第三話
―「聖剣インフィニティ」
その剣は世界を治めるものにのみ振ることが許される聖剣である。
一振りで大地を切り裂き、海を割り、風を切る。
そんな世界で唯一の聖剣だった。
かつて海の底に眠っていたその聖剣を見つけ出したのはただの船乗りだった。
その船乗りは聖剣など扱える器ではなかったため、それを自らの国であるドイツの皇帝、アーノルデル帝に寄贈した。
しかし、アーノルデル皇帝はその聖剣を用いて世界を我がものにしようとしたのである。
もちろん他の国の権力者たちはアーノルデル皇帝に猛抵抗した。
その度に各国で挙兵がされ、世界中で血の雨が降り注いだ。
しかし、この戦いに終止符を打つ英雄が現れる。
その名も「倭命」
古き日本の若き皇太子であり、凄まじいアウラを用いて聖剣の加護を受けているアーノルデル皇帝を圧倒した。
聖剣を奪った命は世界最強であろう自らが聖剣の所持者となることで争いを沈めた。
しかし、命にも老いがやって来て、まともに剣を振れなくなったのを理由に自らの息子に聖剣を託した。
命の息子も命ほどとは言わないが、圧倒的な強さで聖剣を保持し続けて世界に平和をもたらした。
しかし、何世代も倭家で聖剣を受け継いでいくうちに、命の血はどんどん薄まり、国王1人では聖剣を守ることが出来なくなってきてしまった。
その為に国王と聖剣を守る部隊として、既存の国立騎士団に加えて、聖剣に近いところで秘密裏に聖剣を守る「白銀の守り人」と、諜報活動が主体の暗躍組織である「暗密聖騎士団」の2つの組織が作られる。
これらの組織を聖剣保守派という。
それに対抗するように、倭一族に不満を持った権力者や、聖剣を我が国のものにするために躍起になる他国が幾つもの暗躍組織を作り、聖剣奪還派と呼ばれるようになった。―
◆◆◆
宮水が見せた黄金のネックレス、それを見て俺は確信した。
聖剣をモチーフにしたネックレスは主に日本国に忠誠を誓う「聖剣保守派」が身につけるものであり、保守派か奪還派かを見極めるアイテムでもある。
しかし、これだけでは信用に足らない。
彼女が保守派からネックレスを奪い取っただけの奪還派かもしれない。
「お前も保守派だと言いたいのか。」
俺はさらに続ける。
「所属はどこだ。」
分かりきっているが、一応尋ねてみる。
「白銀の守り人です。」
まぁそうだろう。保守派の秘密組織は暗密聖騎士団以外には白銀の守り人しかない。
他にも国立騎士団があるがこれは表立った公式な騎士団なので、暗躍組織とは言いがたい。
しかし、これは利用価値があると俺は踏んだ。後はあちら側の出方を伺うだけなのだが…。
「あなたに1つ提案があります。」
「……なんだ。」
「あなたも白銀の守り人に協力していただきたいのです。」
大方の予想はできたが、やはり勧誘してきた。
しかし、俺としては暗密聖騎士団でどうしても一つ外せない仕事がある。
「なるほど、確かに所属が異なるとはいえ同じ保守派としてはやぶさかではないな。」
近くに保守派で利用できる兵力があるのは実際望ましいことではある。
「そっちに協力するのはいいが、もう少し時間が欲しい。来週まで待ってくれ。それでも共同で皇太子を守りたいっていうなら俺も白銀の守り人に協力する。」
宮水は真っ直ぐな眼差しをこちらに向けたままだ。
「それで構いません。来週からが楽しみですね。」
早まり過ぎだ。と言おうとしたが憚られた。
何だかこの妖精さんと話していると少し調子が狂う。どこか懐かしいというか…。
きっとそれが彼女の魅力なのだろう。
午後の授業の予鈴が鳴ると、俺たちは教室に戻った。
…これは授業には集中できそうにないな。
上に報告することや、やならければならないことが山積みである。
はぁ…、なんで仕事ってやつは望んでもいないのに勝手に増えていくんだろうな…。
そう1人でたそがれる昼下がりであった。
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今回はちょっと説明チックな話になっちゃいましたね…。そのくせ文字数はいつもより少なめです(笑)
いずれにせよ今後の重要な設定でもありますので、今後の展開をお楽しみに!