1ー異世界転生は突然に 3
「えっ?」
カインに言われた事が理解出来ず、陸は無意識に首を傾げた。
「カイン、そんな意地の悪い言い方をしないの。貴方が数百回の転生を繰り返した地球がある世界…つまり、貴方が元神だった世界と私達が管理している、ここリヴァースが別世界なのはさすがに理解出来ましたよね?」
何かを考えるようにルミナの話に耳を傾ける事に集中していて、他人の話に対して珍しく相槌を怠たる陸。
「ま、まず、そこを理解しなさい。全てはそこからです」
ルミナはその態度を分かっていないものと勘違いし、少し呆れた表情を見せ頬を紅く染めてそっぽを向いた。
「そう言うルミナも大層意地悪な物言いなのじゃ。賢い陸はそこはすでに理解しておるよ。陸よ、簡潔にまとめて言うならばじゃ、全ての異世界を束ねている過去にお主に罰を下した、神々の中でも最も神格の高い最上級神による輪廻転生呪縛の中で唯一出来た隙…千回目の転生時に、お主の魂自体を数多ある異世界の中から、お主が希望するであろうと予想された我らリヴァースの神々の力で掠め取ったと言う事じゃ。これもまた神々の多少の裏技ではあるので、これまで数百と繰り返してきたみたいに赤子からの転生ではなく、今の記憶を持ったまま、この世界での成人年齢十八からになるがの。今のお主よりも二年ほど若返った形となるじゃが、それも所詮は誤差の範囲じゃろて」
年の功だろうか、誰よりも簡潔に分かりやすく説明してくれたギルおじいちゃん。確かに二歳ほどなら、ほとんど変わらないし変わっていたとしても自覚出来ないくらい些細な差だろう。
だが、そんな異世界転生にまつわる内容よりも、陸は…
「あの~、すみません。過去の僕は一体全体何をしでかして、全ての異世界を束ねる最上級神様を怒らせたのでしょうか?」
…の事が気になった。神だった頃の記憶がなく、普通の人間として過ごしてきた陸にとっては無理もない話である。
「なぁに、一般神からすれば、大した事でもないのじゃ。少し神々のルールを破り、お主の管理していた地球の人類に火や道具、文字の使い方を与えただけなのじゃ。それが、最上級神の予定よりも千年単位で早かったと言うだけじゃ。それも必要に迫られての事態に輪をかけて、お主自身の尊厳にも関わってくるものじゃ、他の神にも責められぬ。最上級神以外はの。それだけ切羽詰まっておった状況だったのじゃ。仮にわしらが同じ立場でもそうしたじゃろう。ただ運の悪い事に、お主自身が世界の壁を越えて多くの神々に愛され尊敬されていた事が、その時の最上級神の癪に触ったと言うのもあるじゃろう。最上級神はお主みたいにモテんからの」
うんうんと頷きながら、ギルおじいちゃんの話に同意する他の三人の神。特に幼い双子神達が腕を組ながら頷く姿は妙に空気を和ませている。
今のギルおじいちゃんの話で陸は二つの事に驚いていた。一つは、自分自身の前世が本で読んだ神話に出てくるような話に関わっていたと言う事。もう一つが、最上級神ともあろう者の心が妙に狭いと言う事。陸にとって、後者の衝撃は特に計り知れないものがあった。
「これで大体の事は理解出来たではずたよね、カイン」
「そうだね、アイン。ギルの説明は誰かのと違って、非常に分かりやすかったよね」
まるで漫才師かと思わせるような、ぴったりと息の合った掛け合いで、陸の代わりに相槌を打つアインとカイン。その中でもルミナを弄る事も忘れていない。
「カイン、お黙りなさい。私の説明も充分に分かりやすかったですわ。理解しない陸が悪いのです」
だが、それも弄られた側のルミナからすれば全く面白くない話となる。ある意味で自業自得かも知れないが…。
いや、そもそもルミナの話では、話の触りの部分しかされておらず、肝心な部分は全く出てなかったと不意に言いそうになった陸だが、寸前のところでその突っ込みを飲み込んだ。
多分、その選択は正解だろう。
「では続けるぞ、次はリヴァースの事じゃ。お主が望んだエルフや獣人族、ドラゴンや巨人等もおるだけで、自然環境的にはお主のおった世界との違いは少ない、似たような植物や食べ物も有るのじゃ。その面ではすぐにでも馴染めるじゃろう。その反面、地球とは違い機械の文明はほとんど発達しておらんのも事実じゃ。地球の文明に慣れたお主には、ちと辛いかも知れんが、それを補う形でお主も希望しておった魔法やスキルと呼ばれる特殊な技術が発達しておる。これについては理屈を聞くよりも自ら試してみろじゃな。他にも転移者や転生者がいなかった訳ではないからの。まぁ、それはわしらのリヴァースだけに限った話ではないがの」
さも、神々の常識的には当たり前だと言わんばかりのテンションでさりげなくスルーされかけた一つの言葉。だが、陸にとってはスルー出来るものではない。
「他にも異世界転生者や転移者がいるのですか?」
「おるな、カインが最初に言っておったが、リヴァースは疲れきった魂の再生の地でも有るのじゃ。中には神々の失敗で亡くなり、リヴァースで新たな人生を得た者もおる。まぁ、これは至極稀な話じゃ。ふっはっはっ」
また、会話の中で気になるフレーズ「神々の失敗」が出てきて再び目を見開いた陸だが、これ以上話の腰を折るのを躊躇い、聞き流す事にした。…と言うよりも、その話をこれ以上掘り下げて聞くのが陸には怖かっただけだ。
つまり、これが本当の触らぬ神に祟りなし。
「続けていくよ。次はリヴァースに転生する特典についてだったね、アイン」
「そうだね、カイン。これは僕の担当だ。それと、ここからは僕を先生と呼ぶように。じゃあ、まずは陸くん。転生特典を説明する前に、これを見てくれるかな?」
この時、アインはすでにどこからか取り出した眼鏡らしきものをかけていた。
ギルおじいちゃんが操る大きな水晶玉ではなく、アインの指差す方向に映画のスクリーンのような物が浮かび上がる。
そこには陸の名前等が知るされていた。