで、目が見えないはずなのに……アルテミアは、雷鳴の中に飛び込み、光の震源地に回し蹴りを叩き込んだ。


「え?」


アルテミアの行動がわからない僕の耳に、アルテミアの歯軋りが聞こえた。


踏張っているが、蹴りは途中で止められていた。


「魔王……以外で、今のあたしが倒せないやつがいたなんて」


アルテミアの言葉を聞いて、光の爆発がなくなった空に、笑い声がこだました。


「ハハハ…。根拠なき自信は、命をすぐになくしますよ」


アルテミアの蹴りを、バイは手首の捻りだけで押さえていた。


「しかし…」


バイラは自嘲気味に、口元を緩め、


「それは…私も同じ」


アルテミアの蹴りを、手首の動きだけで弾くと、少し距離を取った。


すると、また後方から光線が飛んできたが、振り向いたバイラの目が光ると、光線が途中で消え、数百メートル離れたレイの居城の後ろが、爆発した。


「てめえ!」


アルテミアは、チェンジ・ザ・ハートをトンファーに変えて、殴りかかった。


鼻先で、トンファーをよけたバイラは、アルテミアの腹に膝を入れると、また離れた。


「そう何度も!」


アルテミアは、ダメージを受けていない。膝が入る瞬間、少し体を後ろに反らしていたのだ。


「食らうか!」


再び挑んでくるアルテミアではなく、バイラはチェンジ・ザ・ハートを見つめ、呟くように言った。


「やはり……娘の味方をするか…」


そう言った後、フッと笑うと、バイラは右手を突き出した。


「バイラブレイク!」


技を放ちながら、バイラはアルテミアに話しかけた。


「確かに、前よりは強くなられた!しかし!その力を与えた…あなたの母上は、人に殺されたのだ!その人の力を借りるか!」


「違う!お母様は、人を守る為に最後まで生き…あたしに、力を残してくれたんだ!」


アルテミアは、ライトニングソードに変え、バイラの雷撃を斬り裂いた。


「人の弱さ…卑しさが、お母様を殺したけど……人の優しさと厳しさが、あたしを強くした」


アルテミアは、ライトニングソードを突きの形に持っていく。


「だが!殺したのだよ!ティアナを!」


バイラが絶叫した。


「お母様は、殺されたとは思っていない!」


アルテミアの突きが、バイラの胸を突き刺した。


「あたしも…最初は…お母様の死の真実を知った時…人なんか、皆殺しにしてやろうと思った」


「そ、そうだ…それが、正しい…」


ライトニングソードが胸から、背中まで貫通しながらも、バイラは口を開いた。


「人に…この世界で生きる価値は、ない」


「違う!」


アルテミアは、バイラの考えを否定した。


「お前は、人を…人という言葉で、一区切りにしたがる!人には、1人1人…固有の名前があり…愚かで弱いやつもいるが…あたしなんかより…強いやつもいる」


アルテミアは、ライトニングソードをさらに押し込んだ。


「お前は…人を知らない…」


「ククク…よくも同じ言葉を…」


バイラは笑い、ライトニングソードの刀身に触れた。そして、アルテミアを見つめ、


「あなたの力…モード・チェンジ。それは、ティアナが開発し、人の身では扱えずに、彼女の体を蝕んだ技…。それを使えるのは、あなたが魔王の血を受け継いでいるからだ…」


バイラは自ら、ライトニングソードを引き抜いていく。刀身を掴んでいる手からは、血が流れていた。


「その事実を…忘れ無きように」


「ああ…わかっている」


アルテミアは、頷いた。


バイラは一度頭を下げると、ゆっくりと顔を上げ、アルテミアに微笑んだ。


そのまま…地上へと落ちていく。


「それでも……我は…人を許さない」


バイラは血を流しながら、落ちていく。


アルテミアは無言になり、ただ落ちていくバイラを目で追った。


「アルテミア…」


僕もアルテミアのことを…少し心配した。


嫌なことを、思い出しているのではないかと…。


バイラは地上に激突し、鈍い音と砂埃が上がった。


しかし、砂埃が止んだ後、バイラの姿はなかった。


地面が窪んでいるので…確かに落ちたようだが、体はなかった。


アルテミアはしばし、その窪んだ後を、上空から見下ろしていた。

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