第一話
夕方、いつものように授業が終了する。
あれから宮水は何事もなかったかのように隣に座って授業を聴いていた。
ノートは小まめに取るタイプらしく、基本的に真面目な性格なのだろう。
宮水は自己紹介や屋上での一件でかなり俺の注目をひいたが、普段は一端の女学生である。
お喋りな方ではないが、その妖精のような神秘的な雰囲気から、クラスの女子などに時々話しかけられて、笑顔で応対している。
俺とも何だかんだで一人のクラスメイトとして接していて、屋上の件は大して気にしていないのかなとも思う。
俺と言えば、最近クラスで話せる友人ができた。前の席の長谷恭二という男子生徒だ。
彼は明るくお喋りなタイプで俺が聞き役に回っていることの方が多い。
「んでさ、昨日の実技で神代さんにボッロボロにされちゃってさぁ。あの子顔は可愛いのにおっかねぇなぁ。」
実技というのはアウラを用いた実践授業で戦闘形式のものが多い。なにもアウラは戦闘用のものだけではないので、人によって実技は得意不得意がある。
「確かに神代はアウラに恵まれてる感じはあるな。」
神代と呼ばれている女子生徒、確か本名は神代来夏だったかな。有名なお家の御令嬢らしい。
「神代のアウラは電撃系だっけ?」
「そうそう。あれは生まれ持った才能だよなぁきっと実技ランクもかなり高いと思うぜ。」
実技ランクとは週に一度行われる公式実技戦を基に作られる校内ランキングだ。学生全員に支給される端末で自らのランキングはもちろん、校内全員の実技ランキングと学力ランキングを閲覧できる。
俺の実技ランキングは1勝1敗で285位となっている。
一学年が40人10クラスで400人いるとなると、まぁそこそこの数字だと思う。
しかしこの数字、単純な戦闘の強さを表している訳ではないらしく、アウラ自体の活用の上手さや実績も加味されているらしい。
特筆すべきなのはこの全校生徒ランキングである。
入学式に在校生代表の言葉を述べた観月生徒会長は実技戦では19勝57敗と負け越しているにも関わらず、実技ランキングで3位を得ている。学力ランキングでも1位を取っているあたり、かなりの実績を持っているのだろう。
「はぁー。いい加減勝ち星あげて、300位第から抜け出してぇなぁ…。」
長谷の実技戦は0勝2敗で学年ランキングは369位である。
まぁその中の一敗の相手俺なんだけどね。
一学年終えて学年ワースト50位に入るとペナルティがあるとの噂だ。生徒たちは必死になって下位を回避するだろう。
そして今日は第3回目の公式実技戦である。基本的に第10回まではクラス内での公式戦となるため手の内は段々としれてくる。対戦相手は前日に連絡されるため、俺は今日誰と戦うかを知っている。
つまりは勝つためにはどう対策を立てるかが重要なのだ。
グラウンドに出ると大きいスタジアム一つと小さめの闘技場が約50個近く並んでいる。
まぁこの人数の試合をするんだから仕方ないよね。
俺は今回実技戦が行われる小闘技場へ向かい、そこで学校支給の戦闘服に着替える。
裕福な人間は自分の金で戦闘服を作ったりするが、あいにく金持ちでない俺は支給されたちょっとダサい戦闘服でやらなければならない。
今回の相手は…。超視力か、なるほど。これは実践向きなアウラではないな。
俺はそれを確認するとフィールドへと向かった。
試合開始のサイレンがなると、相手の男子生徒は少し怖がりながら構えた。
公式戦は相手の戦闘服の背中に埋め込まれているクリスタルを破壊すれば勝ちである。それ以外は場外に出しても勝ち、降参させるのももちろん勝ちだ。
大体はこの3パターンで勝敗が決する。
今の2年に公式戦で対戦相手を殺しかけて即反則、数ヶ月の休学を課せられた者もいるようだが、例外はそのくらいだろう。
俺は相手に向かって走っていく、持っている短剣で相手を牽制しながら腰に足蹴りをくらわせた。
相手は苦悶の表情を浮かべる。
その隙に俺は彼の背後へと回りこみ、クリスタルを破壊した。
試合終了のブザーが鳴り響いた。
まぁ実践経験がない学生などこの程度だ。
俺は幼少期より実践の訓練を積んでいる。お互いがアウラを使わない格闘勝負になればかなりこちらの有利となる。
対戦相手の腰は恐らく骨折レベルではあると思うが、そこはさすが国立学園、戦闘服に内蔵された特殊回復能力ですぐに体力、外傷等はリセットされる。
これで2勝1敗か…。ランキングが153位にまで上がった。
あまり目立ち過ぎるのは良くないとは言え、落ちこぼれてはいけない。
戦闘用ではないアウラの生徒に勝ち星をあげることに俺は照準を定めている。
せっかくなので、次の試合の神代の試合を見ていくことにした。
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~アウラ解説~
超視力:めちゃめちゃ視力がよくなります。正直使えない…。