第十話
「やっぱり3人じゃねぇか…。」
リーダーマークを腕に巻いた秋城はホッとした表情でそう漏らした。
どうやら本当に相手は3人らしい。秋城が聞いていたことはどうやら間違ってなかったようだな。
「それじゃ、Dクラス戦と同じように行くわよ。これは早めにケリがつけられそうね。」
神代もどこか拍子抜けしたような顔をしている。
そうこうしているうちに、試合開始のブザーが鳴った。
一回戦と同様、俺と神代がまず先行する。待ち受ける相手は…どうやら1人しかいないようだ。
神代の掌から電撃が迸る。敵に直撃した。
…しかし、敵は何事もなかったかのように神代に襲いかかる。
敵の拳を神代は避け、もう一度電撃を食らわせる。しかし、敵はケロっとした顔で神代の顔面を殴った。
「っきゃっ!」
神代が殴られたことに気付いた俺は先に行こうとした足を止める。
敵と距離を取った神代は殴られた頬を撫でる。
「…くっ、あいつに私の電撃が効かないわ。どうして?」
単に頑丈なだけではないらしい。明らかに全く電撃が効いていない。
「神代、こいつはお前には部が悪い。俺が抑えておくから先に行け。」
俺が持ち場をかわろうとすると、普段あまり変わらない神代の表情が一変して鬼気迫るものとなった。
「…なんで?それじゃあ私がこんな奴に負けたみたいじゃない!」
怒鳴り散らす神代はいつもとは全く雰囲気が異なる。
「くたばれぇぇぇ!」
先程よりも高威力の稲妻を今度は敵の頭上から降らせる。
しかし、敵はそれを食らっても何事もなかったかのように笑顔である。
止むなく俺は敵に斬りかかる。敵の胴目掛けてスパーダを打ち込もうとしたその瞬間、
敵が一瞬にして消えた。周りを見渡してもどこにも見当たらない。
「き、消えた?」
神代と俺は状況が把握できずに呆然とフィールドに立っていた。
一方そのころ、Hクラス自陣にはリーダーマークを巻いた秋城とその横でおどおどしている無野がいた。
「…はぁ。なんでリーダーなんて引き受けちまったかなぁ。俺も前線でバッチバチにやりたかったぜ…。」
秋城は別に無野に話しているわけではなく、独り言を言っているだけであった。
「………。」
「もうそろそろブザーが鳴る頃か?相手は3人なんだからあいつらなら秒殺だろ。」
「…まだっぽいです。」
無野がそう呟いた。
「あん?」
「.…私、視力すごくいいから見えるんです。神代さんと八神君、今1人の相手と2対1で戦ってます。」
無野のアウラは第三の眼。背中にもう一つ眼があるという少し特殊なアウラだ。その副効果として、視力が普通の人間の数倍になる。
「あいつら…、手こずってんじゃねぇか!さっさと決めやがれ!」
「…………。」
自分にすることは観察しかない。そう思っている無野は戦っている3人の奥、敵陣を観察していた。
するとおかしい。無野はあることに気がついた。
奥の敵陣にある2人の腕にはどちらにもリーダーマークが無かった。無論、先ほどから神代達と交戦している生徒もリーダーマークはしていない。
じゃあ誰がリーダーなのか…。
疑問に頭を悩ませていたその瞬間、無野が観察していた2人のうちの1人が一瞬にして消えた。
消えた?…瞬間移動?でもそんなアウラを持っている生徒はいなかったはず…。
いないリーダー、瞬間移動、…。
はっ!と無野が気が付いた瞬間、背中にあるもう一つの眼が一つの人影を感知した。
「秋城くん!うしろっ!」
無野が叫んだ瞬間、慌てて後ろを向いた秋城のクリスタル対して何者かが斬りかかった。運良く秋城の鉤爪で受け切れ、火花がちった。
「っ!危ねっ!」
秋城は斬りかかってきた相手を鉤爪で引っ掻く。へっぴり腰になった敵のクリスタルを鉤爪で破壊する。
「くそっ!!」
クリスタルを壊された敵はそう叫んで脱落者としてテレポートしていった。
「…いったい今のやつは何だったんだ…。」
愚痴りながらもしっかり周りを見ていた秋城、敵に背中を突かれるようなことはなかったはずだ。
しかし、敵は完全に秋城の裏をかいた。もし無野が知らせてくれなかったら易々と敵にリーダークリスタルを破壊されて敗北してしまっていただろう。
「無野、お前なんで敵が来るって分かった。」
「それは、私のアウラです。三つ目の眼が敵を確認できたんです…。」
「それよりっ!恐らく私たちは、秋城くんは騙されていたんだと思います。」
「は?てめぇどういうことだ。」
秋城は動転しているのか、無野に掴みかかる勢いだ。
「そ、そのリーダーがいないんです。敵にの3人の中に…」
「は?それじゃあルール違反じゃねぇか。」
「でもこの試合は元々4人チームですよね?」
「いやだから吉良がサボってるんだっ…って、まさか…。」
秋城は背筋がゾッとした。完全に試合開始の瞬間から頭から離れていた事実がよぎる。
「そう。いるんですよ!このフィールドのどこかに、リーダーマークを付けた吉良君が!」
同時刻、Fクラス陣にて、後衛に残った1人のFクラス生徒が、誰もいないばずの隣に向けて話しかけた。
「そろそろ仕留めたか?おい吉良、お前分かってんだろ。」
…すると、誰もいないばずの隣から声がする。
「可笑しいなぁ。仕留め損なってるねー。もしかしてあちらさん、気付いちゃったかなぁー?俺がいること。」
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