第95話 注文
注文の多い料理店という話を、ご存知でしょうか。
料理店に入ったお客が、実は…逆に食べられる食材になっていたという話だ。
単純な話だけど、風刺がきいていた。
自分が支配してるはずなのに、本当は違う。
世の中、そんなものかもしれない。
「鈴木!てめえ!俺が買ってこいと頼んだものと違うだろ!」
いつもパシリとして、同級生にこき使われていた鈴木総司は、屋上で待つ五人の為に、昼食を買わされていた。
「ここ何日も、毎日間違えやがって!やる気あるのかよ」
鈴木を殴った同級生は、文句をいいながらも、一応買ってきたパンを口にする。
「俺は、おにぎりがいいと言っただろが」
軽く蹴ながらも、みんな一応食べる。
無抵抗に殴られながらも、鈴木はじっと、五人が食べるのを見ていた。
「だって…これが、好きなんだもの…」
呟くようにいう鈴木は、おとなしく五人が、食べ終わるのを待った。
「まったく…明日は言われた通りにしろよ!」
同級生達は、食べ終わるとパンの入っていた袋や空になった弁当箱を、鈴木に投げつけた。
「終わったね…」
鈴木はにやりと、口元を緩めた。
そして、おもむろにポケットから、あるものを取り出した。
それは、ドレッシングだ。
「何だ?それは」
ドレッシングだけを取り出した鈴木に、同級生の1人が近付く。
「食べ終わってから、出すなよ」
「だって…僕は、まだ食べてない…」
鈴木は、また呟くように言うと、
「はあ?」
余りに小さい声だったので、聞き取れなかった同級生が、顔を近付けた瞬間…鈴木はドレッシングの蓋を開け、同級生の頭にぶちまけた。ドレッシングは、しそのやつだった。
「てめえ!」
同級生は、鈴木の胸ぐらをつかんだ。
「いただきます」
少し血走った目を向け、涎を垂らした鈴木の口が突然、突き出ると、大きく裂けた。
そして、ドレッシングをかけた生徒を、丸呑みした。
「ぎゃあああ!」
という悲鳴と、骨を噛み砕く音が、鈴木の口の中から響いた。
「え…」
一瞬のことで、何が起こったかわからない残りの同級生は唖然として、言葉が出ない。
目の前にいる鈴木は、もう鈴木ではなかった。
巨大な口に手足がついたような…不細工な体躯。
「あんまり…ドレッシングきかないな〜」
そう言うと、鈴木は残りの四人に口を向けた。
「まあ…いいっか」
動きがとまっている四人の目の前に、大きすぎる口が、視界を遮断した。
そして、次の瞬間、四人は口の中にいた。それから…まとめて、鋭い歯で砕かれていった。
数分後、いつもの姿に戻った鈴木は、口の中に残った味を確かめながら、
「もっと食べさすべきだったかな?あまり…カレーパンの味も、エビフライの味もしないや」
鈴木はそう言うと、歯に詰まったものを吐き出した。
「今度は、やっぱり服は脱がそう」
五人がいた場所に、金のボタンが転がった。
「まあ…その辺の蛙よりは、おいしいかな」
首を捻りながら、鈴木は屋上を後にした。
扉を閉める時、一応手を合わせ、
「ご馳走様でした」
と、食材への感謝の言葉を述べた。




