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聖女拾った

※主人公は辺境の冒険者

※召喚聖女たちの復讐なし

 マシア聖王国。

 三百年に一度、聖女を召喚する伝統を持つ王国。

 時には聖女の力で亡国の瀬戸際から復興し、時には聖女の力で大いに繁栄しその恩恵を享受してきた国。


「――で、あんたたちはそのマシア聖王国に召喚された聖女候補だった、と?」


「は、はい。半月前に召喚されてこの世界にやってきました」


 ユヅキと名乗った少女が代表して受け答えをした。黒髪を肩のあたりで切りそろえているが、髪の短い女性は滅多に見ないので珍しい。


「私たちを含めて十人のクラスメイトが召喚されたんですけど、それがマシア聖王国の人たちには想定外だったらしくて。一人一人の能力を確かめられて、誰がどんなことをできるか確認された後……」


「どうなったんだ?」


「……私たちの力は『聖女に相応しくない』と、いきなり魔法で放り出されたんです。それで、気がついたらあの森に……」


「……なるほど」


 怒りと悲しみを滲ませた顔で言ったユヅキの様子は嘘をついているようには見えなかった。


(それに三人を拾った時に見たあの力は……)


 ユヅキの後ろに座る銀の髪の少女に視線を向ける。

 興味なさそうにぼんやりとしていた少女――ティナは、俺の視線を感じ取ったのかすぐにこちらに目を向け、視線が交わった。

 雪のように儚く、冷たく、美しい少女だった。貴族に見初められて側室に迎えられてもおかしくはないと思う。だが、その見た目にそぐわない苛烈さを秘めた少女なのだと、俺は森の中の一件で知っている。

 彼女たちが常ならぬ力の持ち主ということは真実だった。


「話はわかった。それでこれからの話だが、あんたたちはどうしたいんだ? 先に言っておくが俺は面倒見れないぞ」


「……カイさんのご迷惑ですか?」


「迷惑とか迷惑じゃないって話じゃないんだ。――あんたたちの分の冬越しの為の食料がないから無理なんだよ」


 彼女たちに小屋の中を見せるが、小麦粉と塩、保存用の塩漬けの野菜に干し肉が少々。これが俺の持っている食料の全てだ。


「今の季節はもう秋の終わりだ。これから冬に向かってどんどん食べるものがなくなっていく。そうなったら備蓄の食料を食うしかないが、見ての通りこの小屋にあるのは俺一人分しかない」


 特に今年はちょっとした事情から本当にギリギリの食料しかないので、どうやってもあと三人分を用意するのは不可能だった。


「この村で食料を持っているのは村長くらいかな。だけど、もうこの時期だと金を出しても譲ってもらえるかわからないぞ。雪が降りだすまでにどれだけ食料を集められるかって時だからな。買うなら街まで行った方がいい」


「あ、あの……私たち、金銭は何も持ってないんですけど……」


「……ミユたち、食べる物、ないの……?」


 ユヅキの後ろにちょこんと座っていた少女ミユが悲しそうに呟いた。茶色のウェーブのかかった髪、三人の中で一番小さな背丈、けれど一番横に大きい。そんな少女が悲しそうに両手でお腹を押さえていた。


「おなかすいたよぉ……ぐすっ……」


 大きな目に涙が浮かび、今にも零れ落ちそうだった。


「……金がないなら、方法は一つしかないな。この村の村民たちに嫁入りすることだ」


 見たところ三人とも美少女と言って過分ではなく、健康そうな上に若い。


「幸いこの村は男余りなんだ。こんな田舎にわざわざ外から嫁に来る物好きな女もいない。村長に言えばきっと歓迎してもらえるだろう。それで良ければ今から村長の家まで案内するが、どうする?」


「――あの!」


「ん?」


「ご厚意は嬉しいんですけど、そうじゃなくてですね!」


「うん? なんだ?」


「まずこれを見てください」


 ユヅキが虚空に指を滑らせた。


「【売買】発動、購入決定――!」


 ポンと音を立てて、いきなりユヅキの目の前に袋が現れた。


「これ、小麦粉です。――これは塩。こっちは野菜。これは肉」


 ポン、ポン、ポン、と次々に小屋の中に出現する大量の食料。

 あっという間に元から小屋にあった量の四倍以上の食料が積まれた。


「これが私の力、【商人】のスキルです。私の力は金銭と引き換えに商品を購入できます。今のは聖王国の時に貰った金貨の残りで購入しました」


 誇らしげにユヅキが食料に向かって手を広げる。


「どうですか、カイさん! これでここに置いてもらえませんか?」


「……嘘だろ」


 床の上に転がる袋の中から、塩の入った袋を取り出して中を確かめてみた。

 真っ白に光り輝くような塩を少しだけ指取って舐めてみる。

 混ざりものの一切ない純白の結晶が舌の上で広がり、しょっぱさの中にほのかな甘みのようなものが感じられる。余計な雑味は一切なく、小石や砂が混ざっているということもない。


「……」


 生まれてから一度も見たことのないような最高級の塩が袋の中に詰まっていた。

 ズシリとした重みに心臓が早鐘を打ち、ぶわりと嫌な汗が湧いてくる。


「……カイさん? あの……」


「ユヅキ」


「は、はい……?」


「この塩、あとどのくらい買える? 金貨一枚で何袋買えるかわかるか?」


「塩ですか? ええと――」


 虚空に視線を向けて、ユヅキが指を滑らす。

 ドッドッドッドッと耳の後ろに心臓があるかのように、鼓動の音が響く。


「購入制限はないみたいですね。金貨一枚で……この塩なら、百袋以上買えるかな?」


「あぁ……」


 体から力が抜ける。


 手の中でズシリと存在を主張する塩。この袋が百袋以上……?

 おそらく、この袋一つで銀貨十枚以上の値段で売れるだろう。それが百袋、銀貨千枚。


 銀貨百枚で(・・・・・)金貨一枚(・・・・)銀貨千枚は(・・・・・)金貨十枚(・・・・)だ。


 マシア聖王国の金貨との交換レートを考えても、これはマズい。


 もしもこれが他の人間にバレたら、まず間違いなく俺は殺される――。

ユヅキ 黒髪ボブ

チート能力:【商人】 お金を払って商品を購入できる。

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