1ー異世界転生は突然に 8
散々叫んで頭がスッキリした陸は、さっそく次の行動を開始する。最早、悩んだり後悔するのは時間の無駄でしかないのだ。
当初の予定なら、この場所で一泊二泊して自分自身の身体の変化と取得したスキルのチェックを軽く済ませてから、近くの町に行く予定だったんだけどな。
そんな事にも思いを馳せながら、陸は服もしくは服の代わりに出来るものを製作する為に、この場所に拠点を作る事にした。
えっ?何故一番欲しい服じゃなくて、拠点の製作からかって?いや、僕はまだ服作るスキル持ってないんだよ、順序良くやっていかないと適当に済ませられる食糧はともかく、加工品は無理でしょ。
その簡易的な計画としては…
1・スキルのチェック。
【簡単能力取得】のテスト。このスキルがまともに機能して、簡単にスキルを取得出来ない限り、服や拠点どころか数日後の生存すらあやしい。
あれ?もしかすると…いや、もしかしなくても僕の生死って【簡単能力取得】頼みにしすぎな…ような?まぁ、これも想定通りではあるのだけど、状況や前提条件が色々と変わって来ているので若干の不安はあるかも知れない。
2・生きる為に食料の確保。
神々の言う通りなら、この場所で飲料や食料で困る事はないはずなのだ。ただし、転移場所のズレの件もあるので一概には信用出来ないのだが…。それについては一端置いておくとして、目の前に有る大きな水溜まりには魚もいるだろう。森の中には食べられる木の実も有るはすだ。それを確保すれば良いだけだ。効率的に考えるなら、1と平行して行う事も可能だろう。
3・数日間は住めるしっかりとした拠点を作る。
これは森の樹々を上手く使えば、簡易的な物を作るのは簡単だ。子供が作る秘密基地程度の強度でも良いのだから、でも出来る事ならその先にある安眠は目指したい。
2・3で生活の基板を築いてやっと、この計画の真の目的である…
4・道具の作成
…を経て、
5・服の作成。
…が可能となる。
あれ?この計画だと、この森から出れるのって、かなり先になりそうな…気のせいかな?さすがに気のせいだよね。
「さぁて、やりますか」
陸はパンタスマグリアを手に取り、木の枝を伐採する為に斧の形を想像する。
陸のその想いに答えたかのように小さな手斧のような形状をとるパンタスマグリア。その流れるような変化は、まるで武器であるパンタスマグリア自身に意志が有るかのように。
「やっぱり便利だな」
自分が思った通りの形になる、これほど便利な事が有るだろうか?これに比べると攻撃力なんて二の次だ。
陸は手頃な木の枝を掴み次々と伐採し始めた。植物に対して【否殺】の効果は発揮しないのか、草でも刈るかのようにスパスパと木の枝は切れていく。正確に言えば、攻撃力のないパンタスマグリアは切っているのではなく、その強度により綺麗に真っ二つに折っているだけなのだが、あまりに綺麗な切り口の為、切っているのと大差がなかった。木を切った経験のない陸が勘違いするのも無理はないだろう。
樹々に対する【否殺】の効果についても、陸本人が木の枝を切り落とすぐらいでは木は死なないと言う事を知らないだけだ。もっと言わせて貰うならば、木を切り倒しても根が張り続けている限りは木は死んでいない。木を切り倒した後の切り株から新しく木の枝が延びていくのも珍しくない。案外、自然の力と言うのは強大にして壮大なのだ。
ー【斧】【伐採】をGETしましたー
どこからともなく聞こえてくる、機械的とまでは言わないが無機質な音声。
「なんだ?【斧】【伐採】?GET?えっ、今の数回で?」
スキルを簡単に取得する為に、【簡単能力取得】に期待していたのは事実だが、こんなに楽な取得で良いのだろうか?斧を数回振るっただけなんだよ。それで二つのスキル?収支が合わない気がするんだけど…。
陸はステータスを表示して、恐る恐る内容を確認した。そこには驚くべき事に新しく三つのスキルが表示されている。ご丁寧な事にNEWのマーク付きで。一つは【斧】、もう一つは【伐採】、最後は取得した記憶が全くない【水魔法】…しかも取得した順番としては、この【水魔法】が一番早い。
一体いつ取得したんだろうか?転移する前の魔法スキルは【空間魔法】と【付与魔法】だけだ。これには神々も証人になってくれるだろう。
…となると、取得したのは異世界に転移してから【斧】と【伐採】を取得する間の確率が高い。そもそも転移後で水に触れた事すら少ない。触れたのは転移場所が池の中だった為に、足元をびちゃびちゃに濡らしながら陸に向かって数十歩歩いた時くらいだぞ。もしかして、その時か?それって【斧】や【伐採】よりも簡単なんですけど…
でもまぁ、取得したものは仕方がないので、陸は【斧】と【伐採】と【水魔法】スキルをアクティベートさせる。
このアクティベートと言うのは、転移特典を選んでいる時に、ギルおじいちゃんから教えられた機能の一つだ。
今取得した【斧】や【水魔法】等はアクティブスキルと言い、効果を発揮するか、しないかを自身のステータスで選ぶ事が可能となっている。ちなみに、発揮するを選ぶ事をアクティベート化と言い、発揮させないを選ぶ事を非アクティベートと言うらしい。個人個人の意思で選択出来ると言うのは素晴らしいの一言に尽きる。
逆に僕が最初から持っていた?(ただし、僕のスキルの場合は持っていたと言うのが正しい言い方かは分からないのだが)【不運・神】や【底抜けのお人好し】等はどんな状態でも常に効果を発揮するパッシブスキルと言うそうだ。マイナス効果のスキルの場合は有るだけで迷惑としか言えない。
「一応、これで【水魔法】も使えるはずだけど…全く使える気がしないな」
それもそのはずで、陸は一般的とは言えない方法で魔法スキルを取得している。そんな陸はスキルを取得しただけで魔法の効果は勿論、その詠唱や魔法の名前すら分からないがゆえのレベル0。
なので、魔法を使えない。いくら【簡単能力取得】と言えど、そうそう世の中は甘くないのだ。
だが、今ので陸は一つ思い出した。
「《パワーアップ》」
そう、陸が取得している【付与魔法】の一つ《パワーアップ》。単純に誰かの力を上げるだけの魔法。今回の対象は陸自身。少しだけ暖かい空気に包まれた気がする陸。
「これが魔法か…でも何か変わったのか?」
陸は初魔法にテンションが上がる反面、効果が有ったのか?無かったのか?自身でも分からないと言う、あまりにも地味な魔法の効果に今一つ喜べなかった。
でも、それは仕方がない。《パワーアップ》の効果は確実に陸に影響を出しているのだが、パンタスマグリアの断ち味…切れ味が良すぎる為に、その違いが分からなかったのだから。
その後も陸は、パンタスマグリアを様々な形の武器に変えながら木の枝や木の幹等を木に関する素材を集めた。
異世界転生一日目が終わる頃には、伐採した木で出来た軽い雨風を防げる子供の秘密基地クラスの拠点(たたし、柔らかい葉っぱのベッド付き)と葉っぱで作った原始的なこしみの?のようなもので股間だけは隠せるようになった。そして、寝る前にステータスで様々な武器スキルを確認している時に、この世界での長い長い付き合いとなるそれを見付けた。
ステータスのオプションでメモリー機能…通称日記。それを見付けた時、陸は地球で全く書くことのなかった日記を今日から書く事に決めた。
異世界転生日記1 晴れ
Welcome to 異世界
今日から僕はここで生きる。




