第六話
首都東京のとある建物の3階に2人はいた。
「それで、俺は何をすれば?」
問いかける少年は若干15歳で暗躍組織の重要任務を任されている八神日吉である。
「無論だ。聖剣を討て。どんな手を使ってもいい。だが、お前とは言え聖剣を相手にバカ正直に戦っても部が悪いだろう。」
答えた中年の髭が生えた男性は日吉の直属の上司にあたる暗密聖騎士団の副総隊長である。
「まぁそうだな。出来れば寝首を掻くくらいが丁度いいかもな。」
「だが、もし寝首を掻いても暗殺できなかったら…」
「まぁ、奴が本物ってことだろ。その時お前に命があったら精一杯護衛してやれ。」
「あぁ、それにしても意外だな。暗密聖騎士団が皇太子を試すようなことをするなんて。」
「それだけ聖剣に価値があるってことだ。あれは絶対に他国や他の組織に渡してはならない。」
「分かっている。白銀の守り人はこの任務のことを知らされているのか?」
「いや、一応内密にしてある。やつらの護衛能力も一つの審査基準だ。しかし、あちらの今の総隊長は切れ者らしい。一方的に情報漏洩することだけは避けろ。」
「問題ない。どんな拷問でも口は割らない自信がある。」
「まぁその点は心配していないが…。」
中年は髭を触りながら日吉に向き直った。
「全力のお前が暗殺できなかった、そういう結果が出るのを誰もが望んでいる。だからと言って手は抜くなよ。」
「了解した。」
暗闇の中、日吉はあくまで1人の暗殺者として任務へ向かっていった。
◆◆◆
体が痛い。身動きが取れない。
はっと目を覚ますと、そこには見慣れない天井があった。
「目、覚めましたのですね!」
聞いたことのない声が耳元から聞こえた。俺は声の方に顔を向けようとする。
「痛ッ!」
「あわわわ!まだ動いちゃだめなのです!貴方は全身にけがを負っているのです。」
そう言って俺を抑えているのは歳は俺と同じぐらいだろうか、栗色の髪色をした少女であった。
「お気分はどうなのです?」
そう聞いてくる彼女の顔がやたら近くて動揺する。え、なんかいい匂いなんだけど。
「いや、その前にここはどこなんだ?そしてお前は?」
そう単刀直入に切り出すと。栗毛の少女は花が咲いたような笑顔になった。
「よく聞いてくれたのです!ここは私のお家で、私はあなたのお嫁さんなのです!」
「は?」
余りにも意外すぎる、というか意味不明な答えに唖然としてしまった。
「冗談はよしなさい紫。あんたら初対面でしょうが。」
そう言って部屋の扉を開けてまた1人の少女が入ってきた。青みがかった紺色の髪のショートカットの美形の少女である。
「ここは白銀の守り人の拠点、白屋敷の客室よ。君はここに怪我をして運ばれてきたの。」
「そうだったのです!私、勘違いしてましたぁ!」
紫、と呼ばれていたワンワン騒いでいる栗毛の少女を他所に、俺はもう1人の少女に目線をやる。
「現状を詳しく説明してくれ。」
そう尋ねると紺毛の少女は微かな笑みを浮かべた。
「そんな聞き方していいの?君、一応皇太子への暗殺未遂で国家転覆罪に問われるかもしれないのに。」
そう言われてはっと思い出した。
そう、俺は敗れたのだ。聖剣に。倭京星に。
「八神日吉君、だったかしら。私は白銀の守り人第三番隊隊長の桐生綾乃よ。そしてこのアホっぽい子が第四番隊隊長の可愛紫、これからよろしくね。」
これからよろしくって、俺罪に問われるんじゃないの?
「俺をどうするつもりだ。」
良くて一生独房。普通に行けば極刑、死刑だ。
「どうするも何も、怪我が治ったらしっかり働いてもらうのですよ!」
可愛とかいうやつは嬉々とした雰囲気である。
「総隊長の指示で君には白銀の守り人の一員として働いてもらうよ。」
総隊長?誰のことだ?だが、確かに宮水とは協力するって約束してたしな。
「でも、当分はここで治療していくのが妥当ね。学校は数日お休みしなさい。」
「いやでもそれじゃクラスメイトに不審がられるだろ。」
って俺のこと知ってるクラスメイトなんてせいぜい2、3人でした!何これ寂しい。
「そう言えば宮水はどうしてるんだ?基本的にはあいつと話をつけてあるはずだが。」
「そうでしたぁ!じゃあ総隊長を呼んでくるのです!」
慌てて部屋から出ていった。可愛ってやつは落ち着きないな。てか今宮水のこと総隊長って呼んでなかった?
…まさかな。
可愛が出て行くと俺は必然的に桐生綾乃と2人きりになる。女の子と密室で2人きりってすごいドキドキするんですけど…。
だが、俺も一端の諜報員、宮水が来る前にそれなりに情報を整理しなければ。
「結局、京星皇太子との戦いの後どうなったんだ?」
そう尋ねる。
「どうもこうもないわ。気を失った君を私らが見つけて、この拠点で治療したってだけ。そういう筋書きだったの。京星も了承してたしね。」
なるほど…。どういう訳か俺が京星を暗殺、もとい試験をしようとしていたことがバレていたらしい。
こうなるとあの髭おやじの言っていたことがどこまで本当か怪しくなってきた。
こりゃ元々詰んでたんだな…。
傷が痛むので、見守り(見張り)をしている桐生を横に、もう少し休むことにした。
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