出会い 肆
りん。と響いた調べから美しさが損なわれたのは、それからまもなくのことだった。
りん。りん。と優しくうち鳴らされていた鈴の音は音の暴力と化して少女を襲った。
鈴と鈴を叩きつけ自壊するかのようなけたたましさが壁の中を反響する。
少女はできるだけ身を縮めて耳を塞ぐことしか出来ない。
しかし、そんなもので防ぎきれる音ではない。
悲鳴。みたいだ。
視界がチカチカと瞬く。
一体、何が起こったというのか。
どうやら、意識を落としていたようだ。
少女は怯えた様子でノロノロと身を起こす。
繋がれた石洞はいつの間にか静謐を取り戻していた。
まさか、静寂に息をつくことがあるとは。
少女は自嘲ぎみに頬をあげる。
これで楽しみもなくなったというのか。
ケモノに食い殺されるのが先か。
餓死が先か。
あぁ、もし仮に神なんてものが存在するのなら、もう限界だ。
さっさと。
さっさと。
私を殺めてくれ。
微かでも喜びを見つけてしまったんだ。
その喜びももう失われた。
もう。耐えられないんだよ。
「にえ。は。ここにいる。」
大した期待も持たずに呟いた言葉に応えるものがあった。
りん。
微かに響いた音に少女はびくりと身を縮ませた。
それほどまでに先程までの音は少女の心を蝕んでいた。
けれど、調べが変調することは無かった。
りん。りん。と微かになり続けている。
代わりとでも言うように、石洞の中の空気が大きく凪いで少女の髪をまきあげる。
視界を髪が塞いだのは、ほんの一瞬のはずだった。
それなのに。
それなのに。
少女の眼前に、男が立っていた。
見たことも無い男だった。
篠を突くほと背が高い。
腕や足は弱々しくは見えないのにすらりと細い。
光を発しているような髪は黒ではなかった。
眼も同じく、白銀。
はっきりとした目鼻だち。
ばさり。とこれまた見覚えもない着物が男の背に落ちる。
男は石壁に繋がれた少女を目で捉えると瞬間。とても不愉快そうに眉根を寄せた。
少女はそれを目を丸めて見つめることしか出来ない。
口を開く前に、耳元でカンッと軽い音がした。
べしゃりと少女は重力にしたがい倒れ伏す。
痺れ切った腕に血が流れびりびりと痛む。
何が、起こったのか確認するまでもなかった。
少女を繋いでいた鎖が唐突に断ち切られたのだ。
「邪魔だ。……去ね」
低い声が有無を言わさぬ調子で言う。
この場でこの声に逆らえるものなど存在しないだろう。
「……いいえ。」
けれど、少女は倒れ伏したままで口を開いた。
去れと言われたところで、少女に行く宛などあるはずもない。
「娘。名は」
少女は不敬にも顔をあげる。
そしてただ一つの持ち物を差し出す。
「にえ。」