第七話
正式に白銀の守り人に入隊した翌日、いつも通り友達の少ない教室に入っていく。
すると、教室内に勝った顔があることに気がついた。
「え…。」
昨日、俺と一手合わせした彼女は俺の姿を見て、驚きながら声を漏らす。
「…よう。」
俺が彼女に挨拶すると、彼女はげんなりした顔で俺を睨む。
「…何であんたが私のクラスにいんのよ。」
「いや、ここ俺のクラスだから。お前も同じクラスだったんだな、凪沙。」
白銀の守り人の風早凪沙は、昨日会った時と同じ雰囲気で俺の前に立ちつくす。
「入学からもう一ヶ月経ってるのにあんたの存在に全く気がつかなかったわ。どんだけ影薄いのあんた…。」
「まぁ俺レベルとなると教室でも存在感を消してるんだ。暗躍者に必要なスキルだろ。」
まさに暗躍者は天職である。
「何バカなこと言ってんの。いいからそこどいて。学校ではあんまり私に話しかけないで。こんな変なやつと知り合いだなんて思われたくない。」
こいつ会って2日の男子になんてひどいことを言うんだ…。
「余計なお世話だ。邪魔して悪かったな。」
軽くカチンときて俺も凪沙を邪険に扱う。
「あれ、2人って知り合いだったの?」
急に後ろから声をかけられた。これまたクラスメイトの神代である。
「ら、来夏…。べ、別に私はこんなやつと友達でも知り合いでもなんでもない。勘違いしないで!」
いやいや、そんなに必死に否定しなくても…。
「でも、さっきまで2人で仲良さそうに話してたじゃん。」
神代は当たり前のように凪沙を追い込んでいく。
「もしかして2人、友達以上の関係だったり?」
悪びれもせず、神代の猛攻撃が凪沙を襲う。心なしか凪沙の顔が少し赤い。
「っ、は?なんかこいつが私の通り道邪魔したから一言言ってやっただけよ!」
どこぞの番長だお前は…。
「俺からも言っとく、俺と凪沙はそんな関係じゃないぞ。」
そういうと、凪沙はさらに顔を赤くして俺を睨んでくる。
「いやだって今も、凪沙のこと名前で呼んでたじゃん。初対面で名前呼びって八神君もなかなかやるね。」
あっ……。
どうやら俺は軽くやらかしてしまったようだ。
どうすればいいんだ…。これを認めてしまえば俺は初対面の女子を名前呼びする足軽男になってしまう。しかし、凪沙との関係を詳らかにするのはよくないだろう。
「悪いか?来夏。」
そう言った途端、クラスの視線が一気に俺に向き、凪沙の迫真のグーパンチが俺を襲った。
◆◆◆
いい天気の昼休み、俺は長谷と2人で昼食をとっていた。
「それにしても日吉、お前やるな!まさかクラスの人気女子2人を一気に名前呼びするなんてよ!」
長谷は朝の一件を見て、俺に興味津々らしい。
「あれは成り行き上ああなっただけだ。もう絶対、神代の名前は呼ばない。」
神代の名前を呼んだのに何故が凪沙に殴られるという不思議な事故であった。ストレス溜まってたのかなあいつ…。
「まぁでもあの2人、いつも一緒にいるよなぁ。確かに2人とも天下七家のお嬢様だし、分かり合えることでもあんのかなぁ…。」
天下七家、日本における異能師界を牽引する七つの名家のことだ。2人の神代、風早に加えて、冷泉、大海原、日下部、炎竜、獅子王の七つである。そこの家に生まれた第一子はその家特有のアウラを引き継ぐらしい。神代来夏は神代家の長女で超電撃を受け継いでいる。
凪沙は兄がいるため、風早家のアウラは受け継いでいないはずだ。
「でも、天下七家って一括りにされるのは凪沙は少なくとも嫌がってたけどな。」
「やっぱりお前、風早さんと付き合ってんの?」
なぜそういう結論に行き着く…。
「あら、八神君酷いですね。この前は私を食事に誘ってくれたのに…。」
唐突に右隣から横槍が入る。俺の上司オブ上司、宮水音羽である。
「え…。お前、それ本当なのか?」
長谷が鬼のような顔で俺を見てくる。
「いや、誤解だ。」
「そ、そうなんですか?あの時はあんなにも積極的に私にアプローチしていたのに…。あの時の言葉は嘘だったのですか?」
おっと話がてんこ盛りである。宮水は俺をからかっているのだろうか。
「て、てめぇ…」
長谷がぶるぶる震えている。やばいやばい。
「そうですよね。勝手に本気になった私がいけないんです…。ごめんなさい八神君…。」
宮水は眼をうるっとさせながら俺を崖っぷちに立たせてくる
「おい、俺はそんなこと一言も」
「…日吉、お前ってやつは…、ちょっと歯ぁ食いしばれぇ!」
「女の子の敵は!俺の敵ダァァァ!」
その瞬間俺は、本日2回目のグーパンチを見事にくらった。
諸事情により明日の更新はお休みさせていただきます。申し訳ございません。
P.S.こういう日常回もよいものです…




