奇跡の力4
秋は冒険者の季節だ。
一番人力を必要とする収穫が終わり、年に一度の楽しみである祭りを楽しんだ後は長く冷たい冬がやってくる。
その冬の間の食い扶持を節約する為に“余っている人間”が村から街へ送られ、冒険者としてデビューすることになる。
猟師小屋に近づいていた三人組はそんな冒険者候補の人間たちだった。
実家の次男、三男で、家を継げないけれど村から出て冒険者としてやっていく度胸もない、部屋住みの労働力である。
「ふへへ……あそこに女がいるって本当なんだよな? なあ?」
「ああ、村長が言っていただろ。ゴブリンの巣から助けられた奴らがいるって。ゴブリンどもは女しか攫わないから間違いない」
「お、お、お……女、女……! ゴブリンの使い古しだろうと構うもんか! 抱けるんならなんでもいい!」
「そうだ、その通りだ! あの阿婆擦れども、俺らの誘いを断って他の男たちに尻を振りやがって、ちくしょう!!」
「祭りの時にちょっと羽目を外したくらいなんだって言うんだ、あの女どもめ……」
男余りのこの村で財産もなく、顔も頭も性格も悪い男三人は女衆から嫌われていた。そのせいで祭りの夜の行事からもハブられているし、冬の相手としても最初から除外されている。
そのために劣情を持て余していた三人は村長から言われたことを都合よく解釈した。モンスターに犯された『穢れ女』ならどう扱っても文句を言われないだろうと考えたのだ。
この世界ではモンスターから感染する類の性病というものがあり、被害にあった女性に手を出そうとする基本的に男はいない。非常にリスキーな行為だと思われているからだ。
だがそういう危険が理解できない、正しく認識できない人間というものも存在する。辺境のまともな教育も受けていない人間など特にそうだ。
「ここだ……へへ、冒険者の野郎はいないな……よし、よし」
遠くから猟師小屋の様子を伺うが、村が雇っている冒険者の姿は見えなかった。
日中は森の見回りに出ているはずなので、あの猟師小屋にはいないだろうと男たちは予想していた。
「静かにな……そーっと、だぞ……」
息をひそめ耳をそばだてるが小屋の中から物音は聞こえてこない。
「静かだな。……開けるぞ」
猟師小屋には鍵はついていない――そもそもこの村で鍵がついているのは村長の家くらいで、あとは閂くらいだ――ので、扉は簡単に開いた。
「……は?」
扉の中に光景に男たちの思考が止まった。
――小屋の中央、床に敷かれた薄っぺらな藁の上に三人の女性が寝かされていた。
顔は晴れ上がり、青黒く変色し、血の滲んだ襤褸切れを包帯のように巻かれている、濁り切った死んだ目をしている女性たち。
何も言わず、何もしないでぼんやりと空中を眺めていた彼女たちが開いた扉に顔を向けて――男たちに気がついた。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
「ひいいいい!!! いやあああああ!!!! やめてええええ!!!!」
小屋を揺るがすほどの大きな悲鳴を上げる三人、男たちが慌てる。
「ま、待て、待ってく――!?」
――カッ
叫び声をあげる女性たちに近寄ろうとした男の頬を掠め、銀光が壁に突き刺さった。
女性の一人が投げた古びたナイフだ。男の頬からじわりと赤い血がにじむ。
「に、逃げろ! こいつら正気じゃない!! 逃げろ!!!」
「イダ、やめろっ、くそ!! 何なんだよちくしょう!!」
ナイフの他にも手当たり次第で木の器だの鉄の鍋だのと投げて来る女たちに、慌てて踵を返して逃げ出す男たち。
彼らが遠く離れ、声も届かなくなったところでようやく狂乱が終わった。
床の上の痛々しい女の姿が消え――同じ顔をした三人の少女が姿を現した。
忍法・変化の術と忍法・分身の術。
ティナとカイが残しておいた、いざという時の保険に愚かな男たちは引っ掛かったのだった。
【変化の術】:変身する。忍者なので。
【分身の術】:分身する。忍者なので。




