1ー異世界転生は突然に 5
「気を取り直して、続けるよ。陸くんの種族である人属は最大で百の恩恵をその身に宿して誕生する事が出来るんだ。例えばユニークスキルなら一つで百。エクストラスキルなら二つで百。レアスキルなら五つで百、ノーマルスキルは十個で百と言う具合にね。しかも、陸くんはすでにマイナス二百分の恩恵を宿しているから、その分と合わせて三百までの恩恵を得られる。これは本当に凄い事なんだよね、アイン」
「そうだね、カイン。しかも、その恩恵の中にはスキル以外にも伝説級の装備品や神話級の使い魔も選べる。まさに至れり尽くせりだね。ギル、リストを表示して」
ギルおじいちゃんは、アインの言葉よりも早く、宙に浮かぶ大きな水晶玉とは別の三十センチほどの小さな水晶を造り出していた。そこには、ずら~っと並ぶスキルや武器や使い魔等、様々なリストが表示されている。画面のスクロールが数回動かすだけでは追い付かないほどに…
「さて、陸くん。後でと言いながら途中で質問を挟んでしまったけど、何か有るかな?」
両手を広げ、どんな質問でもウェルカムと言った態度をカインは見せる。その背後には同じポーズをとるアインの姿も見受けられた。
「今は特に…ですね。その都度でも構いませんか?」
「勿論大丈夫だよね、カイン」
「そうだね、アイン。何か有ったら、ギルを呼んでくれれば良いからね」
「貴方、時間は充分有るんだから、じっくりと考えて選びなさいよ」
何故か?一番高齢?のギルおじいちゃんを残して、どこから取り出したテーブルや椅子、ティーセットでティータイムへと移る他の三人の神々。
「はい、ありがとうございます」
その三人と側で控えてくれるギルおじいちゃんに対して、深く頭を下げる陸だった。
「ふっ~~~」
色々とややこしい状況みたいだけど、結果として美空は無事だったし、不謹慎だけど家族が僕の死を悲しんでくれたのが嬉しかったな。その残された家族の未来も確認出来た。それに、僕のやり残した事もお願い出来た。はっきり言って、マイナス状態の僕がいるよりも周りの人達は幸せかも知れないよな。
う~ん…それにしても確かに思い返せば、本当に多くのトラブルに巻き込まれていた気がするよ。
・野良犬に追われ、人にぶつかり、ぶつかった相手が骨折。
・体育祭での借り物競争の借り物が校長先生のカツラ。
・大学入試日に大雪で大遅刻した後、会場で火災騒ぎの後、後日一からやり直し。
・高速道路での十台に及ぶ玉突き事故。
・何かしらの犯罪を疑われる事、多数。
…etc
よくよく考えれば、よく二十年近くも生きてこれた(結果として、死んでいる)と思うし、よく歪んだ成長をしなかったよな。そして、こんなハードモードで、たった二十年にも満たない短い僕の人生だったけど僕は幸せでした。本当に四人の両親には感謝しかないです。ありがとうございました。
それでだ。じっくりと特典を選べって言われたけど、種類が多過ぎて簡単に選べない…となると、出来る事は取捨選択か。幸いな事に全てに最低限の説明は書いてあるからな。基本的な方針だけでも決めれば、必要なものも意外と早く決められるか?となると、まずは…
「すいません、ギルバー…」
「ギル…」
「ほぇっ?」
「ギルおじいちゃんじゃ」
「か、重ね重ねすいません、ギルおじいちゃん。僕の天職って分かりますか?」
陸の質問を遮ってでも、あくまでも自分の主張を通そうとするギルバートこと、ギルおじいちゃん。あまりの迫力についに陸は折れてしまった。
「すまん、残念ながらお主の天職はわしら神にも分からんかったのじゃ。それもこれも魂の欠片に神の力の残滓の影響じゃろうて…しかしじゃ、天職に対応するようなスキルを使えば、判明する事もある」
「そうですか…それでは仕方がありませんね」
申し訳なさそうなギルおじいちゃんを対して、もう一度頭を下げる。
いやいやいや、これは仕方なくない、全然仕方なくないよ。神様が分からない天職って何ですか?説明を求めます。
態度には出さないが、内心は焦りまくりの陸。
僕の持つマイナス面のスキルのせいでスローライフと言う選択肢が許されない状況で、異世界で何をするかを決めていない場合、この先何を決めるにしても最初が一番肝心だと思う。それにも関わらず、この状況だと選択肢の幅?や可能性?が無限大なんだよ。神様が分からないと言う天職を、対応するスキルを使えば判明する事もある?本気で思ってますか?
仮に、そうだったとしても選択を間違えた時は本気で困るんですよ。
別の基本的な方針を立るとしても…武器は何を使えば、自分に合うのが良いか分からないし、仮に使い魔を選ぶとしても僕の弱点を補う相棒が欲しい。
…となると、今、僕の手元に有るのはマイナス面の強いスキルと有り余る時間だけか。あ~、もう本当に、どうしたものかね。
~三日後~
「ねぇ、アイン」
「うん。言いたい事は分かるよ、カイン。ちょっと時間が掛かりすぎだよね」
言葉だけを聞けば、若干の焦りを感じるが現実は違う。すでに丸一日を費やした優雅なティータイムにもあき、未知のボードゲームで遊ぶカインとアインの双子神。ややカイン優勢のこの状況も、二人共が暇を潰しを優先して遊んでいるだけなので、ゲームの勝敗には全く興味がない。例えるならば、麻雀で役満や珍しい役や美しい役を狙う心境に近いものが有るだろう。
「二人とも落ち着きすぎです。陸さんが心配じゃないんですか?」
その様子をやきもきしながら伺うルミナ。
「だって、実際に心配はしてないからね、カイン」
「そうだね、アイン。ギルもついてるし、心配する必要はないよね。多分、もうそろそろだよ、多分ね。そもそもじっくりと選べと言ったのはルミナだよ」
「確かに言いましたけど、それとこれは別ですわ」
何と何が別なのか、全く分からなかったアインとカインだが、それ以上の追求は止めた。
それでも、まだ陸の考察は終わらない。
~さらに待つこと二日~
「お、終わった~」
陸の心の叫びはやがて言葉となり、この広い空間に広がって行った。そして、それはこの空間や神々との別れの時間が迫っている事を示していた。
「お疲れ様だよね、アイン」
その言葉を聞き、再び集まってきた神様方。
「本当にそうだね、カイン。悠久の時を生きる僕達も流石に待ちくたびれちゃったよ」
その言葉は、冗談半分の本気半分と言った感じか、若干疲れて老けて見える。
元の見た目が若いアインにカイン、それに美の女神を自称していたルミナにとっては大した事ではなさそうだが、御老人かつ陸に付き合ってずっと起きていたギルおじいちゃんにとっては切実な問題だったのかも知れない。まぁ、この空間にも神々にも睡眠と言う概念はないのだが、その事を陸が知る由もなかった。
「何か、色々とすみません…」
「それで、欲しい特典は決まったんですの?」
「はい。これらを頂きたいと思います」
陸はリストの中から吟味に吟味を重ねた六個のスキルと一つの武器と使い魔を見せる。ただし、神鳥だけはまだ卵のままだ。
【能力演算】 AAA
【簡単能力取得】 AAA
【空間魔法・レベル1】 B
【異語変換】 D
【付与魔法・レベル1】 D
【礼儀作法】 E
パンタスマグリア 攻撃力0 ※スキルランクA相当
神鳥ラックバードの卵 ※スキルランクSS相当
「えっ、えっ?ちょっと待ちなさいよ。神獣である神鳥やAAAランクスキル二つ…百歩譲ってBランクスキルは分かりますけど、EやDを選んだり、それに一番は攻撃力0のパンタスマグリアって何なんですの?そもそも、そのスキル構成では生きていくの難しいですわ。私は貴方に対して、説明を求めます」




