第十三話
「こーくんたちが決勝の相手なんだね…。」
ゆりはいつもの元気がない。
「ゆりは、」
そう言いかけてやめる。
「何?こーくん。」
ゆりは俺に嘘をつかせてはくれない。そういうところが少しずるいと思う。
「ゆりは俺相手でも全力でかかってこれるよな?」
悩んでいるのは自分なのに、それをゆりに押し付けている。最悪な奴だなとつくづく思う。
「あ、あたしは….」
ゆりも悩んでいるようだ。
もちろん幼なじみを傷つけたくはない。だからと言ってここまで共に頑張ってきた仲間を裏切ることはできない。決して選べることのできない二者択一だ。
「あたしは全力で戦うよ。そうじゃないとこーくんにも失礼だし!あたしに出来ることは無いかもだけど、でも、やれるだけのことはやる!」
ゆりは真剣な眼差しで俺を見つめる。
「…そうこなくっちゃな。悪いがゆり、優勝するのは俺たちHクラスだ。楽しみにしてる。」
ゆりはゆりの決断をした。それなら俺は彼女に応えてやるのが友達で幼なじみであるゆりへの真摯な向き合い方なのではないか。
「うん!絶対負けないからね!こーくん!それじゃ、また後で!」
元気な表情を取り戻し、ゆりは走っていった。
◆◆◆
スタジアムは多くの生徒でいっぱいになっている。
客が最も入るスタジアムがこの闘技場スタジアムだ。比較的に人を集めやすいのは仕方がない。
特にこの決勝は学年4位の神代と学年6位の黒崎隼磨の一騎討ちとなる。ギャラリーも気になるだろう。
そうすると、他の連中はどうなのだろうか。凪沙や宮水、長谷などの結果も俺個人としては気になるところではある。
「それじゃ、皆気合い入れて優勝狙うよ!」
神代が今までの中でも一番のトーンで俺たちを盛り上げる。
「が、頑張りましょう。」
無野も主張は弱いが、気合が入っているのは伝わってくる。
「おう!リーダークリスタルは絶対俺が守ってみせる!八神は敵の頭を取ってきてくれ!」
秋城も気合十分だ。
「もちろんだ。Bクラスのリーダーが誰かは分からないが、黒崎以外である可能性だってある。その時は俺一人に任せてくれていい。」
個人的には黒崎がリーダーだと思っている。彼の瞬間移動なら緊急時も避難できるし、攻撃もできる。今までの試合も全部黒崎がリーダーだったことから、ほぼ確実だと言える。
だから俺たちは攻撃が俺一人、残り3人が守備で黒崎を待ち受ける形を取ることにした。
俺たちはスタジアムに入場するために入場ゲートの手前にスタンバイしていた。
「ちょっと八神!」
ふと誰かに声をかけられた。
「……凪沙か。」
腕を組んだ我が同僚、風早凪沙である。
「一応報告。私たちは優勝したから。まぁ京星とかと同じグループじゃなかったからだけど。」
「そうか、おめでとう。で、わざわざプレッシャーかけに来たのか?」
「いやあんたはついでだから。それより来夏!ちゃんと勝ってきてよ!応援してるから!」
どうやら凪沙は神代の応援に来ていたようだった。
「任せて凪沙。親友が優勝したんだもん、私だって絶対負けられない。」
神代にも確かな闘争心が滾っているようだ。
「そう上手くいくとは思うなよ。」
割って入ってきたのはBクラスだ。こいつが恐らく学年6位の黒崎隼磨。
「神代、天下七家だからっていい気になるなよ?この試験でお前を倒して、異能界が天下七家だけじゃ無いってことを知らしめてやる!」
黒崎はそう言い放ちコートへと歩き去っていった。
どうやら黒崎は天下七家にコンプレックスを持ってるようだな…。
こういう人間は少なくない。誰だって考えたことはあるだろう。「もしも自分に物凄い能力が宿っていたら」と、しかし大抵の人間、全体の99%は異能すらも持てない。さらにこの学園に入学できるほどのアウラを手に入れることができる人間など、その中のごく僅かだ。
俺たちは恵まれている。だが人間の欲望は更に上へ上へと高次元の欲求を求めていく。黒崎は恐らく、生まれつきに圧倒的破壊力を持った、成功が約束されている天下七家の人間を恨めしく思っているのだろう。
恨み言を放って去っていった黒崎を一瞥もせずに神代は俯いている。
「…だって…。」
「…私だって好きでこんな家に生まれた訳じゃ無い!」
二回戦のときのように神代が言葉を荒げる。
「来夏落ち着いて。誰も来夏のことを責めてるわけじゃないよ!」
すかさず凪沙がフォローに入る。
「黒崎の野郎、絶対ぶっ飛ばしてやる…。誰も私の気持ちなんて分からないんだよ!」
そう言い放ち、神代もコートへと向かっていった。
「…神代のやつ、大丈夫かよ。」
さすがの秋城も心配そうにしている。普段の淡々とした神代からは想像できない雰囲気だった。無理もない。
「そんじゃ第一グループの決勝始まるぞー。」
教師が俺たちもコートに入るように先導する。
俺たちは一抹の不安を胸にコートへと入っていくのだ。
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