第100話 風語
街角にあるATMのみが、設置されている銀行。そこで、当面生活するだけのお金を引き出していた美奈子は…残高を見て、ため息をついた。
劇団なるものを抱えている為、お金など稼げるはずがなかった。
普通にバイトしたほうが、お金になるけど……お金より、夢を取ったのだ。
自分の選択が間違っているとは…思ってはいない。
しかし、その劇団もしばらく…他人に任せたのだから、美奈子にこれからお金が入るアテはない。
持ったら持った分…使いそうだから、一部戻そうか悩んでいると、隣のATMの前に、背中を丸めた中年の男が立った。
男もため息をつくと、じっと目の前の鏡を睨んでいた。
「知ってますか?この鏡の向こうには……カメラがあるんですよ…」
男は、誰かに話し掛けるように、口を開いた。
「映っているように見えて…逆に撮られているんですよ。この世界は、誰も信用できませんから…」
銀行のATMは、三台。
そして、その前には、美奈子と男しかいない。
明らかに、男は美奈子に話し掛けていた。
しかし、こんな場所で、見知らぬ男と話す気にもならないし、まして…お金を下ろしたばかりだ。
そそくさと銀行から出ようとした美奈子を、隣の男は振り向き……見つめた。
一瞬だけ、どんなやつかと確認しょうと、美奈子の無意識が、男の顔に目を向けた。
その瞬間、美奈子は目を見開き、動きが止まってしまった。
男の眼窩には、目玉がなかった。
男は、空洞の目を向け、にやりと笑った。
「残念ながら…あっちが、こちらを見ても、私は見てないんですよ。目がないんですから」
男の笑いに、美奈子は動けなくなった。
出口も、男の横を通らなければ、たどり着けない。
美奈子は、男とできるだけ距離をとろうとしたが、足が動かない。
「驚かれましたか?いやいや…申し訳ない」
男は笑いながら、軽く頭を下げた。
窪んだ眼窩の空洞には目玉はないが、美奈子はなぜか、異様な視線を感じた。
人間離れした姿の化け物よりも、あるべきものがない…その方が、美奈子には恐ろしく感じた。
のっぺらぼうより、目だけがない方が…リアルな恐怖感を感じさせた。
それは…もしかしたら自分も、そんな風になるかもしれないと…いう危機感に近い。
「別に…あなたを、恐がらせようとしてる訳では、ないのですよ」
男は、ATMの受け取り口から現金を取出し、美奈子に見せた。
「本当に、恐いのは…お金ですよ。人は、生活を便利にしょうとお金を作ったのに……今は、この紙切れが、人の価値になっています」
男は、束になった紙幣を、美奈子にちらつかせた。
「これの重さで…人の価値が決まる」
じっと男は、美奈子を見つめる。
それは、ない目で…美奈子の言葉を促していた。
美奈子は、唾を飲み込み……引き出したお金を財布にいれたことを確認すると、男の眼窩を真っ直ぐに見据えた。
「そんなことで、決まることはないわ」
力強い美奈子の言葉に、男は感嘆し、拍手した。
「さすが、素晴らしい!真の人が、お金如きで、買えるはずがありません!」
男は笑い…そして、泣き出した。
「それなのに…普通の人間は…」
男が泣いていると、ATMの扉が開いた。
その瞬間、男は帽子を取出し、目深に被った。
入ってきたのは、若い茶髪の男だった。
お金を引き出そうとする茶髪の男に、眼窩の男が振り向き、近づいた。そして、札束をいきなり、茶髪の男に突き付けた。
目の前に、大金が現れた茶髪の男は、身を捩らせて驚いた。
「あなたの価値は、いくらですか?」
眼窩の男は、にこりと笑い掛け、
「あなたの価値だけ…あなたに寄付しましょう。今すぐに」
眼窩の男の言葉に、茶髪の男は目を丸くし、
「ほ、本当かよ……」
突然の言葉に、茶髪の男は、少したじろいだ。
「ここにあるのは…百万です。もっと、ほしければ…いかほどでも」
眼窩の男は、茶髪の男の手を取り、強引に百万円を握らした。
「え?あっ!ええ!」
目を丸くしながら、驚き…この興奮する茶髪の男に、眼窩の男はさらに、札束をちらつかせた。
「お望みならば…さらに、差し上げますが?」
「ま…」
美奈子は止めようとしたが、眼窩の男の背中から漂う殺気が、美奈子の自由を奪っていた。
「えっ!ああ…今は、これでいいよ!で、でも、えっ!マジかよ」
茶髪の男は興奮し続け、携帯を取り出すと、友達に電話しだした。
「今さ!気前のいいおっさんから、金貰ったんだ!う、うそじゃないぜ!まじ、まじ〜まじだよね?」
茶髪の男は、眼窩の男に確認した。
眼窩の男は、口元に笑みを浮かべながら、頷いた。
「やっぱ!まじだよ!」
茶髪の興奮は、止まらない。
「お前も、来いよ!」
眼窩の男に背を向け、携帯で話し続ける茶髪の男に、眼窩の男は軽く頭を下げた。そして、おもむろに着ていた背広の内ポケットから、銀色の物体を取り出した。
それは、一円玉だった。
眼窩の男は、一円玉を茶髪の男の足元に、投げた。
「これで…百万と一円……。あなたの価値を越えた」
突然、眼窩の男の口から鋭いものが、飛び出した。
それは、舌だった。
鋭利に尖り、固く硬直した舌は、茶髪の男の首を胴体から切り裂いた。
地面に転がる頭と…切り口から、血が噴水のように噴き出した。
転がった頭は目をぱちぱちさせ、口が動いていたが、声にはならなかった。
どうしょうもなく惨劇を見守ってしまった美奈子は、声にならない悲鳴を上げた。
血飛沫が上がる中、転がった頭を蹴り上げると、眼窩の男は再び、ATMからお金を引き出す。
「私は…お金が有り余っておりまして…。私が死ぬまでには、使いきれない」
眼窩の男は、何度もお金を引き出し、
「そんな…私も、人は買えない……と思っておりましたが…」
眼窩の男は、両手に札束を掲げ、
「最近…買えるらしいんですよ…。まあ、人によりますが…」
にやりと笑う眼窩の男の姿を見て、美奈子の何かが外れた。
「ふざけるな!」
美奈子は怒鳴ると、自ら呪縛を解き放ち、一歩前に出た。
「人が買える訳がない!ただ…いきなり、大金を渡されたから…」
美奈子の言葉に、眼窩の男は肩を揺らせて笑った。
「そんな場合は、怪しいと…信用する前に、疑うべきだと?そんなうまい話などない…と、警戒するべきだと」
眼窩の男は、帽子を取り、
「そんなことが、できない者だから…金で、買えるのですよ」
目玉のない眼窩の奥に、蠢くものがあった。
それは、ゆっくりと飛び出してきた。
「二枚舌というのは…ご存知でしょうが…。私は、三枚舌でして」
2つの眼窩から、出てきたのは、二枚の舌だった。
「私の名は、田川寿郎」
二枚の舌が、蛇にように動きながら、田川は……奈子の前に跪き、大量の札束を差し出した。
「これは…寄付ではなく…お布施でございます」
血が溜まった床に額をつけ、田川はこれ以上ないほど、頭を下げた。
その様子に、美奈子は後退った。
田川はゆっくりと頭を上げ、美奈子を見据えると、
「我らが…女神よ」
再び頭を下げた。
「女神?」
田川の言葉に、思わず…美奈子は足を止めた。
「はい。あなたは、我々の…」
田川の言葉は突然、突き破られたガラスの音にかき消された。
「化け物があ!」
強化ガラスを突き破って、田川に襲い掛かったのは、神野だった。
次元刀が、田川の横腹に突き刺さった。
「部長!」
普通にドアを開けて、明菜が飛び込んできたが、ATMに転がる惨劇に思わず、手で口を被った。
「うおおおっ!」
神野の右腕が赤く膨れ上がり、さらに力を込めて、田川の横腹に深く、刃を突き刺していく。
さらなる鮮血が、飛び散る。
「赤いんだ…」
化け物である田川から流れる血の色に…美奈子は見惚れてしまった。
「不覚…」
田川の三枚の舌が動き、神野を突き刺そうとした。しかし、舌の動きよりも、次元刀の斬れ味は凄まじく、まるで豆腐を切るように一瞬で、田川の体を真っ二つに切り裂いた。
魚を開きにするように。
さらに、頭の先から飛び出した切っ先を反転させ、三枚の舌を斬り取ったのだ。その一連の速さは、神速。
「め…め」
舌を切られ、田川はもう言葉を発することができない。
神野は最後にトドメとばかりに、横凪ぎに頭を切り裂き、心臓の辺りに突き刺した。
次元刀を抜くと、ATMに設置されているはずの防犯カメラを探した。
扉の真上の角に設置されているカメラを発見したが、鮮血で赤くなっていた。
「大丈夫か…」
今の戦いをカメラに残したくは、なかった。
一応、カメラを破壊しょうとした時、遠くの方からパトカーのサイレンの音が近づいてくるのが、わかった。
さすが、銀行直営のATM。対応が早い。
「神野さん!」
明菜の叫びに、神野は舌打ちすると、田川の死体を置いて逃げることにした。
神野は突き破ったガラスから外に出ようとしたが、美奈子の様子のおかしさに気付いた。
田川を見下ろしながら、その場を動かない美奈子の腕を取ると、強引に外へと連れ出す。
田川の死体を見られるより、自分達のことを知られる方が、都合が悪かった。
美奈子の体は軽く引き寄せると、よろめきながらも、簡単に歩きだした。
(おのれ〜)
死んだと思われた田川は、真っ二つに斬られても、まだ完全に死んでいなかった。心の中で毒づきながら、外を見ていた。
(我々の証拠を残すわけには、いきません)
パトカーが、ガラスが割られたATMの前に止まった。
警官が車を降り、近づいてくる。
(我々の未来の為に!)
田川はもう声にならなかったが、心の中で叫んだ。口を開けると、明らかに奥歯が、歯ではなかった。
それは、爆弾だった。
普段の会話ぐらいなら、起爆スィッチが作動しない。しかし、数秒噛み締めると、起爆スィッチが作動した。
田川からの中から爆発した…爆弾は、自決用でもあり、最後の切り札でもあった。
ATMの建物と、警官…そして、パトカーが宙に浮かぶ程の爆風が、半径数十メートルを吹き飛ばした。
ふっ飛んだ機械から、お金が飛び出したが、爆風で燃え…灰になっていった。
爆風は予想外に凄まじく、ATMから半径十メートル程をすべて吹き飛ばしていた。
近くにいた数人の歩行者が、その爆発の犠牲となっていた。
爆弾は、田川の原形を留めないだけでなく、爆発とともに、まるで散弾銃のように周囲に飛び散り、あらゆるものを貫通していた。
それは、通行人の体であり、近くにあった電柱にも突き刺さっていた。
後でわかることだが、その飛び散ったものは、人の骨や歯と同じ成分でできていた。
現場に近づいてくる消防車やパトカーのサイレンと、泣き叫ぶ人々の悲鳴で辺りは、騒然となっていた。
火災は思ったより、少ないが…足を貫通した人や、血を流して横たわる人々の姿に、それを見た人々の悲鳴が加わり、周囲はパニック状態に陥っていた。
少し遅れて到着した数台の救急車から、隊員が飛び出し、怪我人達に駆け寄っていく。
肩や太ももから血を流す学生や、助けを求めて泣き叫ぶ老婆。
その様子を冷ややかに、眺めていた女は、嫌悪感を露にした。
ショートカットの女は怪我人の中で、1人たたずんでいた。
「君は、大丈夫か!」
女にも、救急隊員が駆け寄ってきた。
女は笑顔を見せ、
「あたしは、大丈夫です!他の方を…」
「そうか!よかった…」
女の言葉に隊員は頷くと、他の怪我人のもとへ向こう。
「助けて!助けて!足が」
隊員にすがりつく老婆を尻目に、女は現場に背を向けた。
「…現段階では、自殺…もしくは、自殺テロの両方の可能性が高いと…」
いつのまにか嗅ぎつけたレポーターが、人を助けるよりも、カメラに向かってわめき散らしていた。
上空では、マスコミのヘリコプターが飛んでいた。
「フン」
女は鼻を鳴らした。
歩く女の後ろで、縄が張られた。
すると、女の携帯が唐突に鳴った。
「はい…」
おもむろに携帯に出た女の耳に、乾いた声が聞こえてきた。
「申し訳ありません。折角の機会を無駄に…。田川が出過ぎたまねを…」
その電話の主にも、女は軽く鼻を鳴らした。
「あたしは、1人で会うと言ったはずだけど…」
少し怒気を含んだ女の声に、電話の主は震え上がる。
「も、も、申し訳ございません…。我ら…如何様な罰でも…」
「フン」
女はまた鼻で笑い、
「お前達を責めても、仕方あるまい………。それに」
そして、女は突然、足を止めた。にやりと口元を緩めた。
「何とか…目的は叶いそうだ」
そう言うと、女は携帯を切った。
人混みを抜け、少し離れたところで、様子を伺っている1人の女に気付いたからだ。
(あやつは…いないか)
女は早足になり、パニック状態になった現場を覗いている女のもとに向う。
(すぐに…現場を離れないとは……甘いな)
女は屈託のない笑顔を浮かべ、声をかけた。
「お姉ちゃん!」
覗いていた女は、駆け寄ってくる女に気付いた。
「え?」
「お姉ちゃん!明菜お姉ちゃんでしょ!」
現場を確認していた明菜は、いきなり名を呼ばれ驚いたが……すぐに、相手を確認し、笑顔を返した。
「綾子ちゃん!?」
明菜は、思いがけない相手と会い、驚きよりも懐かしさに、嬉しくなった。
手を振りながら、自分に駆け寄ってくる女は、近所に住む幼なじみだった。
歳は、離れていたが…女には、明菜と同じ年の兄貴がいた。
「久しぶりにですね」
少し息を切らし、明菜の前で止まった綾子に、明菜は自然に笑みを返した。
「そうね…5、6年ぶりかしら…」
近所であり、綾子の家とは親しくしていたが…あることがあってから、明菜は綾子の家に顔を見せてはいなかった。
「そうですね…。兄がいなくなってから……お姉ちゃんとも、会う機会がなくなったものね」
綾子の言葉に、明菜は軽く顔を背けた。
明菜は、綾子や綾子の親に、顔を見せるのが辛かったのだ。
なぜなら、明菜は知っていたからだ。
明菜は、いなくなった綾子の兄の行方を知っていたからだ。
綾子の兄の名は、赤星浩一。
異世界にさらわれた明菜を助け…そして、異世界に残った男。
しかし、その真実を…浩一の家族に話しても、理解できるはずがなかった。
だから、明菜は…敢えて、綾子達には話さなかった。
それから、実家を離れ、一人暮らしを始めてからは会う機会もなくなってしまった。
(それなのに…こんな時に、こんな場所で会うなんて)
明菜は、偶然を恨んだが…それは、偶然ではなかった。
「こんなところで、何してるんですか?」
綾子から、質問され…明菜は慌ててしまい、少し思考回路が狂ってしまう。
「え!ああ…べ、別に」
久々に会い、普通に会話を交わしたらいいだけなのに、明菜はしどろもどろになる。
「さ、さっき…事件があったみたいですね?」
明菜より、少し背の低い綾子の上目遣いに、明菜は視線を外した。
「そ、そうみたいね。な、なんか…凄い音がしたし…」
何とか…動揺を止めようと焦る明菜に気付かないように、綾子は冷ややかな視線を送った。
そして、綾子は一歩前に出て、明菜に笑顔を向けると、
「お姉ちゃんは…まだ演劇やってるんですか?」
「え?」
唐突な質問に、明菜は拍子抜けになった。
「最近…少し興味があるんです」
屈託のない綾子の笑顔と、自らの焦りにより、明菜は普通に話してしまった。
「一応は…高校の先輩が立ち上げた劇団に、所属してるけど…」
その説明に、間一髪入れずに、綾子は言葉を続けた。
「今度、もし公演をされるんでしたら…」
綾子は、携帯を示し、
「連絡下さい」
「…でも、公演とかは、まだ…」
口籠もる明菜を、強引に綾子は押し切った。
「待ちますから」
渋々取り出した明菜の携帯と赤外線通信をして、綾子は、番号をゲットした。
「演劇のこと以外でも…かけていいですか?」
綾子の質問に、明菜は頷いた。
「いつでも…大丈夫」
「……兄のことでも」
わざと言いにくそうに言った綾子の言葉に、明菜はびくっと体を反応させた。
顔を強ばらせる明菜を見て、綾子は口調を少し明るめに変えて、
「冗談ですよ。兄のことは…お姉ちゃんには、関係ないし…。それに…」
綾子はわざと、視線を落とすと、すぐに顔を上げ、笑った。
「もう…諦めてます。兄は…いなかったと」
「あきちゃん…」
明菜は、言葉を失った。
綾子は、明菜に頭を下げた。
「…劇団、頑張って下さい」
すぐに頭を上げ、笑顔を向けたまま、明菜に背を向けた。
「あ…」
かける言葉もないのに、明菜は綾子を止めようとした。
綾子はゆっくりと、歩きだした。
明菜には見えなかったが、綾子の口元から、笑みが消えなかった。
(フン)
綾子は少し歩いた後、振り返り、携帯を示した。
「電話しますね」
ぺこっと頭を下げ、綾子はまた前を向くと、先程より歩く速度を上げた。
明菜が見えなくなる距離まで来ると、綾子は速度を緩め…念のため、振り返らなかったが、携帯を目の前に持ってきて、鼻で笑った。
「フン。これで…第一段階は、終わった」
綾子は、携帯をしまった。
「まったく…邪魔くさい!世界ってやつは…」
綾子は、空を見上げ、
「用心しなくても…あたしは、この世界から、逃げない」
空から視線を戻した綾子の瞳が、一瞬赤く光った。
瞳の色は、すぐに黒に戻ったが、綾子の歩く方向にいたあらゆる生物が、道を開け…綾子から遠ざかっていく。
前から来たドーベルマンを連れていた婦人は、聞いたことのない悲鳴を上げて、全力で逃げていく飼犬に思い切り引きずられて、綾子から離れていく。
人以外は、わかっていたのだ。
彼女の正体に。
「………」
しばし言葉なく、綾子を見送った明菜は、何とも言えない気分になっていた。
別に、明菜のせいではないが…真実を知っているから。
いきなり、携帯が鳴った。
「はい」
慌てて出た明菜の焦りに気付き、受話器の向こうから、心配そうな声が聞こえてきた。
「どうした?」
電話の主は、美奈子だった。
「い、いえ…別に…」
明菜は口籠もった。
「一応…あたしも、神野さんも、大丈夫だ!二駅向こうの駅前で、落ち合おう」
明菜達は、別々に散開していた。
「わかりました…」
明菜は、電話を切った。
しばらく、また携帯を見つめてしまう。
美奈子に、綾子のことを言わなかった。
別に隠したわけでなく…先程から消えない…後ろめたさが、明菜の口を動かさなかったのだ。
そのことが…後の対策の悪さにつながるのだが、明菜にはわからなかったのだ。
自分自身の心も…。
そして、魔獣因子というものも。