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第126話 哀しく

梓ははっとして、性眼の腕の中で、顔を上げた。


先程まで梓を抱いていた人造人間の腕に、無数の目が生えて、動きを封じていた。


「こんな…機械人形!」


響子の目が光り、人造人間の目を見据えた。


心を除去されているとはいえ、人造人間は明らかに神経をベースにして、機械が埋め込まれていた。


脳細胞を破壊したら、完全に動きが止まるはずだ。


しかし、突然目が真っ白になり、目からの情報を遮断した。


「何!?」


唖然となる響子の頭上から、声が落ちてきた。


「馬鹿が!お前の能力など、お見通しだよ」


響子は、その声を聞いた瞬間、後ろに飛んだ。


とすぐに、クレアのかかと落としが、響子のいた場所の地面を抉った。


「クレア!」


響子は体勢を立て直しながら、叫んだ。


「性眼!梓様を連れて、逃げろ!」


その言葉に、クレアはにやりと笑った。


「やはり…こちらが、本物か!」


「性眼!逃げろ!」


一瞬で間合いを詰めるクレアに、性眼は目を見開いた。


すると、クレアの体に、無数の目が生える。


「馬鹿が!」


クレアの一喝で目は消滅し、性眼の目から、血が流れた。


「この程度の力で、神であるあたしを縛れるか」


クレアの口から、鋭い牙が覗かれた。そして、右手を突き出すと、衝撃波が性眼だけをふっ飛ばした。


クレアは、さらに左手を突き出すと、空中に浮かんだ梓を引き寄せる。


「さあ!女神よ!あたしに力を!」


クレアは、口を大きく開いた。


「梓様!」


間に割って入ろうとした響子に、性眼の呪縛から開放された人造人間が、ぶつかってきた。


「きゃっ!」


ふっ飛んだ響子を、唐突に現れた空牙が受けとめた。


そして、人造人間の後ろから、輪廻がジャンプし、人造人間の頭に手をかけると、そのまま飛び越した。


輪廻が着地すると同時に、人造人間は錆付き、活動を停止した。


「時使いか…」


響子は一瞬で、輪廻の能力を理解した。


(ほお…)


空牙は心の中で、感心した。


「あたしを殺せないなら…お前は死ね!」


輪廻は、胸につけていた校章を取ると、それをクレアの額に向けて投げた。


投げるときに指先で回転を加えた校章は、クレアの額の上で、駒のように回り出す。


「ぎゃああ!」


クレアは慌てて、校章を叩き落とす。


その間に、梓を輪廻はキャッチした。


「天道さん!」


少し涙ぐんでいる梓に、輪廻は笑いかけると、


「やはり、お前といると…会ったな」


輪廻は九字を切り、人差し指と中指を立てた手剣で、


「臨兵闘者皆陣列在前!」


クレアの呪縛を切った。 


素早くクレアから離れ、梓を空牙達のそばに置くと、そのまま地面を蹴って、クレアに突進した。 


「貴様は!この世界の者ではないのだろ!邪魔するな」


クレアの両目が、赤くルビーのように輝いた。


「異世界…」


クレアの言葉に、空牙が反応した。


そんな空牙を、響子は気に掛かったが…今は、そんな場合ではない。


「梓様!」


響子は、空牙から離れると、梓に駆け寄った。


「なんなの…」


梓は、クレアの殺気を浴び、がくがくと震えていた。


「今度は!」


輪廻は、落ちていた小枝を握ると、気を込めた。ネクタイよりは固いので、硬度はさっきより上がっている。


首筋に突き刺そうと、ジャンプした。


「舐めるな!」


クレアも前に出た。


真正面から、輪廻と梓がぶつかる。


「ウグゥ…」


輪廻の胸から、背中まで、クレアの腕が貫いていた。


輪廻の小枝は、突き刺さっていない。


「お前を殺せなくても…お前にやられるあたしではないわ」


クレアは腕を抜くと、鼻を鳴らした。


崩れ落ちる輪廻。


その瞬間、空牙は目を疑った。


(な…)


輪廻を見て、梓は両手で顔を覆い、絶叫した。


「いやああああああああああああああああああああ!」


梓のたかが外れた。意識は失ったが、その代わり…心の奥に眠っていた力が、開放された。


梓の心臓辺りから、眩しいばかりの光が、辺りを照らした。


「この輝きは…」


クレアは梓の方を見て、眩しさに目を背けることなく、歓喜の表情を浮かべた。


「太陽!」


しかし、バンパイアであるクレアの体が、焼かれない。


「この太陽の力を、我が身に取り入れれば…我は、昼間も手に入れることが、できる!」


「梓様!」


響子は何とか、梓の力を抑えようとするが、無理だった。


(太陽……。そうか!)


空牙は、輪廻に近づこうとして足を止め、梓を見た。


(こいつが…この世界の真の神か…)


神は、この世界に1人だ。唯一無二の存在。


(しかし…)


空牙は、目を細めた。


涙を流す梓を見て、


(力を拒否している…)


ただ梓を見つめる空牙に、響子は叫んだ。


「雷!貴様なら、この力を制御できるだろ!クレアにとれる前に…」


響子の言葉に、空牙はフッと笑い…無視して、空牙は輪廻に近づいていく。


「力を…太陽の力を!」


クレアは、気で響子をふっ飛ばすと、暴走している梓の肩を掴み、首筋に噛み付いた。


クレアは、ゆっくりと梓の血を吸った。


そして、首筋から離れると、背中を反らすくらいに、喜びから身をくねらせた。


「太陽が、我の中に!」


クレアは顎を天に向け、月を見上げた。


「月よ!我は、明日より…あなた以外も………」


クレアは最後まで、言葉を発することができなかった。


月を見つめる…クレアの瞳が赤く……赤く…燃えていた。


瞳だけでなく、クレアの体の中から燃えだした。


「ど…どうなっている?」


響子は立ち上がると、梓のもとに走った。そして、梓を後ろから、抱き締めながら、燃えていくクレアを見つめた。


「当たり前だろ…」


空牙はもう…クレアを見ることはなかった。


ため息だけを最後につき、


「そんな簡単に…神になれるか…」


空牙は、輪廻のそばに立った。


もう輪廻の胸に開いたはずの穴は、消えていた。


空牙は、輪廻の首筋についた傷と、漂う魔力を確かめていた。


「やはり……」


空牙は、輪廻の体がピクッと動いたのを確認すると、彼女から離れた。


そして、力を放ち続ける梓のもとへ向かった。


「女神!」


響子は、何とか力を沈めようとしているが、制御できない。


空牙は、梓の前に屈んだ。


梓の体から漏れる光に照らされながら、空牙は眩しさに目をやられることなく……ゆっくりと人差し指を伸ばし、


「この子の力を封印する」


額に手を当てた。


「なんだと!」


響子は驚いた。


「この子は…力を拒んでいる…。このまま…目覚めても、狂うだけだ。それならば…」


空牙の指が、額に当たると…梓の体から、光は消えていく。


「封印した方がいい…」


空牙は人差し指を離し、立ち上がった。


「いずれ…力は彼女の子孫に受け継がれ…その子に、覚悟と才能があれば…封印は解ける…」


空牙はそう言うと、梓に背を向けた。


「ま、待て!」


その場から消えようとする空牙に、響子が声をかけた。


「梓様に封印をしたのは、いいが…これからどうする!ファイブスターは、あと三人いるんだぞ!やつらが、襲ってきたら…」


「心配するな…」


空牙は、振り返り、


「今から、殺しに行く。不完全なバンパイアなど、不愉快だ」


そう言う空牙の雰囲気に、響子はぞっとした。


瞳の奥から、殺気が滲み出ていた。


少し後退りしてしまう響子に、空牙は笑うと…その場から消えた。


「どうなったんだ?」


空牙の消えた空間を見つめていた響子に、傷が癒えた輪廻が平然と立っていた。


「あいつは…どこにいる?」


輪廻は、クレアではなく、空牙を探した。


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