奇跡の力2
コーンコーンと木を伐り出す音が響けば、当然それに釣られて集まってくるモノがいる。
緑深い森の中を風のように駆ける四つ足の獣たち。
黒と茶の混ざった毛皮は都会の人間からすれば意外なほどに景色に溶け込み、疾走の音も木々が枝葉を揺れる音に紛れてしまう。
森の奥を縄張りにするハンター、魔狼たちの群れである。機動性に優れ、鋭い牙と堅固な毛皮を有するモンスターであり、一対一ではゴブリンは餌にしかならない、そんな強者たちだ。
耳も鼻も鋭い彼らはすでに獲物がどこにいるのかわかっていた。
今なお騒々しく木を伐りだしている間抜けな連中に森の中から襲い掛かり、獲物の喉元を食い破り、湯気が立つほど新鮮なハラワタを引きずり出して血肉に舌鼓を打つつもりだった。
甘美な未来を想像して駆ける魔狼たちの先頭の一匹が何か足に引っかけた。
ツタにでも引っ掛かったか、と思った瞬間、魔狼の視界はぐるんとひっくり返った。
そして、わけがわからないまま魔狼の意識は闇に飲み込まれ――死亡した。
そのすぐ後ろを走っていた魔狼たちも最初の一匹と同じ運命をたどっていく。
そして最後の一匹が命を絶たれた直後に、一人の白い髪の少女が姿を見せた。
「――忍法、木遁の術」
ぽつりと呟いた言葉だけを残して、再び彼女は姿を消した。
何かが致命的に間違っているということを彼女にツッコむ者はおらず、その後も音を聞きつけて集まってくるモンスターたちを一匹残らず殲滅するのだった。
◆
「――で、こうして大量に素材が集まったわけか」
伐り続けた結果大量に集まった材木と、ティナが狩ったモンスターの死体が山となっていた。
わずか一日でこれとは恐ろしい話だ。
「うぅぅぅ……死体、ミユが解体しないとダメ……?」
「無理なら俺がやるがけど、量が量だし毛皮も欲しいからできれば頼む」
「うぅぅぅ……」
大量のモンスターの死骸を見たミユは涙目になり、ユヅキは顔色を悪くしている。
「ティナさん、よくこれだけ狩れましたね……」
「忍者だからね」
二人と対照的にティナは戦果を前に胸を張って鼻高々である。
「うぅぅぅ……ティナちゃん、死体とか気持ち悪くないのぉ……?」
「大丈夫。向こうでもよく狩りしていたし」
「え? 狩りって、日本……いえ、もしかしてロシアでですか?」
「そう。ロシアでも狩りはしていたし、日本でも猟友会に頼んで連れて行ったもらったわ」
「え、えぇ……」
「な、なんでわざわざ……?」
「もちろん、忍者修行の為よ! 忍者は野外生活のエキスパート! 動物くらい自分で捕まえて自給自足ができなきゃ忍者なんて言えないのよ!!」
ティナがドヤ顔で言い放った。
「……ティナちゃんって~、日本じゃあんまりおしゃべりしなかったけど、こんな子だったんだね~……」
「見た目は本物の天使みたいに可愛いし、日本語あんまり上手じゃなかったから知らなかったけど……まさか喋ってみたらこうだったなんて……はぁ……」
はぁ、とミユとユヅキは同時にため息をついて、解体処理と収納に取り掛かった。
「あれ? このモンスター……魔石? 『魔石をポイントに変換しますか』って、もしかしてこの魔石でお金の代わりに売買ができるの……?」
どうやら魔狼の死体を収納にしまったユヅキが何か新しい発見をしたようだ。
【木遁の術】:木を自在に操る。森の中の忍者は無敵である。
実は異世界召喚される前から忍者になろうとして修行していたティナさん。でも日本語を話すのは苦手。