ケーキのお味は
ドラマに出てくる爆発物処理班の気持ちがわかる、気がする。
厳重に手提げ袋から箱を取り出し、慎重に包装をほどいた。
蜂須賀さんのほうをチラッと見て、再確認する。
軽い感じで首を縦に振った。
もう、信じてますからね。お願いしますよ。
額には汗が滲むが、両手がやけに冷たい。
はーっ
変なコードとか出てきませんように……
薄目で目視しながらゆっくり、
そうっと箱を開けた――。
苺のショートケーキ。
蜂須賀さんの言った通りホールサイズの丸いやつ。
高そうな真っ赤な苺が上にぎっちりのっている。
本当にケーキだ、美味しそうな。そして私、苺が好物だった、気もする。
苺の上に楕円形チョコレートプレートが飾ってあって、そこには、【ハッピーバースデー・佐東紅生さん】と描いてあった。
「ハッピーバースデー、さとう…………べにお?」
声に出して読んでみるが――。
佐東紅生――。
サトウベニオ――。
サ・ト・ウ・ベ・ニ・オ――――…………
あれ?
サ・ト・ウ・……………………
「誕生日ケーキだね」
呑気な声で蜂須賀さんが呟いた。
……いや、違う。
胸がざわざわする。
頭の中で打楽器のような重低音が響き出した。
不快だ、とっても。
「……………………っ」
唇を噛んで、耐える。
「どうした?」
心配そうな蜂須賀さんの声が遠くに聞こえる……気がする。
全てが遠い。
得体の知れない何かが、ぐるっと体を一周して、そして、乾燥した土のように亀裂が入って、ぽろぽろ落ちていく――すべてが…………。
あっ、呼吸が楽になった。
目を閉じると音が止んだ。
体の中で振り返ると、
私を締め出していた、私と私たちが迎えに来ていた。
「……………………ふっ」
ああ、私が全身に満ちる――。
やっと戻ってきた――・・・
「……大丈夫か?」
私の肩に蜂須賀さんの手が触れる。
ふふっ、あなたが大丈夫だって言ったんですよ。
大丈夫ですよ、こんなの。
「君!」
蜂須賀さんの手に力が入る。
ああ、蜂須賀さんを困らせているなぁ。
でももっと、困らせるけど……しょうがないよね、共犯だもの。
ゆっくり目を開けて、深呼吸した。
「すみません。やっぱり、私が犯人です」
思い出したての運動神経は難なく働き、蜂須賀さんの手を振り払って突き飛ばし、最速で寝室に飛び込んだ。
「おいっ」
ベッドの上の血だるま親父の胸ぐらを両手で、ぐしゃっと掴み上げる。
「親父ー。またやったな!」
返事は無い。
まだ、死体(?)なので、だらんとされるがまま、黙って体ごと揺さぶられている。
「ふっ、これはチャンス!」
誰にも見せられない笑みを零し。
ベッドの上に馬乗りになって圧し掛かり。
首に両手をかけた。
「頼む、今度はちゃんと死んでくれよ」
指先に力を込める――
「早まるなっ」
手首を掴まれて力を削がれた。
蜂須賀さんが間に合った。
チッ。
「ま・つ・だ・い・らーっ、また、どっかで盗聴してんだろ!出てこいやー」
怒りが収まらない私は、宙に向かって叫んでいた。
その言葉を待っていたかのように、ドアのチャイムが小さく鳴った。
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