聖女拾った5
「お城で言われたとおりにしたんだけどね~。他の人でも同じことができるって言われちゃったんだよね~」
ミユが『聖女に相応しくない』と判断された理由を聞いたのだが、マシア聖王国では能力を説明して何回か使っただけで不適格と判断されてしまったらしい。
どうやら『自分の手を動かして物を作るのは下賤な仕事』というのがマシア聖王国の上層部の認識らしく、王侯貴族からすると商人と同じように職人は下に見られているらしい。
また、ミユが作ることができた完成品は他の職人が作る品物とほとんど変わりがなかった。『山を断ち切る聖なる剣』や、『竜の炎を防ぐ聖なる鎧』のような伝説級の装備や道具などは作ることはできなかった。
『他の職人でも同じ物が作れる』というだけでミユの能力は評価されなかったというわけだ。
「……あの国の聖女信仰はおかしい」
ティナからするとマシア聖王国の人間は異常に見えたようだ。
「聖女という存在を神聖化しすぎた結果、聖女を絶対視している。聖女の力は『唯一無二の奇跡の力』であり、『他の人間でも似たようなことをできる力』を聖女の力と認めなくなっている」
聖王国が認めた聖女たち。
例えば、現在の医療技術、回復魔法では絶対に救えない人間を治療してみせた『癒しの聖女』。
例えば、天空を貫き、大地を焦土と化した絶大なる破壊の力を使う『天罰の聖女』。
例えば、その場にいるだけで若葉が茂り花が咲き誇り、国土に繁栄をもたらす『豊穣の聖女』。
人の身では絶対に叶わない『奇跡の力』を持った存在が聖女であり。
『お金を払って商品を購入する力』や『材料と器具を揃えれば製品を作り出す力』を彼らは『奇跡の力』と認めなかった。
下賤な商人や職人と似た力を持ったユヅキやミユを、彼らの信仰対象である聖女だと認めなかったのだ。
「何が聖女の力で何が聖女の力に相応しくないのか、あいつらが勝手に決めつけて……一体何様のつもりなのかしら」
ティナが背筋が凍りつきそうな怒りを含ませた声で吐き捨てた。
「……そうだな、一方的に『聖女に相応しくない』と決めつけられた挙句、こんな辺境に追放されて苦労しているんだ。怒るのも当然だな……」
「ん~? それはちょっと違うよ~?」
「……何?」
「ティナちゃんが怒ってる理由はね~。王国の偉い人達に自分の【忍者】の力がバカにされたから、だよ~?」
「……は? ニンジャ……?」
聞いたこともない。なんだそれは。
「バカにされたというが、ニンジャとは何なんだ?」
「――【忍者】とは! 日本が世界に誇る最高にして最強の存在! 我が身の危険も顧みず闇から闇へと渡り世界の悪と戦い続ける正義の使者! 忍法と言う魔術と忍具という秘密道具を操り、火を噴き、水の上を駆け、空を飛び、忍獣を召喚し、分身する彼らを止めることなど誰にもできない!」
「は……? お、おい……ティナ?」
「時には悪人たちの悪だくみを暴くために人知れず潜入して資料を盗み出し、時には許されざる大罪人どもに天誅を下す断罪の刃と化す! 古来より忍の教えを伝え続け、今ではその教えを受けるためにKGBやFBIすら門戸を叩くという――」
「あ~。ティナちゃんのスイッチ入っちゃったね~」
「ティナさん、こうなると長いんですよね……」
目を爛々と輝かせて、急に早口になって矢継ぎ早にしゃべりだしたティナを見て、二人が呆れた様子で言う。
「ティナちゃん、忍者大好きっ子だから~。カイさん最後まで聞いてあげてね~」
「【忍者】の力を暗殺者や密偵だって言われて、それからずっと機嫌が悪かったんですよねぇ……」
「ユヅキ! 忍者は忍者なの!! ただの暗殺者やスパイと一緒にしないで!!」
ムキーッ!と顔を真っ赤にして忍者の素晴らしさを語り続けるティナを見て、これまでのイメージが崩れると同時に、絶対に彼女の前で忍者のことをバカにするのはやめようと思った。
「外国の人ってなんで忍者のこと誤解してるんだろうね~?」
「でも、実際にティナさんの言う通りのことができるから一概に誤解とも言えないのが何とも……ね」
ティナ(クリスティーナ) 銀髪、クール系美少女、忍者オタク
チート能力:【忍者】 忍法と言う魔術と忍具という秘密道具を操り、火を噴き、水の上を駆け、空を飛び、忍獣を召喚し、分身する