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第99話 乱雑

「リンネ様…」


どこの町角にもある…細い路地に、リンネは佇んでいた。


その後ろに、2つの炎が立ち上り、人の形を形づくる。


「この世界にきた…多くの魔物は…ブルーワールドに帰りました」


「そうか…」


リンネは、後ろで跪く2つの炎の方を振り向かずに、呟くように言った。


「この世界の空気と……あの者達の台頭…。この世界にいても特に、彼らにとって、得なことはありませんし…」


右側に跪く炎は、揺らめきながら、話し続けた。


「マヤ様も亡くなりましたし…。あの者達との戦いを望んでもいません…」


「もともと…敵は、アルテミアだけになると…想定していましたから…」


左側の炎も、口を開いた。


「魔物が撤退する世界か…」


リンネは苦笑した。


「しかし!我々炎の騎士団は、リンネ様とともに」


「ブルーワールドに戻っても、不動様亡き後、我々を率いるのは、リンネ様以外におられません」


「我々は、リンネ様とともに!」


深々と頭を下げる炎に、リンネは少し振り返った。


「向こうには、カイオウがいる。それに今は…明確に、騎士団をわけている場合でもない。来たるべき最後の戦いの為に、強き魔物は、王の許へ戻るがよい」


「来たるべき戦いとは…」


「魔王と…天空の女神の戦い…」


二人の言葉に、リンネは頷き、


「いずれ…アルテミアは、ブルーワールドに帰る。しかし、その時……」


リンネは虚空を見つめ、


「アルテミアに……今の力が、あるかはわからないがな」


少し哀しげに、笑った。


その笑みの意味を、2つの炎はどう受け取ったのかは、わからない。


2つの炎は立ち上がり、二人の人間の姿になる。


顔や背丈すべてが、同じであるが…髪型が違った。


1人は、ツインテール。1人は、ポニーテール。


「我ら…アイリと、ユウリ…。炎の騎士団団長リンネ様のお側役として、我らだけでも、共に…この世界で!」


再び跪く二人に、リンネは笑いかけた。そして、二人に背を向けたまま、歩きだした。


「好きにしろ…」


少し離れたところで、リンネはそう呟くように言った。


「は……はっ!」


二人は、深々と頭を下げると立ち上がり、リンネの後を追い掛けた。






「アルテミア!」


橋の下で、片膝を付きながら放った女神の一撃。敵を倒したけど、僕が今まで見た中で、一番威力が小さかった。


普段なら、真上にあった橋をも簡単に、破壊していたはずだ。


アルテミアは、槍を杖代わりにして、立ち上がった。


妙な気を感じ、振り返ると、真後ろに今井友美がいた。


近くに来るまで、まったく気配を感じなかった。


「だ、大丈夫かなって…思って…」


少し冷や汗を流しながら焦る友美は、話題を変えようとした。


「い、今の化け物を倒したの!い、一撃だったね!」


おろおろしながら、話す友美は明らかにおかしかった。だけど今は、アルテミアの体の方が心配だった。それに……。


「お前の友達は…助けられなかった。すまない」


立ち上がったアルテミアは、頭を下げた。


遠くから、パトカーのサイレンが近づいてくる。


女神の一撃の発動音を聞いて、誰かが通報したのだろう。


「そ、そうね……さっきの化け物にやられたのね…」


友美は、何とか表情をつくろうとしていた。思いっきり違和感があったが、今は追及してる場合ではない。


「橋をくぐり、反対方向に、逃げろ!今なら、間に合う」


アルテミアは、橋を向こうを指差した。


「だけど…」


渋る友美を、アルテミアは睨んだ。


「早くしろ!」


あまりの迫力に、友美は身を震わし、アルテミアを見ながら一歩下がると、体を反転させ、そのまま全力で走りだした。


アルテミアはフラフラしながらも真っ直ぐに立ち、友美が見えなくなるのを確認してから、その場でテレポートした。


そこから、数キロ離れたビルの屋上に、降り立ったアルテミア。


「クッ!」


顔をしかめ、少しインターバルをおいてから…僕へと変わった。


変わっても、アルテミアのダメージが体に残っていた。しかし、体組織がすべて僕になると、ダメージは薄らいだ。


普段なら、モード・チェンジとともに、すぐになくなるはずなのに…。


「アルテミア……」


僕は両手をぎゅっと握り締めると、アルテミアに話しかけた。


「ブルーワールドに戻ろう…」


アルテミアの力が発揮できないことに、薄々気付いていた。


もともとこの世界では、魔法は使えない。


だけど、自らの属性と生まれ持った魔力を使い、アルテミアは戦ってきた。


それでも、汚れた大気と空気は、アルテミアの技を半減させていた。


ブルーワールドにいた三人の女神。


かつて防衛軍に所属していたロバートは、僕にこう語った。


女神は、天災であると。


水の女神マリーは、洪水や津波…寒波をもたらす。


火の女神ネーナは、火山の噴火や地震を起こす。


天空の女神アルテミアは、雷鳴や竜巻、台風を起こすことができた。


天災に対して、人は無力である。


だが、今のアルテミアに、天災を起こす力は…ない。


(この世界は……汚れている)


女神が住めない世界。


僕は…アルテミアの為に、ブルーワールドに戻ることを決意した。


右手を前に突き出すと、2つの物体…チェンジ・ザ・ハートが飛んできた。


2つの物体は重なり、剣へと変わった。


十字架に似た…白き剣。


シャイニングソード。


僕は剣を握り締めると、空間に突き刺した。


「待て……」


ピアスから声がした。


アルテミアだ。


少し落ち着いたようで、アルテミアはゆっくりと話しだした。


「お前は…この世界を見捨てるのか…。ここは、お前が生まれた世界だろ?」


アルテミアの言葉に、剣を握ったままで…僕の体が固まった。


「まだ…詳しくはわからないが……この世界は、危機的状況になろうとしているぞ。それなのに…」 


僕は目をつぶり、シャイニングソードをさらに空間に押し込んだ。


「赤星!」


アルテミアの叫びに、僕も叫んだ。


「この世界より、アルテミアが大切だ!」


シャイニングソードの先を睨み、


「僕は…もうこの世界を捨てた!この世界が、壊れたとしても……アルテミアの方が大切…」

「馬鹿野郎が!」


僕の言葉が言い終わる前に、アルテミアが怒鳴った。


「てめえ!赤星!あたしを、そんなに弱いと思ってるのか!」


アルテミアの声は、怒りで震えていた。


「あたしは、弱いのか!てめえに心配されるくらいに!それにな!大切って言葉で、あたしが喜ぶとでも思ったのか!」


「アルテミア…」


「今、てめえが言った大切は…お荷物と同じだろうが!」


アルテミアの怒りは、頂点に達する。


「あたしの体があったら…思い切り、ぶん殴ってやるのに!」


アルテミアと体を共有する僕には、彼女の怒りともどかしさが、ダイレクトに感じられた。


「…」


アルテミアは…これ以上何も言わなかった。


僕への怒りだけではなく、自分自身の腑甲斐なさにも、憤りを感じていたからだ。


うなだれる僕と、何も言わないアルテミアとの…無言の時が、少し続いた。




「見つけたぞ!」


突然、頭上から声がした。


僕ははっとし、頭上を見上げた。


いつのまにか、数十体の魔物が、浮かんでいた。


「やはり…お前達に傷の1つでもつけないと、我が世界に戻れぬわ」


「我らの情報網を、舐めるなよ!」


「アルテミアは、本領を発揮できない!」


顔に翼が生えたような魔物が、三匹。


他の魔物も空中から、僕を囲むように屋上に着地した。


様々な姿をした異形の者を見て、頭をうなだれると、僕は口元を緩めた。


(こいつらの方が…落ち着くとは…)


「震えているのか?」


一匹の魔物が、僕に近づき、嘲るように言った。


「仕方がないか…。たかが、女神の依り代。単なる人間だ」


近づく魔物は、巨大な口を開け、


「女神ごと食ってやろうか!」


楽しそうに、笑いながら言った。


「そうか…」


僕は、顔をあげ…髪をかきあげると、大笑いした。


狂ったように笑う僕を見て、口を開けた魔物も釣られて笑った。


「ハハハハ!こいつ…恐怖で、気でも狂ったのか!」


笑いながら、後ろの魔物や、真上でホバーリングしている魔物達の方を見た。


「え?」


しかし、笑っているのは、その魔物だけだった。


他の魔物は震え…冷や汗を流していた。


「どうした?ジル」


そばにいた蜂の体と、鍬形の角のような腕をした魔物の顔は、真っ青になっていた。


「やはり…無理だったのよ…あたしらくらいでは…」


「ジル?」


ジルの恐れに首を傾げた魔物に、空中にいる翼を持った魔物がこたえた。


「ベッカ…お主は、ここに送り込まれて、日が長い……。知らぬのは、無理がない…」


「え?何を…」


ベッカには、理解できない。


「ヒイイイ…」 


ジルが悲鳴を上げた。


ベッカの肩越しに、にやりと笑い…赤き瞳を輝かせた僕がいた。


「たかが…依り代だろ…」


と、ベッカが言った瞬間、彼の体は干からび……砂となった。


僕はベッカの背中に、人差し指を突き刺すと…ベッカの血と…命を吸い取ったのだ。


人差し指を突き出したまま、ジルと対峙する格好になった僕は微笑みながら、言った。


「頂きます」


満面の笑顔を向けたが…赤き瞳は笑っていなかった。


「ヒイイイ!」


もう逃げることはできない。


意地からか…魔物達は一斉に、僕に襲い掛かってきた。


「赤の王!」


翼を畳み、急降下してくる空にいた魔物達。


数秒後、周囲にいたすべての魔物は、僕に吸い取られていた。


この世界に来てから、あまり血や命を吸ってなかった。


久しぶりの…バンパイアとしての食事に…僕は、身を震わせた。


食事の後の…歓喜に震える僕に対して、アルテミアはため息をついた。


僕は自分の両腕を曲げ、体を確認した。


「アルテミア…」


僕は深呼吸をし、


「今までは…アルテミアが、敵を倒し…僕が、敵を探す役目だったけど…これからは」


僕は、左手を突き出した。指輪が、輝いた。


「すべて…僕がやる」


「赤星…」


アルテミアが何か言おうとしたが、僕は言葉を続けた。


「今までは…この世界の人間だった僕から、これまでに関わった人達との繋がりを気にして、戦うことはしなかったけど……。大丈夫!何があったって…僕は…」


僕は、天を見上げた。


「いずれこの世界から…いなくなるのだから…」




(そう…僕は、ブルーワールドに戻るんだから…)


僕はこの世界の空を見上げ、感慨深気に…目を細めた。




「赤星…」


しばしの間があって、アルテミアが口を開いた。


「やはり…あたしが戦う…。お前では、戦い抜けない…」


アルテミアの言葉に、僕は見上げた顔を下げた。


「ど、どうして!僕は…昔と違って弱くないし!」


アルテミアはもう…声を荒げることも、怒ることはなく…ただ淡々と、言い聞かせるように話しだした。


「お前は…強いよ。多分…あたしと同じか…それ以上に…」


「え?」


僕は言葉を失った。


自分より強い。


プライドの高いアルテミアが…そんな言葉を口にするはずがなかった。


アルテミアは、今の赤星の戦いを見て、確信した。


「お前は…あっちの世界で、最強に近い強さを得た。数多くの魔物と戦い…経験値を上げ、向うところ…敵なしだ。しかし!」


アルテミアの口調が変わった。


「それは、魔物に対してだけだ。ブルーワールドで、魔物によって襲われた人々を助けることで、お前は強くなった!弱者を…強者から守る為に…」 


アルテミアは、言葉を続けた。


「だが!この世界で…魔物になった人間は、強者ではない!それどころか…この世界に、馴染めなかった者や弱き者の…反乱のように、思える。だから」


アルテミアは、核心を告げる。


「お前は、あいつらを殺せない。それに…お前は、人間を殺せない…」


「そんなことは…」


反論しょうとした僕を、アルテミアは切り捨てた。


「病院の女のことを言うつもりか?あの女は、体を乗っ取られた。つまり、彼女ではなくなったからだ!」


「ハハハハ…」


アルテミアの主張に、僕は引きつった笑みを浮かべた後…しばらく拳を握り締めると、わなわなと震えながら、肩をすくめた。


「何を言いだすんだか………」


そして、頭を抱えた後、大声で叫ぶように言った。


「僕はもう戦士だ!倒すべき相手が人間だとしても、僕は戦える!」


それは、覚悟していた。


心の奥では。


しかし……。


アルテミアは、僕の戸惑いに気付いていた。


「ここ数件…仕方なく、斬ることはあったな…。だが、その度に、心を痛めていたはずだ!」


「……」


僕は、口から言葉がでなくなっていた。


アルテミアは……ただ一言だけ言葉にした。


「優し過ぎる」


アルテミアは、一呼吸おき、


「お前は…優し過ぎるよ」


アルテミアの言いたいことは、わかっていた。


(しかし…戦うことは、やめられない)


アルテミアを、戦わす訳にはいかない。ブルーワールドに帰ることもできないなら、僕が戦うしかない。


と…そんな葛藤している時、僕の周りにいつのまにか、黒いコートを羽織った集団が立っていた。


「これは、これは…」


集団の中から、1人の男が一歩前に出た。


「女神を追っていたら…あなたに、お会いするとは…。まあ…当然といえば、当然ですね」


男は、慇懃無礼に頭を下げる振りをして、左手を突き出した。


「赤星浩一」


不意を突いたレーザー光線が、僕の肩を貫通した。


「な…」


唖然とする僕の目に、せせら笑う男の顔が映った。


「女神には、死を!赤星浩一…あなたには、絶望と苦しみを、さらに…プラスして与えて差し上げよう」


レーザーを撃ったのは、山根だった。


両手を広げた山根の後ろに控える集団も、一斉に左手を突き出した。


「撃て」


山根の冷静な命令に従って、レーザーが僕に向けて発射された。


しかし…放たれたレーザー光線は、虚しく空を切った。


「な!」


唖然とする山根達の後ろに、僕が立った。


「お前達は…」


赤く光る僕の瞳が、黒いコートの集団を射ぬく。


「チッ!」


舌打ちした山根が振り返った時、


「何者だ?」


耳元で僕の声を聞き、山根は冷や汗が流れ、恐怖が全身を駆け抜ける感覚を覚えた。


山根は、その場から飛んで離れると、その動きを見た黒いコートの集団は固まらずに、散り散りに距離を取り出した。


僕は頭の中で、彼らのすべての動きを追尾できた。


(殺せる!)


そう確信した瞬間、僕は手に…シャイニングソードを持ち、一振りで斬り裂こうとした。


「や、やめて下さい!!」


どこからか…切羽詰まったような切実な声が、僕の耳に飛び込んできた。


散開した集団の中で、1人だけ…その場から動かない者がいた。


小さく…か弱い生物。




僕の動きが、止まった。


僕の眼下にいるのは…人間だった。


紛れもなく…小さくか弱い人間。僕を恐れながらも、涙を目に溜めながらも、必死に懇願する…人間が立っていた。


(ひ…人が…いる)


動きが止まった僕に向かって、四方からレーザー光線が放たれた。


僕の足…腕…頬…そして、腹を…貫通した。


血を噴き出し、倒れる僕を見て、山根が笑った。


「撃ち続けろ!」


悪魔のような形相の山根と……撃たれて血を流す僕を見て、悲しげな表情を浮かべ、


「やめろ!」


と絶叫する人。


その状況に、僕は笑った。


(どちらも……人か……)




「やめて下さい!」


レーザー光線が飛びかう中で、1人叫ぶ仁志。


だが、誰も攻撃を止めない。


僕は四方から、攻撃を受け続けた。


「どうした?天空の女神のように、光の屈折を変え、軌道を変えるような芸当は、できないようのか!」


山根は笑った。


無様に攻撃を受け続ける僕を見て、楽しくてしょうがないようだ。


「このまま…ここで、死んでしまえ!」


はしゃぐ山根。


しかし、山根以外の五人は、一ヶ所に留まらずに攻撃をしながら…焦りを感じていた。


最初当たった時に、血が飛び散っただけで、それからは一滴も…僕の体から血が出ていないからだ。


そのことに気付いた時…五人は興奮から、焦りへ…やがて、額に汗が流れ…恐怖へと変わってきた。


僕は、口元を緩めた。


やがて、体内に蓄えていた電力がなくなったのか…レーザー光線の掃射は、止まった。


五人は、僕から距離を取って離れた。


その顔は、青ざめていた。


「馬鹿な…あり得ない!」


山根はさらに前に出て、左手からレーザー光線を撃った。


レーザーは寸分違わず…僕の心臓を貫くはずだった。


しかし、学生服に穴は開くけど…そこから覗かれる素肌は、無傷だった。


最初に貫かれた肩口にも、傷はなかった。


僕は顔を上げ、山根を凝視した。


その赤き瞳の冷たさに、山根は無意識に後退った。


「これが……不死と言われるバンパイア」


僕の吊り上がった唇の端から、鋭い牙が覗かれた。


「たかが…焼き切るだけの光で…僕を倒せるか…」


僕の手に…いつのまにか、シャイニングソードが握られていた。


「避けるまでもない」


僕は切っ先を、山根に向けた。


「折角…さっき…血を補充したばかりだというのに!」


僕は突きの形で、山根に向かって走る。


「ヒイイ!」


震え上がる山根は、レーザー光線を放ったが…シャイニングソードに弾かれた。


斬り裂こうとした僕の目の前に、無防備な仁志が飛び込んでくる。


そのまま…いっしょに斬り裂き、仁志ごと殺すことができたら…未来は変わったかもしれない。


しかし、そうしなかったからこそ、よかったのかもしれないが…。


仁志を見、剣を止めた僕…と、冷静なアルテミア。


「モード・チェンジ!」


突然溢れた…まばゆい光に、仁志が目をつぶった。




そして、目を開けた時…仁志の目の前に立つ女神。


ブロンドの髪をなびかせながら、大きな瞳で周囲の敵を射ぬく。


見た目の美しさと、その中にある鋭い闘志。


アルテミアが一歩前に出ただけで、仁志は慌てて道を開けた。


「うわあ…」


感嘆ともとれる声をもらした仁志は、通り過ぎるアルテミアの横顔に見惚れた。


「天空の女神…」


一瞬、動きを止めてしまった山根達は、自らを奮い立たす為に、唇を噛み締めた。


「く!」


血が出るほど噛み締めた唇を拭うこともせず、山根は五人に向かって、檄を飛ばす。


「恐れるな!やつは、長時間、活動できない!」


山根達は頷き合うと、手をアルテミアに向けた。


「モード・チェンジ…」


つぶやくように言ったアルテミアの姿が、人々の視界から消えたのと…山根達に付けられた義手が、切り取られたのは…同時だった。


切り取られたのに気付いたのは、痛みよりも先だった。消えたはずのアルテミアが、もとの場所な立ち…五つの義手を重ねて持っていたからだ。


「な…」


絶句する山根に、アルテミアは微笑みかけた。


「まだやる?」


その余裕の表情に、山根のそばにいた女がキレた。


女は、アルテミアに襲いかかろうとした。


「やめろ!」


山根が制した。


「我々は…一度完全変化したら…この姿には、戻れない」


山根は、女を見、


「まだ…人の姿で、やらねばならぬこともある」


苦々しくアルテミアを睨みながら、山根は五人に告げた。


「撤収する」


山根達は、アルテミアを意識しながら、その場から離れた。


戸惑う仁志の脇に、左右から二人の男女が肩を入れた。すると、仁志は軽く持ち上げられ、宙に浮かんだ。


アルテミアは微動だにせず、山根達の気配がなくなるまで、立っていた。


が、気配を感じなくなると…崩れるように、その場で片膝をついた。


「アルテミア!」


アルテミアの体は、全身汗だくである。


肩で息をするアルテミア。


顔色も悪い。


「モード・チェンジ!」


僕はピアスの中から、絶叫した。


アルテミアから、僕へと変わる。


「アルテミア!どうして、僕と変わった!」


ピアスから、息を整えながら話すアルテミアの声が聞こえてきた。


「まだ…お前は……殺しては…駄目だ……」


アルテミアの言葉は、途切れ途切れだ。


僕はただ…言葉を待った。


「まだ……あいつらのことは……わからない……。ちゃんと…調べてから………。お前は…」


アルテミアの声が、小さくなっていく。


「お前は絶対……人を…殺しては……いけ……ない…」


「アルテミア…」


そのまま、アルテミアは意識を失った。


回復するまでは、アルテミアと話すこともできない。


僕は、どうしたらいいのか、わからず……ただ眼下の地面を叩いた。


アスファルトで舗装された地面は、簡単に砕けた。


「僕は……どうして…」


僕は、自分自身に問い掛けた。


「この世界に戻ってきた」


ただ…ブルーワールドから潜り込んだ魔物を、追ってきただけだったはずなのに…。



「あなたも、この世界の一部よ。人をどうするのか……それは、あなたにしか答えがだせない」


突然、真後ろから声が聞こえた。


驚き、振り返ると…舞子が立っていた。


「それは……力を持った者の…宿命」


舞子は、口元を緩めながら、消えていった。



「幻………?それとも……」


魔法は体験したが、幽霊は信じられなかった。


だとしたら…


それは……残った思念だろうか。


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