出会い 参
少女がいた村は山々に閉ざされた村だった。
酷く排他的で、余所者をそれこそ物の怪でも見るように嫌っていた。
どこにも繋がらない
先のない村だった。
村から出るにも訪れるにも周囲に広がる山々を越えて行かねばならなかったため、村民は、その小さな村の中だけで暮らしていたのである。
遠い都の話など天上の世界のように扱っていたのだから、それこそ、この村に訪れた役人はさぞ驚いたことだろう。
それは遥か遠い出来事であったと少女は記憶している。
田畑を作り、家畜を飼育し、村民は自給自足の生活を送り続けていた。
細々と減りゆく村民。
このままでは村が廃れることは最早必然と言えた。
されど、それは天命を全うしてからであると村民は誰も疑ってはいなかった。それほどまでに自身の行動を善なるものと疑っていなかったのだ。
閉ざされた空間の中でそこそこ幸福に慎ましい生活を送っていた彼らの中でも、少女は異質な存在だった。
少女はその村で、ただ「にえ」と呼ばれていた。
ほかの名が存在するのか、生まれ落ちてから、名が与えられていたのかは、少女の知るところではない。
ただ、少女が物心ついた時には既に両親は存在していなかっただけで。
少女の記憶は納屋の薄暗い壁から始まる。
雑事を言いつけられた時以外はそこに閉じ込められていたから他のことを思い出せない
あの村で、少女は最も多くの時間をその納屋で過ごした。
食事は多い時には日に二度、少ない時は三日に一度。
幸い、水だけは裏手の井戸が使えてため餓死には至らなかったが、その村で少女を庇い立てる大人は存在していなかった。
それでも、外に出ることは可能ではあった。
常に見張りがついている訳では無いのだ。
ただ、小さな村では一歩納屋の外に出ると誰かしらの目に遭遇するだけのことで。
親も居らず、村民に疎まれた彼女は暴行を受けることはあっても、殺されることも無く、ただ、納屋に閉じこめられたまま、ずるずると生かされた。
十六を数えた年、村に奇病が蔓延するまでは
にえとは生贄の、にえ。
名は体を表すという言葉の通り、山を神域と立ち入ることすらもしなかった彼らは、もしもの時に山の神へ差し出すためだけに、厄介な荷物を生かしておいただけだったのだ。
そして、それをにえは識っていたのである。