ドッキリですか
「フロントです。今、お時間よろしいでしょうか?」
「はい。大丈夫ですが……」
本当はちっとも、大丈夫じゃないですが……。
蜂須賀さんに急かされて、嫌々ながら受話器を取った。
聞き漏らさないように、直ぐ横で耳を傾けられている。
近い近い、顔が近い。
色んな意味で鼓動が高鳴る。
「お客様宛に『パティスリー間宮』から、時間指定でケーキの宅配が来ております」
「ケーキ?」
無言で見つめ合う二人。
「はい。お間違いなければ、お部屋まで届けくださるそうです」
置き時計の針は午後3時の5分前――。
三時のおやつ?
「お客様?」
どうしましょうと蜂須賀さんにアイコンタクトすると、黙って頷いた。
えっ、受け取っちゃうのケーキ!
怪しいですよ、絶対に!罠です。んっ誰のための罠かな?
私がグズグズ返事に迷っていると、今度はゆっくりと大きく頷いた。
「お客様?」
いいんですね、何かあったらお願いしますよ。
「お願いします」
「かしこまりました」
ふーっ。
静かに受話器を置いた。
今更ながら汗で手がべたつく。
「真犯人からのプレゼントかな」
ちょっと楽しそうに呟く蜂須賀さん。
「ありがとうございました」
高級店らしき制服を着た女性に会釈して、ドアを閉めた。
ネームプレートの名前は田中さんだった。どこにでもいる名字だなぁ~。
お店のロゴがついた手提げ袋の中に、赤いリボンで飾られた正方形の箱。
中身はどうあれ、外見はケーキが入ってそうだ。
重さも、そんな感じかな。
入り口付近の死角から様子を見ていた蜂須賀さんが、
「中身はホールケーキだね」
つまらなそうに言った。
「まだ、わからないですよ」
手提げ袋を渡そうとするが、受け取ってくれない。
「実は視力に少々自信があってね」
誇らしげに片目を閉じる。
「それは羨ましいですね」
余裕のない私は蜂須賀さんのボケ(?)を受け流した。
しようがないので自分でリビングに運んで、ローテーブルの上に手提げ袋ごと、そうっと置いてから、ソファの後ろに隠れる。
蜂須賀さんはお気に入りの一人用ソファに、また、埋まるように腰をかけた。
「大丈夫なんですか?」
蜂須賀さんが知る由もないのはわかっているが、聞かずにはいられない。
「ん~っ」
欠伸をしてから、隠れているこっちを向いて、
「開けてみれば?」
顎で催促してくる。
いやいや、待て待て。
不審物、絶対に怪しいやつですよ、蜂須賀さん。
「爆発とか、しないですよね?」
「しないよ」
「有毒ガスが、出るとか?」
「出ないよ」
フッと形の良い鼻で笑われた。
いやぁ、でもねぇ。私は小心者なんですよ。記憶無いんで、想像ですけど。
怖いなぁ~。
ローテーブルに近づいて、上から覗き込む。
赤いリボンの正方形。
タイマーの音もしないけどさ。
「じゃあ、蜂須賀さんが開けてくださいよ」
ダメ元でお願いするが、
「大丈夫だよ」
とソファに埋まったまま動かない。
「大丈夫なら、蜂須賀さんお願いしますよぅ」
もう一回、ちょっと媚びながら言っても、
「君が開けたほうがいいよ」
甘い微笑で、さらっと断られた。
ぬぅー。
「何でですか」
今度は、拗ねた感じに唇を尖らせると、
「真犯人のメッセージかもよ」
もっと綺麗な顔で、あざとく唇を尖らせた。
この戦い、勝てる気がしない。
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