聖女拾った6
「カイ! 俺たち【ダーウィル&ジョー】の人たちと迷宮に挑むことにしたわ!」
宿の階段を下りて一階の食堂に顔を出したところで、突然大声で言われた。
「わざわざ雪が降っている中で外に出て見回りとかやってられないっての。あの村の連中、薪も食料もケチるしな」
「お前ももっと要領よく生きた方がいいぜ~? そんじゃあな~!」
「……は?」
好き勝って言いたい放題言ったアホーク、マヌスケ、バッカスの三人が荷物を抱えて宿を飛び出し、寝起きで寝ぼけていた俺はそんな三人に何も言い返せずに呆然と見送った。
「――確認が取れた。どうやらその三人は既に街を出ているようだ」
イーミルの街の冒険者ギルドに向かい、先ほどの三人のことを受付に言ったのだが、どうやら事実だったらしい。
「件の迷宮探索者たちがこの街で冒険者たちをスカウトしていたのは知っているな? そのスカウトに飛びついたバカな奴らが大勢、この街を出ていった。迷宮探索で一発稼ぐつもりなんだろう」
迷宮は危険と隣り合わせだが非常に実入りがいい。一攫千金を夢見る冒険者が大量に迷宮の中に足を踏み入れ、ほんの一握りの人間が財宝を持ち帰ってくるという場所だ。
正直に言えば俺も迷宮に興味はあった。宿にやってきた【ダーウィル&ジョー】の人たちにもスカウトをされた。
けれど、今の俺の実力や装備では迷宮では通用しないと思ったし、そもそも『先に依頼を受けていたので』スカウトは断った。
だが。
「……アホークたちの受けていた依頼、どうなるんですか」
「当然、無断での依頼放棄だ。あいつらは降格処分どころか除名処分だな。もう二度とイーミルの街で仕事を受注することはできん。他の街にも回状を回す」
「そっちはいいんです。そうじゃなくて、俺の受けている依頼はどうなるのかって聞いてるんです。追加の人員は来るんですか?」
俺とアホークたちの四人で受けた依頼。
秋の終わりから春までの間近くの開拓村に拠点を移し、村に寄ってくるモンスターや獣たちを退治するという依頼だ。
当然だが、そんな重労働の依頼を俺一人で達成できるわけがない。モンスターの群れを相手するなら数が必要だし、村周辺の警戒も順番で交代しながら行うものだ。
そういうわけで追加の人員の有無を確認したのだが、受付の返事は冷たかった。
「すでに依頼は締め切られているし、他の依頼を受けるはずだった冒険者たちが何人も迷宮に向かってしまって人手が足りない。今から追加するのは無理だからカイ一人でがんばってくれ」
こうして俺は一人でイーミルの街から追い出されて開拓村に向かう羽目になった。
依頼の破棄も考えたが、キャンセル料の支払いか冒険者ギルドからの除名の好きな方を選べと迫られてどうしようもなかった。ギルドから除名されてしまったら今後仕事にありつけない。選択肢なんて存在しなかった。
そして開拓村に辿り着いた俺を待っていたのは村人たちの失望の視線だ。
複数人で受注してきたはずの依頼なのに実際に街からやってきたのは俺一人。たった一人でどれだけ戦力になるのかと言われてしまえば返す言葉もない。
しかも、本来なら人数分、それなりの量を貰えるはずの物資も本当にぎりぎり一人分足りるかどうかという量しか分けてもらえなかった。
俺一人しかいないならこれで十分だろう、というのが村長の言い分だった。
村の外れにある大きな猟師小屋に向かう。複数人の冒険者が過ごせるように大きめに作られている小屋は寒々としていたが、薪の量が少ないので我慢するしかなかった。
ほとんど水みたいな麦粥に申し訳程度の塩を入れ、それでも全然満たされない空きっ腹を抱えて毛布に丸まりながら一夜を明かす。
明日は少し奥まで足を踏み入れてみよう。村人の立ち入らない森の奥の方から少しだけ薪を取ってくるだけなら村長にバレてもうるさく言われないだろう。
すでに折れそうになる心を耐えながら、一人で眠りについた――。
「……夢か」
深夜。不意に目が覚めた。
明かり一つない真っ暗闇に夢の続きかと勘違いしそうになるが。
「すぅ……すぅ……」
「むにゃむにゃ……えへへ~……」
「うぅん……」
闇の中に自分以外の人間がいることを感じて、あの出会いは夢じゃなかったと胸をなでおろした。
【商人】、【職人】、そして【忍者】。
俺の想像を超えた能力を有する三人の聖女たちと出会えた幸運に感謝する。
(見ていろよ、俺はこの三人の力で必ず成功してやる……! 富、名声、力……全て手に入れてやるんだ……!!)
三人の力を利用して必ず成功してみせる。依頼を放り出した三人組も、ギルドの受付も、この村の連中もみんなが羨むような成功者になってみせる。
そう決意を新たにし、胸の中に燃え滾る思いを感じながら、俺は明日に備えて再び目を閉じた――。
カイ イーミルの街の駆け出し冒険者、野心を胸に秘めている