第123話 仰々しく
昼間でも、流れ星が落ちていく。
太陽の光が強烈過ぎて、見えないが…星は瞬き…闇は、世界を覆っている。
我々は、ただ一つの恒星に守られているだけなのだ。
「眩しい!」
朝の強烈な日差しに、目を細めながら、梓は歩いていた。
遠くに見える煙突が、異様だった。
男の子達は、喜んでいるようだけど…青い空に、黒い色を塗ろうとしている筆に見える煙突は、梓は嫌いだった。
(空を黒くするものは、嫌い…)
梓は、あの悪意が落ちた時、県の日本海寄りの親戚の家にいた為に、死ぬことはなかった。
だから、黒い雨を見たことはない。見たとしても、まだ小さい時が、記憶には残らないだろう。
立ち並ぶ煙突を、復興の証と呼ぶ者もいたが…梓にはあの悪意と種類は、同じだと感じていた。
事実…数年後には、日本中を公害問題が起こることになる。
明るく見えるこの国の未来は、実は汚れていくことを…まだ梓は知らない。
梓が引っ越して来た町の隣は、新興の工業地帯であった。
高い建物がないため、煙突は近く見えるが…車や電車でないと、そこまで行くことはできなかった。
梓は、学校までの道を歩いていた。
国道は少し整備されていたが、まだまだ周辺の道路は、むき出しだった。
慣れない通学路は、少し高台を通っており…学校はさらに上にあった。
毎日、これは苦痛だなと、梓は心の中で、ため息をついていた。
少し家を出るのが、早かったのか…まだ梓以外、歩いている者がいない。
見上げると、数メートル上を走る通学路の上に、学校が見えた。
「拷問だ…」
梓は毒づきながらも、歩く足を速めた。
ちんたら歩くより、急ぐ方が、梓の性に合っていたからだ。
軽い山歩きの感覚で、やっと校門に見えるところまで、歩いてきた梓の目に、1人の少年の姿が飛び込んできた。
腕を組み、校門にもたれながら、少年は誰かを待っているように、佇んでいた。
(風紀委員?)
梓は、訝しげに首を傾げながら、校門に近づいていった。
少し早足になる梓の目に、少年の顔がはっきりと、映し出された。
(彫りの深い顔だ…)
それが、第一印象だった。
そして、少し分厚い唇に、まっすぐな眉。鼻が高い。
一瞬で、梓は分析していく。
少年は、目を閉じていたから、瞳の感覚はわからなかった。
梓は、別に声をかけられる訳でなく…少年の前を通り過ぎた。
振り返ることなく、校舎に向かう梓。
もし…振り返ったなら、少年と目があったことだろう。
「まさか…最初の学校…最初の生徒で、ビンゴとは…」
瞳を開けた空牙は、口元を緩めた。
観察していたのは、梓だけではない。
空牙もまた、梓の内側を探っていたのだ。
校門から離れ、学校内に入ろうとした空牙は、妙な視線を感じた。
刺すような視線。
振り返った空牙の真後ろ…3メートル程向こうに立つ…1人の女。
背中で鞄を背負い、じっと空牙を見つめる…その視線は、鋭かった。
(誰だ?)
空牙は、その女と面識がなかった。
とっさに、女の心を読もうとした。
(!!)
が、心が読めなかった。
それは、この世界に来てから、初めてのことだった。
(馬鹿な…。ブルーワールドでも、余程の術者でないと…心を読まさないことなど…できない)
空牙は右手の指を揃え、攻撃体勢に入ろうとした。
その時、女はぺこっと頭を下げると…空牙の真横を通り過ぎていった。
3メートルは離れていたはずなのに、女は空牙を追い越して行った。
(瞬歩?あり得ん!)
空牙は、女の動きを追った。
もう五メートルは、離れていた。
(何者だ?)
空牙は、女の背中を見つめた。
背中まである長い黒髪を靡かせながら、 女は校舎の入口に向けて歩いていく。
そのすぐ前に、梓がいる。
空牙は、軽く舌打ちした。
(魔ではない……この感覚は…しかし)
空牙は、梓よりも髪の長い女を見つめ、
(普通の人間ではないな)
その場で、少し考え込んでしまった。
「き、君は…この学校の生徒じゃないね」
思いを巡らしていた空牙の後ろから、がに股で頭の薄くなった中年の男が、近づいてきた。
接近に気付いていたが、空牙はその男を無視した。
男は大袈裟に、空牙の前に回り込んで、顔を覗き込んだ。
「今日は、転校生が二人来ると聞いていたが……二人とも、女の子のはずじゃが…」
訝しげに顔を近づけてくる男に、空牙は笑いかけた。
「いやだな〜あ…先生…。雷ですよ。雷」
「ライ…?」
首を傾げた男を見る空牙の目が、妖しく光った。
「ライ……ライ…ララ…ライ……雷君かあ!ごめん、ごめん!」
男は照れ笑いを浮かべ、頭をかいた。
「そうですよ。転校生と同じクラスの…」
空牙の言葉を反復するように、男は話しだす。
「転校生と同じクラスの………………3年3組の雷君か!」
(3年3組か…)
空牙は笑いかけながら、さらに心の中で、ほくそ笑んだ。
「じゃあ…失礼します」
空牙は、男に頭を下げた。
「あっ!ああ…」
男は、右手を上げた。
空牙は、男に背を向けて歩きながら、心の中で考えていた。
(この学校全体に、結界を張るか?しかし…あの女の正体がわからない…。下手に動けん)
空牙は邪魔くさいが、一人一人に、暗示をかけることにした。
足を止め、振り返った。もう数人の生徒が…校門をくぐろうとしている。
(暗示を呪いにするか)
空牙は、校門に戻り、数人の生徒に暗示をかけた。
そして、命じた。
今から校門に立ち…登校してくるすべての生徒に、暗示をかけろと。
十人の生徒が頷き、校門や裏門…生徒や先生が通る場所にも、数人をまわすことにした。
「学校か……初めての体験だな」
空牙は、詰襟を指で確認すると、梓達が入った校舎に向かった。
始業のチャイムが鳴り響いた。
戦前からあった校舎のほとんどが、焼き落ちており…新たにつくられた校舎は、まだ新しいはずなのに、白い壁が薄汚れていた。
焼け残った南校舎と、対になるように建てられた新たな校舎と、校舎間を結ぶ中央館。
中央館は、校門近くにあり、下駄箱や水飲み場…実験室等があった。
梓用の下駄箱は、用意されていた。
一番最初についてしまった梓は、教室に向かうよりも…職員室を探した。
(新館って…)
少し戸惑っていると、梓の横を髪の長い女生徒が、通り過ぎて行った。
「こっちよ」
追い抜き際、女生徒は呟くように、梓に言った。
「あっ…はい」
思わず返事をしてしまった。
どこか大人びて、切れ長の瞳が、印象的だった。
梓は、女生徒の後ろを付いていった。
新館の一階の奥にある職員室で、担任を紹介されると、今度は担任に付いて、梓は教室へと来た道を戻っていく。
驚いたことに、隣には女生徒もいた。
何と同じクラスだという。
(同じ年だなんて…。絶対、あたしより年上に見える)
梓は、ちらっと女生徒を見た。
女生徒は、まっすぐ前を向いている。
まあ…梓は中3であるから、年上はあり得ないのだが。
緊張しながら、担任が入った後、梓と女生徒が順に入る。
「新しい仲間を紹介します」
担任の言葉とともに、騒ついていた教室が静まり返る。
教壇の横に立つ梓と、女生徒。
担任が、黒板に名前を書き、一通り説明した後、
「じゃあ…簡単に自己紹介をして貰おうか」
担任が、梓達を見た。
梓は鞄を前に持ち、大きく深呼吸した後、一歩前に出た。
深々と頭を下げ、
「……から来ました。赤星梓です。よろしくお願いします!」
と、少し力みすぎ…予想外の大声で、梓は挨拶をしてしまった。
それとは、対称的に…女生徒は淡々と、低い声で言った。
「天道輪廻。よろしく…」
軽く首だけで、頭を下げた。
「赤星梓に…天道輪廻か…」
3年3組の教室内に、普通に座っている空牙の横に、1人の生徒があたふたしていた。
「あのお…雷君…。ここは、僕の席じゃあ〜なかったかな?」
勇気を出して、恐る恐るきいた男子生徒に、空牙は微笑んだ。
「君は、隣のクラスじゃなかったかい?」
空牙の瞳に見つめられた男子生徒は、びくっと体を震わせた。そして、大袈裟に手を叩くと、
「そうだ!隣だった!ご、ごめん」
妙に顔を赤らめて、そそくさと教室を出ていった。
空牙はフッと笑うと、視線を前に戻した。
「――というわけで、これからみんな!彼女達と仲良くしてやってくれ」
担任は次の授業の為、教室から出ていった。
梓と輪廻は、それぞれ空いている席に座った。
(さて…どうしたものか…)
空牙は二人を観察しながら、次の行動を考えていた。
このまま…すぐに拉致してもいいが…。
(それでは…つまらん)
空牙が思案していると扉が開き、次の授業を受け持つ先生が入ってきた。
一瞬、生徒かと見間違う程、おぼこい顔。
その先生を見たとき、空牙は少し顔をしかめた。
(これは…これは……)
そいつもまた…人間ではなかったのだ。
教壇の前に立った…顔の割に、少しツンとした印象を与える女教師。
白を基調としたスーツに、薔薇のブローチをつけた女教師は、真っすぐに前を向いたまま…動かない。
その間に、生徒達は…起立、礼、着席をすます。
(この中に…いるのか)
真っすぐに前を向いているが、悟響子は心の中で、生徒達の心を探っていた。
(姫は…わかっている)
他の者には、わからないだろうが…この国の人ならざる者なら、わかる。
はずなのに……1人わからないのが…いる。
響子はゆっくりと、梓の近くに座る輪廻の方を見た。
(何者だ?)
響子が輪廻の方を見ると、その後ろで軽く手を振って、愛想を振りまく空牙がいた。
(綺麗な人だ)
空牙の心の声を聞いて、響子は思わず顔を赤らめて、視線を一瞬、外した。
その様子を見て、空牙は心の裏で笑った。
授業が終わり、リズムを刻むように歩いていく響子の後ろに、性眼が現れた。
「悟様…。校長がお呼びです」
性眼の囁くような小さな声に、響子は足を止めず、顔を見ないで言った。
「学校では…佐藤と呼べ」
「わかりました」
性眼は足を止め、
「お嬢様」
深々と頭を下げた。
響子は肩を震わすと、足を止め、振り向いた。
「お嬢様もやめろ!」
性眼を睨むと、響子はリズムを速めながら、走るように廊下を歩いていった。
その間、性眼は顔を上げはしない。
響子の足音が聞こえなくなるまで、顔をあげることはなかった。
「――ったく……何用だ?」
梓の転校日に合わせて、無理やり編入してきた響子は、新館奥の職員室の隣にある校長室を、目指した。
「うん?」
中央館を抜け、渡り廊下を渡ると、響子は左に曲がった。
すると、目の前に異様な人物が二人立っていた。
立っているというより、少し屈んでいると言った方がいいのか……。
天井に背中が、ついているのだ。
職員室から出てきた男子生徒が、その二人組に驚きながら、響子の方に歩いてくる。
「外人さんは、でかいなあ〜」
と妙に、感嘆している男子生徒を無視して、響子は校長室の前まで行った。
まるで、左右を守る守護神のように立つ二人組は、黒いスーツに、黒いサングラスをかけていた。
「こ、こんな…兵器を持ち込みよって!」
響子は、校長室のドアを開ける為に、二人組の間を通った。
力任せに、ドアを開けると…拍手が響子を出迎えた。
「さすがは、元大日本特務部隊特殊課を束ねていた悟殿。動きが早い」
校長室には、校長はいなかった。
代わりに短髪のブロンドが、眩しい男が、奥にある茶色の机の向こうに、座っていた。
「いや…外務省にも、席を置いていたね。最初は、心を読む君の能力がわからずに、外交面では苦労したよ」
皮張りの黒椅子に座っていた男は、立ち上がり、
「まあ〜しかし…。結果的には、軍部の無能さによって…折角の君の外交能力も、生かされることはなくなったけどねえ〜」
男のかけたサングラスが、妖しく光った。
「誰だ?貴様は?」
響子は、机の向こうにいる短髪の男を睨んだ。
心を読もうとしたが……肝心の心がなかった。
「クククク…」
男は含み笑いをしながら、かけていたサングラスを取った。
瞳が異様に充血し…血管が浮き出ている。
響子は眉を潜め、心ではなく…身体的特徴を探った。
すぐに、おかしなものに気付いた。
「貴様…従者か…。バンパイアの…」
響子は腕を組み、目の前にいる男を睨んだ。
「ほお〜」
男は立ち上がり、感心したように頷き…腕を背中に回すと、机の向こうから出てきた。
響子を、充血した目で見つめながら、
「さすがは、八百万の神々の中でも、その中を轟かす…妖怪サトリ。我をバンパイアの従者と知っても、驚かないか?」
男は顔を、響子に近付けた。
響子は逃げなかったが、顔をしかめた。
「あんたの…ご主人様だったら、少しは警戒するけどさ…」
響子は少し顔を離し、
「今は、昼間。あんたのご主人様は…棺の中かい?」
響子は微笑みながら、嫌みぽく言った。
「…フン」
男は鼻を鳴らすと、響子から離れた。
また机を回ると、椅子に腰かけた。
「要件を言おう」
男は前屈みになり、机の上で腕を組んだ。
「君達の神を渡し給え。もうこの国には、必要ないはすだ」
男の言葉に、響子は何もこたえない。
「君達の国は負け…計画は、断念された。今…彼女を有効に利用できるのは…我々だけだ」
「フン!」
今度は、響子が鼻を鳴らした。そして、机に近づくと、右手を置き、
「それは…あんたらの国も同じはず!戦勝国も、敗戦国も疲弊したはずよ」
響子の言葉に、男は鼻で笑った。
「君は…我が、バンパイアの従者だと知って…ヨーロッパだと思い込んでしまった…」
男は肩をすくめ、
「認識力が、乏しすぎる…」
憐れむように、響子を見上げた。
「今…あらゆる権力が、一つの場所に、収益されている」
男の言葉に、響子はすぐに理解した。
「アメリカか…」
男は唇の端で笑い、今度は椅子にふんぞり返った。
「わかっただろ?君達…はわが国家の植民地だ。我々の命令に、逆らう権利はない」
「日本は、独立した!れっきとした国家よ!」
思わず声を荒げた響子に、男は笑った。
「ははははは!我が国の基地があり…この国の首都といわれるところにも、まだ駐屯兵がいる!こんな国が、独立国家か?」
男は立ち上がると、机の端に手を置いている響子に顔を近付け、
「違う……違う!違う!断じて、独立国家ではなあい!」
声を荒げながらも、どこか嘲るような男の口調に、響子の全身が、小刻みに震えてくる。
そんな響子を見下しながら、男はさらに言葉を続けた。
「そもそも…この国が、独立できたのも……この国が、我が国の!そして、資本主義の尖兵とする為だ!この国は、一つだけ運がよかった!それは!この国の位置関係だ!中国とソ連を東から挟み込める!それだけの価値しかない!いや、あってよかったのかな?」
男の話を聞いて、響子の顔は怒りから、真っ赤になっていた。
そんな響子が面白くて、たまらないらしい。男は満面の笑みを浮かべ、
「それに……今この国に…神がいるのかね?シンボルである現人神は、力を失い…。君達…八百万の神々も、戦争で死んでいった」
男は楽しくて、仕方がない。
「今…お前達の仲間は、何人いる?新たな戦力をつくろうにも、資源と時間がない。人から生まれ…覚醒する為には、最低十年はかかるだろう」
確かに、人ならざる力を持っている者で、まとにも戦える者は、思いつかなかった。
響子でさえ…戦闘には向いていなかった。
いや、日本の妖怪などは、あまり人を殺さない。ただ悪戯をして、人を脅かすだけだ。
人を襲うのは、山姥や鬼…つまり、もと人間だけだ。
「そんな国に、神はいらない」
男は、響子を充血した瞳で見つめた。
「お前達の神は…我々の神にして絶対者…ファイブスターの方々に捧げるのが、相応しい」
「ファイブスター……五亡星か……」
響子は、下唇を噛み締めた。
この世界にいる…人と同じ…いや、創世主と同じ姿をした…神。即ち、バンパイア。
「フン」
響子は机から手を離し、腕を組んだ。
「絶対者といいながら…五人もいる神。神は、1人じゃないのか?」
「黙れ!」
いきなり、男は机を叩いた。
「虫けら程の力しかない者も、神と呼ぶ劣等種族が、我の神を愚弄するな!」
「神ねえ…」
響子は、今まで心を感じなかった男の底に、少し残る自我を読み取ることに成功した。
(従者といっても…完全に精神を支配されてるわけじゃないな…)
響子が心の中から、すくいだした情報は…2つ。
一つは、まだ…梓であると確証していないこと。
そして、この男の支配者の名前…。
(クレアか…)
ファイブスターの1人…クレア。
(殺戮のクレアか…)
五人のバンパイアのうち…唯一の女だ。
(だが…どうする?相手がわかったところで…。夜になったら、絶対に勝てない。昼間の内に、どうにかしないと)
響子が考え倦んでいると、次の授業を告げるチャイムが鳴り響いた。
男はフッと笑うと、
「次の授業があるんだろ?佐藤先生」
サングラスをかけた。
「言い忘れたが…私が、新しい校長だ。以後よろしく頼むよ」
口元を緩めた男に、響子は社交辞令で、頭を下げると、校長室を出た。
「フン。他人の心は、読めるが…自らのことは、無防備だな……」
男の声質が変わる。
「シュナイザー。あやつの行動を逐一チェックしろ!あやつの神に近づくはずだ。いや、近づくではなく、見守るだけかもしれんが…」
「わかりました…。我が主…クレアよ」
男の声が、もとに戻る。
そして、また…女の声になり、
「やつらの神の体に流れる血…。生命力に溢れる力を、我が身に吸収することにより…我は、他の四人よりも、上位に立てる!」
クレアの声は、少し興奮で震えていた。
「しかし…クレア様。このことは、他の方々は、ご存知ではないのでありますか?」
シュナイザーの疑問に、クレアはただ笑った。
男の一つの口から、二つの違う声が、形態模写のように交互に、交ざり合う。
「知っておるだろうな…。少なくとも、先読みの力があるアギトは…」
「それならば…なぜ?」
男は、馬鹿にしたように笑い、
「ケッ!黒い陰…。最悪の運命…。切り裂される空…。あらゆる災害を身に纏う…恐怖が、そばにいるらしい」
「恐怖?」
「そうだ!」
男は机の上に、肘を乗せると、そのまま…顎を撫でた。
「しかし…我々以上の力を持つ…生物などこの世には、いない…」
男は、目を細めた。
「いたとしても!」
そして、また深々と椅子に座り、背をもたれさせ、
「あたしが、殺してあげるわ…」
男は、ちらっと正面の扉の上にある時計を見ると、
「早く…時が過ぎないかしら…」
含み笑いをもらし、
「みんな…殺してあげるに…」
と、嬉しそうに言い放った。
「今夜は、長いわよ…」
「はい」
シュナイザーの声が頷いた。
「永遠に目覚めない夜…………死をプレゼントしてあげる」
クレアは、自分の台詞に苦笑した。