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第132話 死にたくない

「行ったか…」


村の入り口にある俊介の家の前を、リョウとフレアが通り過ぎていった。


パジャマのまま、中から家のドアにもたれ…俊介は、二人が通り過ぎるまで、そこにいた。息を殺し…本当の気持ちも殺しながら。


「リョウ…フレア…」


本当は、いっしょに行きたかった。


だけど、行って帰ってくる時間があるか、わからなかった。


いよいよ結界に走ったヒビは、大きくなり…そこから、身の毛もよだつような咆哮が聞こえて来るようになった。俊介はその声を聞きながら、もう駄目だと思った。


まだ結界が崩壊したわけではないから、みんなが寝静まった真夜中しか聞こえなかった。


そのことが、さらに俊介を恐怖させた。


「リョウ……フレア……」


俊介は踞り、泣き出した。


「母さん。死にたくないよお……」


だが、その願いを叶えてあげる程の力を持った戦士は、この時代にいなかった。





村を出たリョウとフレアは、真上を見上げた。


早いといっても、五時半くらいだ。


普段から、起きている人はいた。


しかし、村は静まりかえり、人の気配がしない。


もう汗水垂らして働く理由は、なくなった。


生きる為…食べる為に働くなら…もう、それをやる必要はない。


結界が消えた瞬間、人は終わるのだ。


「空が、割れていく」


リョウは、真上を見上げ、絶句した。


ヒビが入っていくスピードが、昨日より明らかに速い。


目でわかるレベルだ。


そのヒビから、ドラゴンの咆哮や…他の魔物の声が染み出るように、聞こえてきた。


震える大気。


リョウは思わず、ケースの中からドラゴンキラーを取出して、天にかざした。


「来るならこい!僕が、お前達を倒してやる」


まだ装着することも、不慣れな姿を横で見ながら、フレアはただ嬉しそうに微笑んだ。



島は、ほとんどが…草原に覆われていた。


人々が、生活できる地帯の中心にある首都ともいうべき町は、来るべき最後の日の為に、地下にシェルターを建設していた。


約五百人が、3年は生きていける程の食料は、確保していたが…シェルターの情報は、町に住む殆んどの人が知らなかった。


管理局に働く一部のものにしか、教えられていなかった。


空にヒビが入った…その日から、一部の人々の避難は始まっていた。


管理局に所属していたロバートの家族は、シェルターに入ることを許されていたが、ロバートはそれを断っていた。


シェルターには、入ったことがあった。


確かに、しっかりとした設備で、核の直撃にも耐えることはできるだろう。


しかし、魔神の攻撃や…星の鉄槌には、ここの防御壁なんて、紙切れと同じだと思った。


ロバートは、冷たい鋼鉄の壁に手を触れ、フッと笑った。


(結界を張れたら…少しは、まし…かな?)


だけど、今の人間は魔法を使うことは、できない。


生きる為の水と、少しの鉱石を採掘できたから、なんかとかやってこれたが、戦いになったら、圧倒的に物量が足りなかった。


(鳥かごで守られているのに…さらに、箱の中に逃げてどうする…)


ロバートは、そんな箱の中で、死ぬなんて…堪えられなかった。


例え、魔物に覆われた空でも、天を見てから、死にたかった。




もう女神の結界が、消えるとわかった時から、町は大騒ぎになっていた。


どこに逃げるべきなのか…どうやったら、生き残れるのか…。


町はその話題で、持ちきりだった。


激しい議論が沸き上がる中、リョウとフレアが町についたのは、昼過ぎだった。


馬車などの交通機関を使わなかった為、それくらいかかったが、島に通る機関車を使えば、数時間で着くことはできた。


だけど、リョウは自分の足で歩くことを選択した。


この町は、岬への最短の道が開いていた。


普通にいけば、あと1日でたどり着けるはずだ。


町に着いたリョウは、真っ先に岬への道を探した。


この島には、大小合わせて、12の町や村がある。


だけど、町…大都市と思わせるのは、ここしかない。


ホワイトナイツ。


かつて、魔王と戦い…唯一その王座まで攻め込んだ三人の勇者達は、そう言われていた。


昔、存在した防衛軍の最高責任者としても、活躍したクラーク・マインド・パーカーと、ジャステイン・ゲイ。


そして、なぜか…この人は、名前を伝えられてはいない…白い鎧に、ブロンドの戦士。


ホワイトナイツは、その戦士の風貌から、名付けられたとだけ…伝承されていた。


リョウ達が入ってきた場所は、一番岬まで遠い。


目の前に広がる建造物を突っ切り、反対側にいったらわかるはずだ。


直径は、約三キロ。


一番大きな都市なのに、メインストリートは、縦と横しかない。


その癖、道の真ん中は汽車が通っており…もし車が走っていたなら、左右に一台つづくらいしか走れない。


資源のない島は、車なんてものは御法度だ。


ガソリン等の燃料を無駄に、使うだけだ。馬車が、メインとなっていた。


リョウとフレアは、さらに狭い歩道を歩きながら、ただ縦の通りを真っ直ぐに歩いた。


行き交う人々の様子を、気にしないように気を遣いながら、速足で歩いた。


みんな…暗い。


普段なら、歩道の脇にある店達に、目がいくところだが…フレアも見ていない。


買い物に浮かれているわけには、いかない。


明日、結界が消えるかもしれないのだ。


だが…さすがに、島の中心都市である。人の多さは信じられない。


汽車も馬車も、満員である。


学校は、休校。島の管理局に働く人々は、仕事が終わったが……普通の人々は働いていた。


例え…明日滅んだとしても、今日も店を開ける。


リョウ達が、中央の交差点に来るまで、閉まっている店はなかった。 


町の中心に来た。


中心は、ターミナルである。


そこだけ異様に、大きく…上下と左右から来る汽車が、交差する時、事故がないように、最新の注意が払われていた。


馬車や歩行者は、汽車が通り過ぎるまで、待たなければならない為、数分…タイミングが悪ければ、10分くらい待たされた。


リョウとフレアは、タイミングが悪かった。


大人しく、信号が変わるのを待っていると、二人の間に一人の女が、割り込んできた。


「?」


リョウとフレアの両側があいているのに、無理矢理割り込んできた女は、168くらいあるリョウより、遥かに高かった。


思わず、見上げたリョウの目に、微笑む女が映った。


その何とも言えない…優しい瞳に、リョウは見とれてしまった。


切れ長の目が、リョウを見つめていた。少し肉厚のある唇が、おもむろに動くと、言葉を発した。


リョウは、びくっと身を震わせた。


女は少し、口元を緩め、 


「昔…ロバートジョンソンは、十字路で悪魔に会い…魂と引き替えに、才能を得た…。アコースティックギターから、まったく新しい音を奏で…それが、ロックの素になった」


女は、じっとリョウを見つめ、


「マークボランも、そうだったかしら?」


クスッと笑うと、女は周りを見回した後、


「ここも、クロスロードよ」


リョウに顔を近付け、


「今なら、悪魔と契約できるかもしれないわよ」


「!?」


「だって…あたしは、悪魔だから」


誘うような甘い言葉に、リョウは顔を真っ赤にさせた。


それを見て、女はまた笑った。


すると、後ろから殺気を感じ、女は驚いて、振り返った。


「フレア…」


女は、後ろに立つフレアを見て、目を見開いた。


フレアは、ただ無表情で女を見ていた。


しばらく、二人は見つめ合うと…女は肩をすくめて、


「わかったわ」


と言うと、ちょうど青になった信号に気付き、歩きだした。


その後ろ姿を、じっと見送るフレアに、リョウは訊いた。


「知り合い?」


フレアは、女が見えなくなるまで、目で追い続けた。


「今は…知らないわ」


少しつっけんどんに、フレアが言った瞬間、また信号は、赤になった。



クロスロード…。


十字路で悪魔に魂を売る。


伝説のブルースマン-ロバードジョンソンは、毒殺された。


しかし...その場にいた仲間は、ジョンソンに渡された毒入りの酒を見て、おかしいからやめろと言った。


しかし、ジョンソンは微笑みながら…飲んだ。


彼は、わかっていたのだ。


その仲間のブルースマンの証言で、彼の真実は少しだけ暴かれた。


悪魔に魂を売るとは、何かと。


ジョンソンの魂は、黒人が白人以上の本物の音楽を見せることだった。


差別されている人種が、差別している白人より、優れている。


その真実を聴かせることが、悪魔に魂を売ったというならば…………………………真実を言うことは、悪魔なのか。


マークボラン。


T-REXのリーダーにして、20Century Boyという曲の作者。


彼はデビットボーイとともに、ビジュアル系ロックの始祖といわれる。彼は、30才になるまで死ぬと公言していた。


そして、もうすぐ誕生日を迎える目前で、交通事故でなくなってしまう。


十字路…。


人生はどの道を行くかで、決まるのか。


だが、いつも悪魔だけが囁くのではない。



「行こう」


今度は、信号が青になるのは早かった。


フレアは、リョウの手を取った。


「う、うん…」


リョウは、フレアともに迷うことなく、真っ直ぐに歩いていく。


それが、リョウが自分で決めた道だからだ。


ただ真っ直ぐ…活気や笑顔はないが、何とか普段と変わらない生活をしょうとする人々の為に。




リョウは曲がる事なく道を進み、ケースを大切に握り締め、町を早足で駆け抜けた。


ホワイトシティを抜けると、そこは唖然とする程…何もない。


リョウが歩いてきた道が、町の出口から三本に別れていた。だけど、左右の二本は、すぐに真横にのびている。


真ん中の一本だけが、真っ直ぐに、何もない草原に続いていた。


この草原の向こうで、生き残った人々は、天空の女神の最後を看取った。


その後、人々は逃げるように、島の奥へと避難した。


「左右の道は、他の町に通じてるわ。だけど…この前の道は…」


フレアは、隣に立つリョウを見た。


「人が住む町はないわ」


リョウは数秒、道の向こうを見つめた。視界の先に、小高い丘があり…そこを越えたら、岬が見えるはずだ。


リョウは、静かに頷くと、


「わかってるよ」


丘の向こうを見つめながら、歩きだした。


左右の道には、用がない。


正面だけだ。


フレアは、リョウの後ろを歩きだした。まるで、しんがりを務めるかのように。


そして、たった一度だけフレアは振り返ったが、すぐに前を向いた。


ホワイトシティの入口のそばに立つ監視塔。


普段なら、警備員がそこから岬の方や、結界の向こうの海を監視していたが……今は、警備員がいなかった。


その代わり…1人の女が、立っていた。


見下ろすと、リョウとフレアが丘に向かって、歩いているのがわかった。


その後ろに、少し距離を取って、歩いていく集団が確認できた。


女は鼻を鳴らすと、リョウ達とその集団の距離を図った。


「人間は…愚かね」


結構、離れている為に、つけられているとは、思わないはずだ。


「まあ…心配はしていないけど」


女は、リョウの後ろを歩くフレアの背中を見た。


「何を、わからす気なのかしらね」


そう言うと、女の体は陽炎のように、揺らめき…監視塔から消えた。





道は少しづつ…なだらかに上へ上がっていく。


それと比例して、道の両側に木々が増えてきて……やがて、左右と頭上を覆う森へと変わっていく。


視界は、前しか続いていない。


鉄道も、この丘には通っていない。


なぜなら、丘を越えたら…絶望しか見えないからだ。


丘の頂上に近づいた瞬間、左右の茂みから、五人の男が現れた。


先程、町から付けてきた集団は、いつのまにかリョウ達に追い付いていた。


彼らは、茂みの中を通ってきたのだ。


「誰?」


五人は、十代後半か二十代前半に見えた。勿論、リョウに面識はない。


その中の1人…茶髪で髪を尖らせた男が、前に出てきた。その手には、銃を持っていた。


男は銃口を、リョウに向けながら、


「この時期に、この丘を越えようって、やつは……魔物と戦える武器を持ってるやつだけだ。それも、強力なやつを…」


男が話している間に、他の四人がリョウとフレアを、後ろから羽交い締めにした。


「俺達は、結界が消えても、生き残る!その為には、もっと武器が必要なんだよ」


と言った瞬間、リョウは無理矢理ケースを奪われた。


「か、返せ!」


リョウの額に、銃口が押し付けられた。


「教えてやるよ」


銃を持った男は、にやりと笑った。


「力無き者に、権利はない」


男の目は、鋭い光を放ちながらも、どこか死んだ魚のような目をしていた。


「こ、これは!」


ケースを奪った男が、驚きの声を発した。


「どうした?」


リョウの額に銃を当てながら、男はケースの方を見た。


ケースを開けた男は中身を手に取り、震えながら言った。


「ド、ドラゴンキラーだ!」


「ド、ドラゴンキラーだと!」


リョウから視線を外して、男はドラゴンキラーの方を見た。


「前世紀の対魔物兵器は、すべて残っていないはずだぞ!」


「ま、間違いないよ!だって、図書館で写真見たことあるしいい!」


ドラゴンキラーを見て、五人は歓喜の声を上げた。


「これで、戦えるぞ!」


「これで、俺達だけでも、生き残れるぜ」


リョウの額に当たっている銃口が、震えていた。男は嬉しさから、興奮しているのだ。


「馬鹿じゃないの」


その時、男の耳元で声がした。


「え?」


リョウは、目を疑った。男の顔の横に浮かぶ物体に。


「あんなものだけで、勝てるわけがないだろが」


「何?」


男が振り向こうとした瞬間、銃を持っていた腕があり得ない方向に、曲がった。


「ぎゃああああ!」


男の絶叫とともに、残りの四人が一斉に、リョウの方を見た。


腕が折れた男の喉元に、小枝のようにか細い足が、突き刺さっていた。


小枝…まさに、それくらいしかなかった。


「ま、魔物!」


男が気を失って、崩れ落ちていく間に、四人はリョウとフレアを離し、隠し持っていた銃を抜こうとした。 


「遅い!」


四人が銃を抜く前に、四人の眉間や急所に、蹴りや膝がたたき込まれていた。


「ま、魔物が…」


四人も気を失った。


「魔物じゃないわ」


唖然としているリョウと違って、あまり驚いていないフレアの肩に、五人を倒したものが止まった。 


「ま、まさか…」


リョウは、目を疑った。


「妖精!?」


フレアの小さな顔よりも、少し大きいくらいの人形のような少女。


妖精は、六枚の透明な羽を閉じ、フレアの頭にもたれた。


「あなたを待ってたわ」


妖精は、リョウを真っ直ぐに見据え、


「あたしの名は、ティフィン。人間が、この島に封印された時から…あなたを待っていた」


微笑みかけた。


「ねぇ?フレア」


ティフィンは、フレアの顔を覗き込んだ。


フレアは、ティフィンの言葉を無視して、一歩前に出た。


「丘を越えましょう」


フレアの口調が、少し変わったことに、リョウは気付かない。


「う、うん…」


リョウは慌てて、頷いた。


フレアは、気を失っている男達のそばに落ちているドラゴンキラーを拾い上げると、ケースに収めた。


そして、リョウに渡すと、フレアは先に歩きだした。


ケースは受け取ったけど、事態が理解できず、すぐに動けないリョウを残して、フレアは歩き続ける。


「フレア…何よ。この態度は?あの子なんでしょ?」


少し怒りながらも、声を潜めて話すティフィンに、フレアは言った。


「あの子、自身ではないわ」


「フレア…」


それ以上話さないフレアの肩から、ティフィンは離れると、まだ歩きださないリョウの頭の上に、止まった。


「あんた…早く行かないと、こいつらが起きるわよ。それに、この辺りは最近、こんなやつらが多いだから」


ティフィンは、頭の上でため息をつき、


「武器を奪い合ったところで、生き残れるわけがないのにさあ〜」


「本当に………妖精がいるの?この島に…」


リョウの呟いた言葉に、ティフィンは頭の上から飛び降り、逆さまの形で、リョウの顔を覗き込んだ。


「妖精1人見たくらいで、驚いてて、どうすんだよ…」


またため息をつき、


「あたしだけが、覚えている。あいつは、こんなんじゃなかったわ」


リョウの目の前で、くるっと反転すると、フレアを追い掛けて、飛んでいった。


「……」


リョウは、フレアの後ろ姿と、ティフィンの遠退いていく背中を、リョウは見つめながら呟いた。


「なぜだろ…」


リョウも歩きだした。


「この状況を…見たような気がする…」


ドラゴンキラーのケースを持ちながら、リョウはゆっくりと、足を速めた。


「いこう!」


フレアを追い越し、今度は下りとなった道を、スピードをつけて一気に丘を下っていく。


左右の視界から、木々が消え…すぐに、何もない草原が広がった。


「え?」


いや、何もなかった…ではなかった。


反対側と違い…草原には、数多くの死体が転がっていた。


リョウは丘の途中で、足を止めた。


「殆んどが、ここ最近よ」


フレアが飛んできて、リョウの頭に止まった。


「人間は馬鹿ね…」


「何があったの?」


今まで嗅いだことのない血と死臭に、リョウはまた動けなくなる。


「噂が…ホワイトシティに広がっているの」


フレアがゆっくりと下ってきて、リョウの隣に立った。


「生き残れる方法があると…。武器を集め…人を殺すことで、人間ではなく…魔物になることができる」


フレアは、転がる死体を見回し、


「そして…もっとも、魔物になる近道は、岬に刺さった剣を抜くことだと…」


倒れている死体のそばに、数多くの剣や、ノコギリや棍棒などが落ちていた。


「魔物になっても生きたいと思ったもの達は…丘を越えて、戦った。でも、馬鹿ね。魔物になんかなれないのにさ。なれるのは、ただの殺人者よ。人は、もともと残虐性を持ってるのに。まあ〜」


ティフィンは、死体の上を飛び回り、


「魔獣因子が、あれば…なれたかもね。でも、この世界の人間では無理ね」


ティフィンは、肩をすくめた。


リョウは、前を向いた。遥か向こうに見える海。そのそばに、岬はある。


死体の数は、数え切れない。


「生き残っていた人々の五分の一は、亡くなったはずです」


フレアの言葉に、リョウは叫んだ。


「こ、こんなこと…僕は聞いてなかった!!」


フレアは冷静に淡々と、言葉を続けた。


「あまりの…混乱に、管理局は戒厳令を引いたの。あたし達の村は外れだから、噂は回らなかったし……丘の様子を目撃したまともな人々は、口を閉じたわ」


フレアの言い方に、リョウは気付いた。


「フレアは………フレアは……知っていたの?」


フレアはゆっくりと、リョウに顔を向け、頷いた。


リョウは唖然し、


「だ、だ、だったら……どうして…どうして…」


瞳から、涙が溢れた。だけど、涙を拭わずに、フレアに詰め寄った。


「知っていたら、僕は来なかったのに!!」


僕の絶叫に、フレアは真剣な表情を向け、言い放った。


「あなたは、関係ないわ!あなたには、そんな噂。あなただけが…」


フレアは、リョウの瞳を見、悲しく微笑んだ。


「真実なの」


フレアの口調は、同じ14歳とは思えなかった。


燃えるようなフレアの瞳に、リョウは息を飲んだ。


「こんなところで、言い争っても仕方ないわ」


緊張が走るリョウとフレアの間に、ティフィンが割って入った。


「真実は、剣を抜いた時にわかるんだからさ」


ティフィンは特に、フレアに顔を向けて、説得した。


フレアは何も言わずに、リョウに背中を向け、死体の上を歩きだす。避けて、通る隙間がない。


リョウも、来た道を戻るわけにもいかずに、フレアの後に続く。


歩きながら、リョウは考えていた。


(フレアが知ってるなら…父さんは知ってたはずだ)


管理局に勤めていたロバートが、知らないはずがない。


それなのに、行けと促した。


(どうしてなんだ?)


疑問を抱きながら、リョウは死体の隙間を、爪先を入れながら、進んでいった。


仕方なく…人を踏んだ時の靴から感じる感触に、リョウは顔をしかめた。


「俺の屍をこえていけ!」


ティフィンが、リョウの横に飛んできた。


「そういうのが、人間は好きなんだろ?」


ティフィンの言葉に、下に集中しているリョウはこたえた。


「好きなわけがないよ」


ある程度進むと、死体の数は減っていった。


楽に歩けるようになると、リョウはティフィンにきいた。


「岬にたどり着いた人はいるの?」


「いたけど…」


ティフィンは、肩をすくめ、


「誰も、剣に近付けないわ」


「どうして?」


ティフィンは、リョウの周りを一回転し、


「行けばわかるけど…守ってるやつが、化け物なのよ」


顔をしかめた。


「防人……」


フレアは足を止め、空を見上げていた。


リョウはフレアに追い付くと、見上げた。


ヒビが多くなっている。


もう指で弾いただけで、砕けそうだ。


「何とか…間に合ったわ」


フレアはそう言うと、リョウの腕を取った。 


「フレア」


「飛びます」


「え?」


リョウの腕を持つフレアの手に、少し力が入った。


すると、フレアとリョウはその場から消えた。


それを見たティフィンは微笑み、


「頑張れ。あんたにかかってるんだ。いや…」


肩をすくめて、首を横に振った。


「かかってたんだ…」


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