番外編 太陽の命 第120話 雷
幾多の幸せ。
一部のスターと言われる…スポットライトの当たった派手な生活と……一般の地味な生活。
人は、地味より…派手を選ぶだろう。
スターともてはやされ…ちゃほやされたいのだろう。
人の価値とは、何か。
生きるとは…何か。
女にモテ…金があり……贅沢な暮らしをすることなのだろうか。
(いや、違う)
本田有利は、何もない砂漠を歩きながら…考えていた。
錯乱状態になったら…種の保存とかいって…女を求めただろうが……今は、女より、水。
水より、命だった。
(この世界は……何だ?)
本田は、つい…この間までの…ことを思い出していた。
「砂漠……」
位置関係がわからなかった。
(俺は…死んだはずだ…)
日本国は、本土決戦を迎える前に、無駄に命を消費した。
神風。
いいように体裁を繕った言葉は……人に、死ぬ理由を与えた。
(愛する人の為に…)
ねえ…あなた…。
そこのあなた……。
愛が説明できる。
愛が…わかる。
わからない。
死んでも…死んでも。
「うおおおっ!」
本田は、咆哮した。
何もない砂漠の先に………一人の学生服の男が立っていた。
掘の深い顔に、眉毛が…真っすぐで、凛々しく見えた。
本田は、学生服に向かって叫んだ。
「雷!雷じゃないか!」
雷と呼ばれた男は、本田をちらりと見た。
「雷…空牙!」
あり得ない名前だった。
「本田…」
空牙は、悲しそうな顔をした。
「ここは…どこなんだ?」
本田の言葉に、空牙はフッと笑った。
「……?」
その笑いの意味が、本田にはわからない。
空牙に、近づいていく。砂に足をとられているが、関係ない。
「雷!」
空牙は、空を見上げ、
「できれば…帰って欲しかった…」
空牙の目から、涙が流れた。
「雷!俺達は一体…?」
状況の理解できない…本田に、空牙は頭を下げた。
「すまない…」
空牙が頭を下げた瞬間、何もない晴天の空を突き破って…巨大な手が現れた。
そして、本田の体を背中から、掴んだ。
「雷!うぎゃ!」
予想もしなかった爪が、食い込む痛みに絶叫する本田の姿に、空牙は顔を背けた。
「なぜ…顔を背けまするか?」
空牙の隣に…いつのまにかポセインドンが立っていた。
「あなた様や…王は、人の血を吸わねば、生きていけません…」
ポセインドンは、優しく語りかけるように言いながら…口調は厳しい。
「ポセインドンよ。よいではないか…」
干涸びたミイラのようになった本田を床に落とすと、空牙の前に、空牙にどこか似た男が立っていた。
「魔王…レイよ」
ポセインドンは跪いた。
レイは笑い、
「こやつは…」
空牙を冷ややかな目で、見下ろしながら、
「人間とのハーフ!つまり、出来損ないよ!ハハハハハ!」
レイの馬鹿にした笑いを、空牙は唇を噛み締めながらも……レイに跪いた。
転がる友の死骸が、頭を下げた空牙の目線に入る。
(俺は………どれだけ…友を生け贄にしたんだ?)
天空のエトランゼ。
太陽のバンパイア編…の序章。
太陽の命…開幕。