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1ー異世界転生は突然に 1

「う、うぅん。ここはどこだ?」


 そこは見渡す限り真っ白な世界が続いている何もない世界。ただし、嫌な気は全くしない。むしろ、どこか懐かしさや心地よさすら感じられる。


 その場所に何も知らない一人の大学生…天海(あまみ) (りく)は立っていた。周囲を見渡しても陸以外の存在は何も見当たらない。


「ようやくお目覚めかのう?」


「誰?」

 陸はその声に反応し、声のする方へと振り返った。全く聞き覚えのない声。だが陸はその声が不思議と怖くはなかった。


 振り返った先には磨きあげられた禿げ頭と長い白髭を蓄えた一人の御老人がいた。


「わしか?わしはギルバートじゃ。ギルとでも呼んでくれればよい。なんなら気軽にギルおじいちゃんでもよい」


「いや、それは…」

 ここがどこなのか?ギルバートと名乗ったこの御老人が誰なのか何も知らないながらも陸は、この御老人をギルおじいちゃん等と軽々しく呼ぶ事を躊躇(とまど)った。それくらいの神々しさが、この御老人にはあったのだ。


「それで、お主は今の状況が分かっておるのかのう?」


 御老人にそう問われ、少し記憶を遡るように過去を思い出す陸。そして、気付いた。己の記憶は、とある場所からの先がなく終わっている事に(・・・・・・・・)…。


 その事を理解した陸は、さらに気が付いた。目の前の御老人の存在(正体)と自分がいるこの場所の可能性に…。


「あの~、誠に言い難い事ですが…もしかしても、もしかしなくても僕は死にましたでしょうか?」

 そう出来るだけ明るく敬語で述べながらも、自らの死を半ば確信した陸の表情は一際暗くなっていく。


「うむ、半分は正解で、もう半分は不正解じゃ」

 答え(正解)とも答えじゃない(不正解)とも言えない答えを出す御老人。


「…どう言う意味でしょうか?」

 (なお)も問い詰めるように詰め寄る陸。


 (せい)に対する微かな可能性が見えたのか、陸の表情に(わず)かばかりの精気が戻っている。


「今のお主には自覚も記憶もない事で今さら話しても仕方がない事じゃが、お主は特異な元に生まれ数百と言う輪廻を転生し(繰り返し)、今生の終わりを迎えたのじゃ。唯一の救いは、此度(こたび)のお主の人生は、これまでのお主の(せい)に比べて遥かに長くマシなものじゃった事か」


「今生の終わりを迎えた…やはり、僕は死んだと言う事ですね」

 最後に付け加えられた言葉に幾分か突っ込みたい事を感じた陸だったが、御老人の言いたい事の肝心な部分だけは正確に陸へと伝わった。それは死、人としての終焉(終わり)を。


「簡単に言えばそうじゃ。じゃが、わしは先ほど半分は不正解と言ったはずじゃ。そう答えを焦るでない。お主は次で一千回目の輪廻転生を迎える。人の身においても、一千回も転生を繰り返すと言うのは異例にして特例な案件なのじゃ。普通は魂自体(そのもの)がそこまで持ちはせんのじゃ」


「はぁ」

 話に全くついていく事は出来ないが、他人の話を聞くにおいて取り敢えず礼儀としての相槌を挟む陸。このあたりの丁寧な礼節については大切に育ててくれた両親に感謝した方が良いだろう。


 まぁ、いくら感謝をしても親よりも先に死ぬ事は親不孝(おやふこう)以外の何物でもないのだけど…。


「数百回の転生を繰り返し、記憶も自覚も持たないお主には、そもそもわしの言っておる事が何の話かも分からないじゃろうが、一千回目を迎える事でお主の魂を今いる世界から解き放ち、輪廻の輪を絶つ事が可能になったのじゃ」


「はぁ…」


「お主が人の身ながらも、人として千回もの輪廻を繰り返した理由は、元々…と言っても千回程前になるのじゃが、お主の魂がわしらの世界とは別の神だったからじゃ。そして、お主の元の神格よりも、さらに格上の最上級神からの(ばつ)を負い、神の身ながら人の身まで降格させれられ、さらには魂の奥底に不運を刻まれて輪廻をさまよう事となったのじゃ」


「……」

 あまりに突拍子もなさすぎる話に、ついに陸は相槌すらも挟めなくなった。


 それもそのはずだろう。輪廻云々(うんぬん)…複数回の転生云々はともかく、どんな失態()をしでかせば、神と言う存在が最上級神の怒りを買い、そんな理不尽な罰を受けされられるのか。神の記憶を持っていた頃ならいざ知らず、普通の人間として二十年近く生きてきた陸には想像もつかない話なのだから。


「ギル、それでは全然伝わってないよ。さすがに話が急展開過ぎるよね、カイン」


「そうだね、アイン。それこそ、ここでの時間は無限大(いっぱい)有るんだから、ゆっくり落ち着いて話を進めようよ。そこに隠れてるルミナも含めてね」


(わたくし)は、覗き見等(・・・・)と言うはしたない(おこな)いはしておりません」

 誰も覗き見とまで言っていないのにも関わらず、自ら覗き見をしていたと襤褸(ボロ)を出すルミナと呼ばれた長身の割に全体的に凹凸の少ないスラッとした体型を持つ少し残念な女性。腰までかかる長いウェーブがかったキラキラ光る水色の長髪が特徴的だ。どちらかと言えば、顔はキツ目の綺麗系だろうか?


 あまりの出来事について行けず、ぼ~っと遠くを見詰めるような視線をする陸を見兼ね、幼い双子?と思わしきよく似た顔立ちの可愛らしい少年達と一人の若くて綺麗な女性の三人がギルバートとの側に現れた。


「……」

 そして、この三人の登場の方がギルバートの話よりも陸を追い詰め、現実逃避させている事実を、この三人が知る由もない。


「取り敢えず、話が先に進まないから今の内に僕達も自己紹介をした方が良いんじゃないかな?カイン」


「そうだね、アイン。まずは僕から、僕は大地と植物の命を司る一柱(ひとはしら)カーバイン、通称カイン」 


「僕は大気と生物の命を司る神の一柱アーバイン、通称アイン。カインの双子のお兄ちゃんさ。カイン共々よろしくね」

 右目をゆるふわ金髪で隠し、銀色の瞳を持つカインに続き、左目をゆるふわ銀髪で隠し、金色の瞳を持つアインが自己紹介をする。


 その見た目だけでなく、仕草や声までがそっくりな双子の少年神達。自己紹介をされていなければ、絶対にどちらがどちらか分からないだろう。ただし、自己紹介をされても間違う時は間違う。それくらい二人は似ていた。


 ちなみに二人は、女の子に見違えられそうな可愛らしいフェイスを持っている。


「よろしくね」

 二人は自己紹介と共に僕の周りをまるで追いかけっこでもするかのようにぐるぐると回り始めた。この辺りの動作は、見た目()相応に見える。


 ギルバート…自称ギルおじいちゃんが名乗る時に意識的に発言するのを控えていた神と言うフレーズを何の躊躇(ちゅうちょ)もなしに、自己紹介で言い放つアインとカインの双子神。だが、その事が逆に陸の意識を呼び戻す切っ掛けへと繋がる。


「…神」


「そう、今さら分かったの?私達は神よ。私は光と美しさの女ぐわみ…め、女神ルミナリエ。元々は私と同格であった貴方には特別にルミナ()と呼ぶ事を許しますわ」

 神…女神らしからぬ噛むと言う行為を盛大に自己紹介で繰り出すルミナリエ。


「あっ、噛んだ」

 無意識の中で神が噛んだ事を指摘する陸。意識が無いなりにも女神が自己紹介で噛むと言う行為には、何かしらくるものが有ったらしい。


「そうそう、ルミナは今みたいに大事なところでよく噛むんだよ。そして、今みたいに何事もなかったかのように(よそお)素面(しらふ)で続きを述べて誤魔化すんだよね、アイン」


「ルミナは女神のくせに、どじっ()属性・大の称号持ちなレア存在だから仕方がないよね、カイン。でも、これが本当の駄目噛み(堕・女神)(笑)だよ。ちなみに美しさを司る神は別にいるから、自称美しさの女神は経歴詐称(けいれきさしょう)だよ」


「アイン!カイン!ちょっと待ちなさい」

 陸の周りを回るアインとカインの輪に、二人を追い掛けるルミナも加わった。アインとカインがぐるぐると陸を中心にして(同じ場所を)回っている限り、同じ場所で待つ方が確実に捕まえられると思うのだけど、その事に気が付かない彼女は確かにダメ神(・・・)なのかも知れない。


 はっきり言って、この場所に神の威厳等と言う高貴なものは1ミリたりとも存在していない。どこにでも有りそうで普通と至って変わらない雰囲気が流れる。


 陸が戸惑ったり、緊張したり、神自体(そのもの)を改めて意識する理由がないと言う事。これが神達の緻密な計算によるものか、全くの偶々(たまたま)なのかは、それこそその名の通り神のみぞ知る事だろう。


 つまりは…


「え~っと、ギルバート様でよろしかったですかね?少し落ち着けましたので、色々と詳しく教えて頂けますか?」

 陸の思考がようやく前へと進む事に繋がるのであった。


「勿論じゃ、その為にわしら四人はここにおるのじゃから」

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