表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
138/563

第133話 さよならのリターン

「え!え…え!ど、どうして…」


リョウとフレアは、一気に数十キロをテレポートしていた。


そして、リョウの目の前に、地面に突き刺さっている剣があった。




「間に合ったか…ぎりぎりだな」


剣の向こう…岬の先に、胡坐をかいた男が、背中を向けて、海を見ていた。


島を囲む結界は、ヒビだらけになっていた。


男は立ち上がり、振り向いた。


胸まで伸びた白い顎髭と、皺だらけの顔が、精悍さを醸し出していた。


はち切れんばかりの筋肉が、まだ現役であることを、見せ付けていた。


「フレア…ご苦労だった」


白髭の男は、フレアに頷いた。


フレアは、頭を下げると、ゆっくりとリョウに近づき、戸惑っている彼の胸に手を当てた。


「フ、フレア…」


リョウには、フレアの行動の意味がわからない。


フレアは手を当てた後、そっと頬も押しつけた。


「あたしは…種火…。あなたの種火…。再び…あなたに、火をつけ…あなたの中に、戻ります」


「フレア?」


突然、リョウは心の中が、熱く…燃えていくのを感じた。


「さあ…リョウ…」


フレアは、リョウの胸から離れると、リョウの腕を取った。




「フレア…僕は、剣を抜かないと……」


手を伸ばした僕を無視して、フレアとリョウが離れていく。


フレアと……リョウが離れていく。


(何?)


僕がここにいるのに、リョウは向こうにいて、離れていく。


「何も心配することは、ありません」


白髭の男は、立ちすくむ僕の手を取り、


「剣を握るのです」


力強く頷いた。


(剣?)


僕は振り返ると、地面に突き刺さっている剣が、目に飛び込んできた。


僕はその剣に、見覚えがあった。


記憶が、湧き出てくる。


「………ライトニングソード」


僕の言葉に、白髭の男は泣き出した。


「そうです!ライトニングソードです。かつて…ティアナ様のものだった剣です!ティアナ様亡き後…この剣を持つ資格があるのは、あなたしかいません」


僕は近づくと、剣の柄を握った。 


「赤の王よ!」


カイオウは歓喜の声を上げた。


「私は…アルテミア様亡き後、この剣をお守りしてきました。この剣を、あなた様以外に握らせるなど、もっての他!」


僕は、剣を地面から抜いた。鞘から抜くように。


そして、剣を天に突き立てると、ライトニングソードは姿を変えた。


光り輝く純白の剣。


そこから放たれる輝きに、白髭の男は跪いた。


「これは…シャイニングソード!」


シャイニングソードに照らされて、僕は思い出した。


すべてを。 


「ここは…?」


僕は周りを見回し……そして、左手を確認した。


薬指に、指輪がない。


「ア、アルテミアは!アルテミアはどこにいる!」


僕は、気を探った。アルテミアを感じない。


それどころか…僕がいるところの近くに、数億の魔物の気配を察知した。


「どうなっている?」


剣を握り締め、飛ぼうとした僕の周りに、結界が張られていることに気付いた。


その結界を突破しょうとしたが、なぜか突破できない。


「なぜだ?」


シャイニングソードを突き刺そうとする僕に、


「無駄です」


白髭の男が言った。


僕はもう一度、その男を見た。


そして、目を見開いた。


「お前は!?」


白髭の男は、頭を下げ、


「直接、お会いするのは、初めてですな。我が名は、カイオウ…」


「カイオウ……水の騎士団長…」


思わず、構える僕に、


「赤の王……いや、赤星浩一よ。うぬは、この時空の流れから、外されています故…我を倒すことは、不可能です」


僕は、カイオウの言葉にはっとした。


先程の離れていくフレアと…リョウ。


(リョウ……リョウは、僕……?僕……だったのか?)


混乱したいる僕を見て、カイオウは話しだした。


「あなたの記憶は…三百年前のことです」


僕は、混乱している頭を押さえながら、カイオウを見た。


「……僕は、自分の世界から、戻ってきて…」


「戻った瞬間、あなたは…この世界に降りることなく、魔王に封印されたのです」


「僕は……」


確か…明菜と別れ…アルテミアと時空をこえたはずだ。


「何があったのかは、わかりません。あなたは、魔王に封印され…このブルーワールドに戻ることは、なかったのです」


カイオウは跪きながら、顔を上げない。


「そ、そんな…馬鹿な…」


「1人残されたアルテミア様は…戦いました。しかし…」


カイオウは泣いているのか…地面が濡れだした。


「アルテミア様は負け…この地に生き残った人々を集め、結界を張ると…この剣を残し…消滅しました」


「アルテミア………」


僕は、その場に崩れ落ちた。


「そんな…信じられない」


嘆き泣き叫ぼうとした時、突然目の前にあった地面が、離れていった。 


「な」


僕は、顔を上げた。


「発動しました。アルテミアが、消滅してまで残した最後の…力が…」


球状の結界が、僕とカイオウを包み…さらに、僕の体も輝きだした。


その瞬間、島を包む結界が割れた。


結界はガラスのように砕けたが、ただ下に落ちることはなく、空中で消えた。


その代わり、数億の魔物が落ちてきた。


「いけない!」


僕は立ち上がり、離れていく地上を見下ろした。


リョウやフレアが見えた。


「カイオウ!結界を解いてくれ!みんなを助けないと!」


カイオウも立ち上がり、僕を見ると首を横に振った。


「無理です。あなたは、この時空には、干渉できません」


「なぜだ!」


「あなた様は、封印され…人の心の奥底に閉じ込められました。あなた様が封印されている人間の心を探しだし、あなた様を復活させる為に…フレアをはじめ、どれだけの人間が苦労したことか…」


カイオウも、真下に見えるフレア達を見た。


「フレアは…あなたの体から離れ…あなたの近くに生まれ、あなたの存在を我々に教えました。ロバートやサーシャの魂も、転生してまで、あなたを現世に戻したのです」


カイオウは、視線を僕に戻した。


「すべては、あなたを戻す為なのです」


その瞳に涙が滲む。


「あなた様は…戦っていません!あなた様は、魔王によって、時間の流れから外されたのです。我々は、あなた様を、もとの時間の流れに戻します!」


「そ、そんなこと言ってる場合か!みんな死んでしまう!結界を解いて、僕を戦わせろ!」


と言った瞬間、魔物の群れは僕を突き抜けて、地上に降り立った。 


「早く!」




地上ではケースから、ドラゴンキラーを取出したリョウが、構えたが……一瞬で、首が飛んだ。


フレアもまた、体を引き裂かれた。



「うわあああああっ!」


絶叫した僕に、カイオウが話し掛けた。


「もし…この時空に干渉できるようになって…どうします?人は滅びます。そして、この時空には、あなたの守るものも…愛するものもいないのですよ」


カイオウの言葉は、もう僕の耳に入っていなかった。


僕の目が、眼下に見下ろせるようになった島の全体像を、見せつけた。


「目に焼き付けるのです。この結果は、あなた様が、負け…封印されたからです。あなた様が、戦わなかった結果なのです」





「サーシャ…」


「ロバート…」


二人は、無駄な抵抗をすることなく…お互いを刺し、自害した。





「うわああ……母ちゃん!」


俊介の前で、魔物に食い千切られていく家族。


そして、彼もまた…頭を握り潰された。


ホワイトシティのシェルターに逃げ込んだ人々もまた、地上にいる人々と数分違うだけで、あっという間に…殺された。


結界が消えてから、15分。


すべての人類は、死滅した。


ブルーワールドから、人類はいなくなったのだ。




「あなたは…この結果を焼き付けて…戦うのです!」


「僕はあああああ!」


絶望と悔しさを癒すこともなく、僕はこの時空から消えた。


僕が消えると、カイオウは1人…空に浮かんでいた。


「我々の存在意義も…意味がなくなった」


カイオウは目をつぶり、頭を垂れた。







フレアだった肉体と、リョウの死体を見下ろしながら、死体の山に立つ女。


無表情で、フレアの死体に顔を向けたを女の周りに、数十の魔物が降りてきた。


「まだいたぜ…人間が!」


バッファローに翼を生やした姿の魔物が、襲い掛かろうしたが……顔を上げた女の顔を見て、魔物達は凍り付いた。


「リ、リンネ様…」


「フン!」


リンネは鼻を鳴らした後、周りを囲む魔物を睨んだ。


「あたしを…人と間違うか?」


リンネが言葉を言い終わる前に、魔物達は消滅した。灰も残さずに。


その状況を見た他の魔物達は、リンネの周囲から離れた。


リンネは、フレアの死体に目を細めた。


「死んでもなお…あの男の為に生きるか…」


それから、フッと笑った。


「その男の心は、あんたに向くことはないのに…」


その笑みは、すぐに悲しい色に変わる。


リンネの瞳から、一粒の火種が落ちた。


その瞬間、フレアの死体は燃えだした。


火種は、リンネの涙だったのだろうか。


リンネは、顔を上げ……頭上にある太陽を睨んだ。


「赤星浩一……」


太陽は、今も昔も変わらない。


「……過ぎ去った過去で会おう」


リンネの全身が、太陽のように燃えだした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ