愚か者たち
「小屋に入ってきたのか……それは由々しい事態だな」
「追い返すだけなら簡単だけど、何回も来られると困るわ」
俺たちの留守中に小屋に男三人がやってきたとティナから伝えられた。
分身が対応したらしく、無事に追い返したらしいがこれを放置は少々問題がある。何がきっかけで三人の能力がバレるかわからないし、いきなりやって来られても困る。
「早速村長のところに行ってくる。そいつら三人には見せしめになってもらおう」
「……見せしめ?」
きょとんとする少女たちを置いて小屋を出た。
三人の能力は非常に強力だが、こういう場面では常識知らずなので発揮されない。
その穴を埋めるのが今の俺の役割だろう。
村の中心部に来た。出来れば当人たちを捕まえられればいいな、と思いながら村長宅に向かっている途中で俺の前に立ちふさがった男たちがいた。
「おい! お前があの女どもを連れてきた冒険者か!!」
三人組の男で、一人は頬に切り傷が走った随分と男前な男。残り二人も顔に青痣をつくっていたり、立ち方がおかしかったりと怪我をしている様子だった。
ああ、この三人か、と一目でピンと来た。
「俺が借りている小屋に押し入ってきたっていうのはお前たちか」
睨みつけてやっただけで怯み一歩下がる。度胸がないな、こいつら。
「そ、そうだ! この顔を見ろ! お前がこの村に連れてきた女どものせいで怪我をしたんだぞ! 責任取れ!!」
「あんな危険な奴らを村に引き込むなんて何を考えてるんだ!!」
「謝れ!! 土下座しろ!!」
ワーワーと騒ぐ馬鹿三人組のせいで他の村人たちも集まってきてしまった。その中には村長の姿もあった。
「おい、何の騒ぎだ。……カイ? なぜここにいる?」
「こいつらのことで村長に用事があったんですけど、ちょうどいい。実はこいつら、俺が留守中に勝手に借りている小屋に押し入ってきたんです」
「……なに? ……本当なのか?」
「ああ、村長! 聞いてくれよ! 俺たち、こいつの小屋にちょっと顔出しただけなのにこんなに酷い怪我をさせられたんだ!」
「見てくれよこの痣!! 小屋にいた女どもが薪を投げつけてきたんだ!!」
「こいつら村から追い出してくれよ!!」
「――とまあ、こういうわけで。俺がいない時に勝手に小屋に入った挙句、中にいた女性たちに追い返されたらしいんです」
「な、なんということを……この大馬鹿者が!!!!!」
「へ……そ、村長……? なに怒ってるんだよ……」
「怪我をしたのはこっちだぞ……?」
ベラベラと喋ったせいで村長に怒鳴りつけられた三人組は目を丸くする。
「あんたたちは知らなかったみたいだが冒険者ギルドの基本ルールというものがある。『冒険者が借りている部屋や建物に無断で入ってはいけない』。依頼人はこのルールを守る必要があるんだ」
冒険者ギルドに集められる依頼はとても多く、依頼者の住むところはバラバラだ。
北の村の依頼を解決したと思えば南の港町の依頼に呼ばれることもあり、東の砦に届け物をしたと思えば西の街まで隊商の護衛につくこともある。
そんな生活なのでしっかりとした拠点を持たず、何らかの形に変えて財産を持ち歩く冒険者というのは意外と多い。
そういうわけなので、冒険者は例え依頼人であろうと自分の使っている寝床に他人が入ってくることを非常に嫌う。依頼中には余計な荷物を持っていくわけにもいかず旅の道具などを寝床に置いていく為、他者に触れられたくないし、下手をすると荷物をそのまま盗まれる可能性がある。
そこで冒険者ギルドの基本ルール『冒険者が借りている部屋や建物に無断で入ってはいけない』だ。
例え依頼人であろうと冒険者たちの寝床に入ってはいけないとギルドが定めており、このルールが破られた場合、依頼人に罰金が課されたり、冒険者のノーペナルティの依頼放棄が可能になる。
泥棒たちの巣穴で安心して体を休めるなんてできないので当然だ。
なお、冒険者がこのルールを悪用した場合、魔法を使った審問会で白黒つけることになるので、そういう馬鹿は滅多にいない。
――とまあ、こういうルールが既にあるわけで。
「村長。どうします? こっちは出るとこ出てもいいんですけど?」
苦り切った村長の顔と今更顔を青くする愚か者たちの顔を眺めながら、周囲にいる他の村人たちにもアピールをする。
留守の間に勝手に小屋に入ってきたらただじゃ済まさないぞ、と三人組を見せしめにして見せつける。これで他の村人たちも大人しくなるだろう。
その後、迷惑料として村長は俺に金貨三枚を差し出すのだった。
冒険者ギルド基本ルール:冒険者に依頼する際の基本ルールであり、冒険者を守るための基本ルールである。
『依頼内容に嘘をついてはいけない』『依頼料は前払いでギルドに支払う』『依頼内容から逸脱する行為を冒険者に強制してはいけない』などがある。
なお、ギルドが冒険者に無茶振りをしないとは言っていない。




