第二話
神代来夏の試合は圧倒的だった。
試合時間僅か10秒。
試合開始直後に神代が放った高速電撃で相手は気絶、降参扱いで神代の勝利となった。
「なかなかやるな…。」
彼女のアウラの凄まじいところは電撃のスピードである。並の人間では反応出来ないほどの速度で確実に意識を刈り取る。
学生ながら天才と呼ばれるのも納得できる。
試合も終わり帰ろうとしていたそのとき、目の前に銀髪の少女が現れた。
「神代さん。すごいですよね。」
またもや試すような視線を宮水音羽はこちらに向けてくる。
「確かにな。俺のような凡人には手の届かない存在だ。」
「でも、貴方の方が強いのでしょう?」
「は?」
いきなりの言葉だったので、思わず聞き返してしまった。
「そんな訳ないだろ。俺はもう1敗してる。しかも、勝った2回はどちらも非戦闘用のアウラ持ちが相手だ。」
「その1敗はわざと負けたのではないですか?」
「そんな事して何の意味があるんだ。」
あえて強めに切り返す。
「例えばあまり目立ち過ぎると不都合なことが起こるから、とかではないですか?」
核心をついている。どうして分かるんだ?俺は表情に出るタイプではない。
もしかして何か確証があるのかもな。もしくはアウラか…。
「図星。と顔に書いてありますよ。」
これはブラフだ。俺は無視を決め込む。
「すまんが、疲れてるんだ。先に帰らせてくれ。」
俺はそう言い切って会場を後にしようとする。
「暗密聖騎士団。」
彼女がそう言った言葉に、俺は何の反応もしなかった。
いや、してはいけなかった。
寮に着いた俺は、さっさか寝る準備をして布団の中に入った。
思ったよりも事態が差し迫っている。決断をしなければならない。
暗密聖騎士団。
それは俺が所属している諜報部隊だ。
この部隊はもちろん表立って知られている訳ではない。日本国内にある「聖剣保守派」の暗躍組織だ。
しかし俺は今、表立っては黒影騎士団という「聖剣奪還派」の組織に属していることになっている。
どちらも暗躍組織なのは変わらないが、少なくとも彼女が何らかの裏組織と繋がっている可能性が高いことに変わりはない。
正体を知られた場合、知ってしまった者は始末するのが組織の掟だ。
しかし、もしも彼女が聖剣保守派の人間だった場合、始末したときに組織間に遺恨が残る可能性がある。
聖剣奪還派であり、同組織でないならばすぐさま始末できるのだが…。
宮水が保守派か奪還派がそれを調べる必要がある。
これは最優先事項だ。
明日中にケリをつける。
◆◆◆
次の日の休み時間に、俺は宮水にだけ聞こえるぐらいの声で話しかけた。
「今日の昼は弁当を作ってきたんだ。お前もいつも弁当だろ。1人で食べるのはちょっと寂しくてな。一緒にどうだ?」
女子をご飯に誘うなんて初めてだ。ドキドキ。
「あら。そんなお誘いが頂けるなんて思っていませんでした。喜んでご一緒させて頂きます。」
やはり快諾してきたな。
そもそもこれは宮水の方から仕掛けられてきたものだ。あちら側に断る理由はないだろう。
俺と宮水は昼休みに2人で教室を出て、裏庭のベンチに腰掛けた。クラスを出るときに何人かのクラスメイトが面白そうにこちらをジロジロ見ていたが、尾行はなさそうだ。
ここなら他人に話を聞かれることもないだろう。
「さて、2人きりでお食事なんて、私、これからあなたに何をされてしまうのでしょう?」
「もしかして、告白…ですか?」
わざわざ頬を赤くして俺をからかってくる彼女をよそに、俺は早速話を振り出した。
「暗密聖騎士団と言ったな。それについてお前は何か知っているのか?」
そう尋ねると彼女から笑顔が消え、真剣な眼差しでこちらを見てくる。
「これはこれは、いきなりで少し驚いてしまいました。」
「もちろん。知っていますよ。我が国を裏から支える暗躍組織、ですよね。」
裏から…、そうだな。彼女の言っていることは正しい。だからこそ余計に彼女の正体が気になるところだ。
「お前は何者だ。」
そう明確に彼女に尋ねる。
「その質問に答える前に、こちらから1つ質問してもよろしいですか?」
質問に質問で返すなとお前が先に言ったんだろうが。
「ああ、構わない。」
「ありがとうございます。それでは、」
そう言って彼女は切り出した。
「あなたは、白ですか、それとも黒ですか?」
なるほど、保守派か奪還派かという質問か、つまりこれで彼女が聖剣にまつわる任務に携わっていることがほぼ確定した。それを俺に暗に伝える質問でもあったようだ。
「白だ。」
ここで黒と言っても事態をややこしくするだけだ。周りに聞き耳を立てている奴もいないし俺は正直に答えた。
そうすると彼女は予め答えを知っていたかのように頷いた。
「ようやくあなたから本当の言葉が出ましたね。」
「……。どういうことだ。」
「私のアウラの話です。」
そう言って彼女は制服の胸ポケットから何かを取り出した。
金の聖剣がモチーフとされたネックレスである。
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