第四話
2日ぶりの白屋敷に到着した俺は、とりあえず門番に声を掛ける。
「宮水音羽に招待された八神日吉だ。」
「伺っております。しかし、総隊長殿は5時くらいにいらっしゃるとおっしゃっておりましたが、何かありましたか?」
もう午後6時を回っている。宮水からすると俺は1時間越えの大遅刻らしい。
「まぁちょっとな。その、総隊長ってやっぱり怖いのか?」
これから同僚になるであろう門番の彼に本音を伺ってみる。
「そんなことはないですよ。総隊長殿はいつも聡明で、我々のことを第一に考えてくださいます。」
聡明、という印象は誰からでも同じようだ。
「さぁ、総隊長殿がお待ちです。お進みください。」
門番の指示に従い、2日ぶりの真っ白にコーティングされている街には不釣り合いのお屋敷の中に俺は入っていった。
◆◆◆
「…………。」
総隊長室に沈黙が流れる。
白銀の守り人の総隊長、宮水音羽は自らの椅子に座り、俺をじっと見つめていた。
「夕方、とはいつまでのことなんでしょうね?」
「さぁ、どうなんだろうな?」
「質問に質問で返さないでください、と何度言ったら分かるのですか。」
完全に怒っている。まぁ宮水からしたら俺は1時間以上の遅刻だ。無理もない。
「夕方って大体日が沈みかけるまで、この季節でいったら5時まででしょう。ですが八神君、今何時ですか?」
「……6時半です……。」
この部屋にたどり着いたときには完全に日は沈んでしまっていた。
「遅刻したことは謝る。だが、こっちも試験対策で色々あったんだ。今回は許してくれ。」
お陰様で2人の女子の連絡先を入手した。
「まぁいいでしょう。これからは遅刻しないようにしてくださいね。」
笑顔で宮水は俺に笑いかける。だから目が笑ってないって。
「それで、今日は俺に何の用だ。」
とっとと本題を振れば早く帰れるだろう。そんな安直な考えからだ。
「何を言っているのですか?貴方はたった今から白銀の守り人の一員です。組織についてのことに決まっているでしょう。」
「で、何をすればいい。」
どうせ面倒な仕事が舞い込んでくるに違いない。そんなことはもう慣れっこである。
「いえ、今回の試験に関しては特に任務はありません。全力で取り組むも、手を抜くのも貴方の自由ですよ。」
「今日は八神君、貴方の所属と当面の任務について簡単な説明を私からさせていただきます。」
なるほど、確かにこの組織にはいくつか部隊があるらしいしな。出来れば楽な部隊を所望したいものである。
「八神日吉。貴方を当組織の第八番隊に配属します。八番隊の隊長は紅葉谷樹蔭です。紅葉谷君どうぞ。」
八番隊?確か、白銀の守り人は全部で七番隊までしかないんじゃないか?
ドアが開き、1人の少年が姿を現した。俺よりも一回り小さく、中学生のような美少年だ。
「ただ今紹介に預かった。第八番隊の隊長を任せられている紅葉谷樹蔭じゃ。これからよろしく頼むぞ。」
「おい、八番隊なんて聞いてないぞ。」
「それはそのはずです。だって八番隊はつい先週、創設が決まったばかりの部隊ですから。」
宮水は嬉しそうに微笑む。つい先週って、そんな急造の部隊なんて大丈夫なのだろうか。
「ワシら八番隊は新たに作られた暗密任務や他の部隊のサポートを任せられることになった少数精鋭部隊じゃ。其方の他にはワシを含めて4人で計5人の部隊となる。」
餅は餅屋か、結局ここでも俺は暗密任務を行う部隊に配属されたらしい。
「そういうことです。八神君を期待しての人選ですので、精一杯頑張ってください。」
「サポートってのは何をすればいいんだ?」
「それは具体的な任務が決まってからですね。指示がない場合はかえって楽な部隊かもしれませんよ?」
それは大いに結構である。楽なのに越したことはない。
「八神君は普段、このまま学校でもしものことがないよう、私や他の隊員とともに皇太子様をお守りしてくれていればそれで構いません。学校生活も楽しんでくれて良いですよ?今日みたいに。」
「一々とげを刺すなよ…。」
「後は紅葉谷君にお任せします。よろしくお願いします。」
「了解なのじゃ。さぁ日吉、他のメンバーを紹介する。第八番隊の部屋があるからワシに付いてくるのじゃ。」
総隊長室から脱出、もとい退出し、俺は紅葉谷隊長の後に続いた。
「ここじゃ。」
紅葉谷が止まった先にはボロボロのドアがあった。
木造のドアでワンパンで突き破れそうである。何箇所か虫食ってるし。
…まさか、ここが俺の普段の職場か…?
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