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少女は心当たりがあった。
華羅臨海工場跡地は夜になると業魔が出る。
海の生物に憑り付いた業魔が、夜になると海から出てくる。
昼間は海の底に身を隠している為、発見が難しいものだと聞いたことがあった。
(ちょっと見に行ってみるか)
夕方であれば、まだ太陽の日は出ている。
そう思い、学校が終わってから現場へ向かった。
少女は実家が神社ゆえに、幼い頃から闇の存在についての知識を得ていた。
その知識さえあれば最低限、自分の身は守れるだろう―と過信してしまった。
「ん~。朧気にしか視えないな」
天気が悪いせいか、海を見渡してもよく視えない。
あまり海辺に近付かないように、周囲を歩いていろいろな所を視たが、僅かな気配しか感じらない。
「何かはいるんだが……視えにくい。もう限界だな。後で父様に言ってみるか」
華羅皇神社に父が相談しに行けば、何かが変わるかもしれない。
見に来たことは言わないで、学校で噂を聞いたことだけ話そう。
そう決めて海に背を向けた―瞬間、グイッと右足を引かれた。
「えっ?」
足元に視線を向け、言葉を失う。
見た目は赤いタコの足、だが吸盤は無く、代わりに銀色の棘があった。
ソレが少女の右足首に巻きついていて、棘が刺さり、血が静かに流れ始めていた。
「あっ…ああっ……!」
震え出す体で海へと視線を向ける。
暗い海の中に潜む、二つの赤い光。
ボンヤリと浮かぶ異形の赤き眼を見たが最後、少女の体は力を失った。
どうやら針には毒があったらしい。
全身がマヒしてしまい、声も出せず、指一本動かない。
少女の体は空中に引き上げられ、そしてコンクリートの地面に背中から叩き付けられる。
喉から出たのは息と血だった。
タコの足は離れ、そのまま海の中へ戻った。
少女は痛みも感じないまま、死を向かえるのを感じていた。
時刻は夕方でも今日は天気が悪く、陽の光は降り注がない。
業魔はこういう状況ならば、少しは動けるらしい。
(このこと、もっと早く知っていればな……)
目の前が暗くなり、少女は意識を手放した。