表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/563

第11話 戦士の目醒め

「モード・チェンジ!」


僕の体は、輝くことも、変わることもなかった。ただ…少し体が、軽く感じられた。


「考えるではなく、強く願え!」


サーシャは、空中で魔物と揉み合いながらも、僕にアドバイスをくれた。


僕は目を瞑り、強く願った。


「僕は!強くなりたい!」


「お前は連れて行く!!」


2匹の魔物が手を広げ、僕に迫ってきた。


違うだろと、僕は心の中で叫んだ。


「僕は強い!!」


頭の中にイメージが、浮かぶ。敵を倒すというイメージ。


「いやあ!」


気合い一声。僕は人差し指と中指を突き出し、居合い抜きのように腰をため、一気に気合いとともに、宙を切る動きをした。


「馬鹿な…」


僕をさらおうとした一匹の魔物の肩から腰にかけて、袈裟切りのような傷と…傷にそって、炎が発生した。


「剣だと!炎の」


残りの一匹は空中で急ブレーキをかけ、様子を見ようと、僕から離れた。


その動きを察知した僕は、考えた。どうすればいいのか。


だけど、頭より先に、体が動いた。僕の手のひらの中で、炎が生まれ…すぐに形作った。


銃声が響き渡った。


僕の手に生まれたものは、炎で創ったライフル銃だった。僕は何度も、引き金をひいた。無数の炎の玉が魔物に命中し、体の中に入ると同時に破裂し、内側から魔物を焼き尽くした。


「それが、君の特殊能力か」


髪の乱れを手ぐしで整えながら、サーシャが近づいて来た。


(何をしたんだ?)


彼女の後方に、巨大な筒状の細長い穴が空いており、魔物は穴の底で、ペチャンコに潰れていた。


「炎を物質化させ…あらゆる武器を、つくることができる。それも、ポイントを使うことがない。あなた自身の能力。そのような能力を持つ者は、純粋な人間では少ない」


サーシャは初めて、僕に笑いかけた。


「これが…僕の…力…?」


自分の両手をまじまじと見つめたが、これといった変化はない。


「カードを見たらいい」


男の声で言われたけど、僕は興奮していたからなのか…その変化には気づかず、慌ててカードを、ポケットから取り出した。


「レベル…72!?」


昨日まで12だったのに、一気に…60も上がった。


「俺達が、レベル80。死に物狂いで、経験値を上げてね。あまり経験のない君が、今のレベルなら…すぐに追い越せるよ」


「え!」


僕はやっと、声の変化に気づいた。顔を上げた僕の前に立つのは、先程助けてくれた男だった。


「そうか…。挨拶が、まだだったね」


男は、僕に手を差し出した。


「俺の名前は、ロバート・ハイツ」


僕は慌てて、ロバートの手を握った。


「赤星浩一です」


ロバートは、にこっと笑った。


「君のことは知ってるよ。有名人だからね」


「有名人!?」


ロバートは握手を解くと、僕の傍らで眠るように亡くなっている奈津子の側で腰を屈めた。そして、開いている目を、手でそっと閉じてあげた。


「と言っても…防衛軍関係者の間だけだけどね。それも、トップクラスの」


ロバートはいきなり、手袋をつけると、奈津子の身体を調べ出した。訝しげに僕が見ていたけど、ロバートは気にしない。手際よく、奈津子の財布を見つけ出すと、カードを取り出した。


そして、ボタンを押した。


「これで、すぐに警察が来る」


ロバートは、カードを元に戻すと立ち上がり、僕に顔を向けた。


「いこう」


ロバートは、上着の内ポケットから、自分のカードを取り出した。


「え?」


「もう時間がない。警察の事情聴取を受けてる場合じゃないからね」


ロバートがカードをしまうと同時に、車に似た乗り物が召還された。タイヤはないが、空中に50センチくらい浮いていた。2人乗りで、軽自動車より、一回り小さかった。


「詳しい話は、この場を離れてからにしょう」


オープンカーに似ている乗り物のドアに手をかけると、ロバートはドアを開けることなく、ひょいと中に乗り込んだ。


「さあ、赤星君。行こうか」


ロバートは、実世界の車のキーを差し込むところに、カードを差し込んだ。


「…」


僕は…車の前で、無言で立ち竦んでしまった。


「赤星君?」


車を出そうとしたロバートは、運転席から僕を見た。


「どうかしたのかい?」


ロバートの質問に、僕は自分でも戸惑いながら、言葉が出なかった。


「ぼ、僕は…」


口ごもる僕に、ロバートは軽くため息をついた。


「こわいのかい?」


「いえ」


自分でも驚くぐらいに、それは否定した。


「じゃあ…」


ロバートは、何か言おうとしたけど、遠くからサイレンが聞こえてきたので、言葉を止めた。


警察が近づいていた。


ロバートは、僕の目の中をじっと見つめた。


僕も、目をそらさない。


「そうか…」


ロバートはフッと笑うと、すぐに笑顔になり、


「じゃあ、今は…」


僕に手を差し出した。


「前だけ、進めばいい」


ロバートの言葉に、僕は頷いた。


そして、差し出された手を、握り返した。




車は街から離れ、ひたすら何もない草原を走る。


暗い夜道を、ただ真っ直ぐに。


「かつて…ここは、人間の街はたくさんあった…」


ハンドルを握りながら、ロバートは話し出した。


僕はドアにもたれながら、流れる景色を眺めていた。心地よい風が、頬を撫でるたびに、少し気持ちよかった。空気は、街中より澄んでいた。


「今は…魔界に近い…」


ハンドルのそばに付けられたナビは、行き場所を教えるだけでなく、魔物の居場所を教えてくれる。


僕らの進む方向にそって、魔物の反応は沢山あった。


だけど、肉眼では確認できない。一定の距離を取って、僕らについて来ているようだ。


「心配しなくていい。奴らは、襲って来ないよ」


ロバートはいきなり、ハンドルを右に切った。


すると、ナビに映る魔物の反応が驚いたように、ばらばらに散らばった。


「こいつらは、街近くにいる魔物と違い…ある程度は、相手のレベルがわかる。まあ…わかるようにしてるんだが…」


ロバートは、ハンドルを戻した。


「奴らも、死にたくないのさ」


僕は、ロバートの言葉にも無反応だ。なぜかロバートの言葉は、耳を通り過ぎる風の音より、耳に入らなかった。


数時間、ただ真っ直ぐ走っていると、遠くの方に街が見えた。深夜なのに、明るい人工的な光。その輝きはもしかしたら、人間が住む街こそ、この地球にとって魔界ではないのかと…僕に思わせた。


「あの街が、大陸への入り口だ」


いつの間にかナビに、魔物反応も消えていた。


ロバートはハンドルを切り、街とは少し離れた場所を目指した。


「近くで、テントを張る」


光に包まれたドームのような街の横を、車は走っていく。


1分もしないうちに、目の前に広大な闇が、月と街の明かりに照らされて、輝いていた。


「海…」


右に曲がると、海岸線の国道に入る。


僕は少し顔を上げ、車から海を眺めた。最近、嗅いでいなかったが、紛れもなく潮の臭いだ。


「着いたよ」


車を止めたロバート。


僕はドアを開け、外に出た。手を広げても、足りない程…海は大きい。


車は国道を外れ、岩場の多い草むらに止まっていた。


眼下に、砂浜が見えた。砂浜までは、結構な段がある。


何もない海。


右に顔を向けると、少し離れたところに、港があった。


「あれが、大陸へ渡る為の港だ」


ロバートは、僕の隣に立った。


風は穏やかで、優しい。その優しさは、汚染されていないからだと気づいた。


「海が、綺麗ですね…」


しみじみと言う僕に、ロバートは少し驚き、しばらくして納得した。


「君の世界は、科学の世界だったね。この世界は、燃料を使わないから…」


「燃料を使わない?」


僕は思わず、ロバートに顔を向けた。


「すべては、自然と大地の理の中で…」


ロバートは、カードを僕に示した。


「昔、科学に興味を持って…シミュレーションをしたことがある。燃える水に、燃える気体。便利ではあるけど…それによって、人は大切なものを失うことに、気づいた」


「大切なもの?」


ロバートは深く頷き、海を見つめた。


「自然の恵みと美しさ。この星は、人間だけのものじゃないからね」


ロバートはカードのテンキーを押すと、岩場そばにテントを召喚させた。


「向こうの岩場の影で、少し休もう。念の為、結界は張っておくから」


三角のテントに入ろうとするロバートの背中に、僕は問いかけた。


「どうして、この世界は綺麗なのに!どうして、魔物がいるんですか!」


「そうか…。君の世界は、魔物がいないんだね」


ロバートは振り返り、僕の目を見つめながらこたえた。


「理由は、魔物がいるからだよ」


「魔物がいるから…」


僕には、ロバートの言葉の意味がわからなかった。


ロバートは、頷いた。


「この世界は、魔物という天敵がいる。だから、人は奢らず、自然を壊さない」


ロバートの言葉に、僕は絶句した。


そして、わなわなと震え出す僕を、ロバートは静かに見つめた。


僕は、両拳を握り締めると、


「だったら…だったら…」


ロバートを睨んだ。


「魔物は、必要というんですか!人が、殺されてるのに!」


僕の脳裏に、魔物に貫かれて殺された奈津子の姿が、甦った。


「そんなのいいわけが、ない!」


僕の絶叫に、


「だから、俺達がいる」


ロバートの強い言葉が、答えた。


「俺達が、人々を守る。確かに、守れなかった命もある。だけど俺達は、できるかぎりの努力をして、できるかぎり以上の人々を、救わなければならない!」


「ぼ、僕は!」


僕は、ロバートをさらに睨んだ。


「戦う義務なんてない!」


僕の心の叫びが、静かな海辺に響き渡った。


その瞬間。





僕は、暗い部屋のベットの上に戻っていた。実世界…自分の世界に。


気付くと、自分でも泣いてるのがわかった。右腕で涙を隠しながら、僕はしばらく…泣き続けた。


こちらは、もう夜が明けていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ