第127話 愛おしく
クレアの襲撃から、数日が過ぎた…放課後。
屋上に、輪廻は立っていた。
夕焼けが、いつもより鮮やかに、赤く輝いていた。
輪廻は目をつぶり、腕を組みながら待っていた。
やがて、夕焼けが沈みだした頃、輪廻は目を開け、振り返った。
「来たか…」
輪廻の視線の先に、空牙が立っていた。
「お前のせいで…」
輪廻は、体を空牙に向け、
「この世界で、おれを殺すことができる存在はいなくなった」
優しく微笑んだ。
「どうしてくれる?」
空牙は、輪廻の質問には答えずに、ただ真っ直ぐ輪廻を見つめ、言葉を絞り出した。
「あなたは…どこから来ました?」
「どこから?」
輪廻は逆に質問され、頭をかいた。そして、振り返り、沈みゆく夕陽を見つめ、
「……さあな。ここではない…どこかだ。いろんな世界を回ったから…もうどこで生まれたかは、わからない…ただ…」
記憶を手繰った。
「魔王に呪いをかけられた。死ねない魔法。魔王に逆らったから…その罰に…。逆らった内容は、覚えてないが…なぜだろうなあ…。後悔はしてない」
フッと笑うと、輪廻は空牙に顔を向けた。
「……」
空牙はただ、話をきいていた。
「この呪いは、おれに呪いをかけた魔王以上の力を持つ者しか、解けない。だから…おれは、呪いを解いてくれる…つまり、おれを殺せる相手を探して、あらゆる世界を彷徨った…」
輪廻の言葉に、空牙は唇を噛み締めた。
「もう…どれくらいの時が過ぎたか…わからない。いくつもの時空間を彷徨い…やっと見つけた。お前を」
輪廻は、空牙をじっと見つめた。。
「おれには、わかる。お前は、おれに呪いをかけた魔王を超えている。お前なら、おれを殺せる」
輪廻は、一歩前に出て空牙に願った。
「さあ!おれを殺してくれ!もうおれは…自由になりたいんだ!!」
輪廻の願いは、切実だった。
「さあ!早く!」
輪廻の覚悟に、空牙は無言になった。ただ…手を電気でスパークさせると、その手を顔の前に持っていき、表情を隠した。
「…」
数秒だけ間を開けた後、輪廻にきいた。
「死ぬ…ではなく、これからも生きる道を選べないのですか?」
「それは、無理だ」
輪廻は即答した。
「なぜ?」
「おれは、死んでいる。死んだが…魂を捕らえられ、時の呪いとともに、この肉体に縛られているだけだからだ」
空牙は、すべてを悟った。
「わかりました…」
空牙の手が、さらに輝く。
「あなたの願い…叶えましょう」
空牙は、天に手をかざした。
その姿に、輪廻の瞳から涙が流れた。
「悲しいのではない…。なぜだろ…とても、嬉しい」
「雷…空…牙!」
夕焼けの空に似合わない…雷鳴が轟いた。
「立派になって…」
消滅する刹那、輪廻は愛しそうに、空牙を見つめ、笑いかけた。
「さよなら…」
空牙は、消えていく輪廻に、頭を下げた。
「母さん…」
そして、そのまま…崩れ落ちた。
夕陽もなくなり……夜が…月だけが…空牙を見守っていた。