第五話
それは、部屋と言うにはあまりにも酷すぎた。
ボッロボロの天井、あちらこちらで張られている蜘蛛の巣、雨漏り防止のバケツ。どれもあの白屋敷の外観からは予想できないレベルだった。
「ここが第八番隊の隊室じゃ。なにせ先週決まったばかりの部隊じゃからのう…。設備は無いに等しいのじゃ…。」
「それで、建て替え前から残ってたこのボロ部屋が私たちに割り当てられたってわけ。」
部屋の中にいた女性が振り向きざまにそう言った。
「私は雲部いろは、よろしくね!」
俺よりかはいくつか年上、18か19くらいだろうか、黒髪を結えた美人だった。
「よ、よろしくお願いします。」
美人のお姉さんに少し緊張してしまった。
「敬語じゃなくていいのよ?私も日吉君と同じ16歳だから。」
「へ?」
「ほんと酷いわよね。これで私と同い年だなんて。」
今度は明るい髪色の少女が愚痴っていた。こちらは雲部とは違い年相応のあどけない美少女である。
「彼女は風早凪沙。なんとあの天下七家の風早家の御令嬢じゃ。」
「ちょっとそういう説明の仕方はやめてよ隊長。天下七家を名乗れるのは私じゃなくて兄さんよ。」
あの風早家の御令嬢か、それなら相当の実力の持ち主なのだろう。
「すまん凪沙。むっ?源次はどこにいったのかのう?」
確かに、第八番隊は俺を入れて5人、つまり後1人がいるはずなのだが、今日は休みなのか?
「あー、源次ならもう帰ったわよ。いちいち待ってらんないんだとさ。」
「それは困ったのう。今日中に日吉に隊員と顔合わせしてもらいたかったのじゃが…。」
「ほんとあいつって自分勝手!いつになったらあの性格直んのよ!」
風早凪沙が地団駄を踏む。まだ創設されたばかりの部隊だ。隊員同士が上手くいっていなくても無理はない。
「それよりもぉ。もみちゃーん、今日もかわいいねぇ。」
なぜか雲部が紅葉谷隊長に抱きつく。
「や、やめるのじゃ!」
そして隊長はめっちゃ嫌がってる…。
確かに紅葉谷隊長は男にしてはやたら中性的で、かわいい…といえば可愛い。
じゃれあっている2人を他所に、俺は風早凪沙にも挨拶をする。
「八神日吉だ。その、今日からよろしくな、…風早さん。」
「凪沙でいいわよ。私、嫌いなのその苗字。」
苗字にコンプレックスでもあるのかもしれない。名前呼びは少し緊張するが、本人がいいと言っているのだからいいんだろう。
「そうか…、じゃあよろしく凪沙。」
ちゃんと言えた…。良かった…。
「てか八神、あんたこの時期に急に入ってくるなんて只者じゃないんでしょう?なんせ音羽の推薦だっていうしね。」
「いや、そんなことはない。ただアウラがこの第八番隊向きだっただけだ。」
謙遜などではない。実際にそうなのだ。
「ふぅん…。でも音羽に気に入られるっことは何かあるはずよ。あなたは一体何者?」
何かを疑われているのだろうか。
「おい凪沙、その辺にしておくのじゃ。日吉も初めてばかりで困惑してしまうじゃろう。」
紅葉谷隊長がフォローに入ってくれる。
俺が暗密聖騎士団の人間だと知っているのはごく一部の人間しかいないと以前宮水は言っていた。
この中だと紅葉谷隊長のみがそれを知らされているらしい。
「すまん、紅葉谷隊長。」
「そんなにかしこまらなくてもよい。気軽に名前で呼んでくれ、日吉。」
「そうか、ありがとう。樹蔭。」
「もみちゃん優しいー!もっと私にも優しくしてくれると嬉しいのにー。」
雲部は相変わらず樹蔭にちょっかいを出し続ける。
「八神、アウラはなんだっけ?確か…、感覚操作系だったっけ?」
「そうだ。感覚制御、例えば今、凪沙の聴覚とかを一時的に奪うこともできる。」
「へぇ、それは面白そうね。それじゃあこれから私と軽く手合わせしてみない?八神の実力も知りたいし。」
「凪沙、さっきから言っておろうが、日吉はまだ慣れないことも多い。あまり無理をさせてはならん。」
樹蔭は優しいな…。まるで天使である。
「…軽くなら構わない。」
俺もこの部隊の力量を知りたいしな。
「良いのか日吉?別に無理をせんでも…。」
「ああ、俺も病み上がりの体を軽く調節したいしな。」
皇太子とやり合ってから、まともにアウラも使っていない。試験前に体をほぐすのも良いだろう。
「そうこなくちゃ!じゃあ練習場に行きましょ。」
「私も見に行こうかな。日吉君の実力見てみたいし。」
「ワシも行く。」
結局、その場にいた全員が練習場へと向かうこととなった。
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