太陽のヴァンパイア編 第134話 序幕 繰り返さない悲劇の為に
「大気圏に入るぞ」
黄金の鎧に、六枚の翼を広げていたアルテミアは、翼を畳むと全身を覆うと、侵入角度を調節しながら、大気圏に突入した。
凄まじいスピードの摩擦熱な中……僕は戻ってきた。
戦いの時。自分のいるべき時に。
大気圏に突入している間は、アルテミアと話すことはできなかった。
僕は、必死に思い出していた。
時空をこえて、大気圏に突入したまでは…確かに記憶があった。
(そうだ……ここまでは…)
思い出そうと必死に、ピアスの中で考えていると、
「大気圏を抜けたぞ!」
アルテミアの安堵の声が、聞こえてきた。
その瞬間、僕は思い出した。
ほっとした僕の目の前に、あいつがいたのだ。
「お兄ちゃん…」
(綾子!)
アルテミアと体を交換していて、今は実体のない僕の目の前に、綾子がいたのだ。
「どうして…あたしを……助けてくれなかったの?」
綾子の全身が、血まみれになる。
(そうだ…俺は……綾子を見て…)
それは、刹那の時だった。
僕の心が、後悔と懺悔に苛まれた。
そう…普通なら次の瞬間、僕は負けたのだ。
だけど、今の僕には…フレアの願い…アルテミアの悔しさ…そして、ロバートやサーシャにリョウ…滅亡した人類の嘆きが、魂に染み込んでいた。
僕の心から、血の涙が流れた。
(そう……すべては、僕のせいだ!)
僕の心が、魂が、叫んだ。
「モード・チェンジ!」
「あ、赤星!?」
大気圏を抜けたと思ったら…突然、アルテミアは僕に変わった。
「うわああっ!」
血の涙を流しながら、僕は絶叫し、何もない目の前の空間に、手を突き出した。
(サーシャ!ロバート!力を貸してくれ!)
僕の腕に、ドラゴンキラーが装着された。
そして、鋭い切っ先を空間に突き刺した。
「うぎゃあああ!」
何もないはずの空間に、ドラゴンキラーは突き刺さり、鮮血が噴き出した。
右手にドラゴンキラーを装着している為、僕は左手を突き上げた。
すると、回転する2つの物体が飛んできて、僕が掴むと、十字架のような剣になった。
シャイニングソードで、僕はドラゴンキラーの真横を真っ二つに斬り裂いた。
「ど、どうして……わかったのだ…」
僕と同じくらいの大きさの巨大な目玉が、真っ二つに裂けて、地上へと落ちていく。
「もう少しで……お前の魂を封印できたのに…」
「今のは!妖魔!」
ピアスの中から、アルテミアの声がした。
「大した力はないが…相手の心のトラウマを見せて、精神を破壊する…魔物だ!どうして……こんなところに…」
アルテミアの言葉で、僕は納得した。
(そうか…。僕は、綾子を見せられ…動揺した心の隙に、封印されたんだ)
緊張が解け、ゆっくりと、僕は落下していた。
「赤星!」
落下しながら、僕はまた涙した。
(僕は…弱いな)
右手に装着されたドラゴンキラーを見て、
(ありがとう…)
僕は、涙を拭った。
背中から、炎の翼を飛び出して、僕は落下を緩めた。
眼下に、青い海が広がっていた。
「赤星…」
アルテミアが話し掛けてきた。
「よくわかったな!妖魔がいると」
感心したように言うアルテミアに、僕は笑った。
「僕じゃないよ……みんなの思いだ!」
僕が右手を一振りすると、ドラゴンキラーは消え…左手のシャイニングソードも分離し、どこかへ飛んでいった。
僕は、両手を握り締めた。
(決して…あんな結末には、させない)
炎の翼は大きさを増し、僕は羽ばたいた。
「行こう!アルテミア!」