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1ー異世界転生は突然に 13

 異世界転生日記56

 修行四十日目。修行も残り今日を含めて四日、今日も今日とて狩りの日々。狩りで獲た様々な獣の素材の方は、順調にインベントリに貯まっている。今日までにディーヴァの森も隅々まで回ったが精霊に会う事は叶わず…。本当にいるのだろうか?


 PS.どうやらパンタスマグリアは思った以上に万能のようです。



 異世界転生日記58

 修行四十二日目。今日が修行の総集編で明日が修行最終日、明日はラッキー先生とハッピー先生との模擬戦らしい、今日までの修行の成果を見せなければ、そこそこ戦えたなら自信にも繋がる…のかも知れない。勝負のポイントは魔法のとパンタスマグリアの使い方になるだろう。


 PS.明日のリックへ、笑えてますか?



 異世界転生日記59

 修行最終日。明日の十八歳の誕生日(地球的には二十歳…)を気持ち良く迎える為にも絶対に勝つ…負けない。





「ラッキー、ハッピー、模擬戦の範囲(エリア)は池の端を起点に直径二百メートルの円で良かったと思うけど、ルールはどうするんだ?」

 すでに準備万端の陸ことリック。模擬戦のエリアにも事前に線を引いて書いてある。約二ヶ月と言う短いながらも内容だけは濃かった修行を終え、転生前の身体よりも、明らかに気力も体力も充実していた。


 今のかなり引き締まった身体なら、リックは全裸でも耐えれるのかも知れない…いや、それはさすがに言い過ぎか。問題は精神的なもの(恥ずかしさ)なのだから。


「ルールは簡単~」「主に合わせる~」「ラッキーも~」「ハッピーも降参したら負け~」「ただし耐性スキル禁止~」「時間無制限~」「勝てなかったら(・・・・・・・)罰ゲーム~」「ただし~」「主のみ~」「主のみ~」

 いつものように落ち着き、安定した口振りで高々と宣言した非常にシンプルなルール。しかし、その中に全く聞いていなかった言葉も含まれていた。


「ば、罰ゲームだと?しかも、僕のみなの?」

 その言葉に少し動揺を見せるリック。


「イッエス~」「確定事項~」「罰ゲーム~」「街に着くまで~」「耐性強化(修行)継続~」

 無慈悲な言葉に、リックは右の眉をピクリと動かした。


 それも束の間事で、昨日日記に(しる)した内容を思い出したリック。あれは単なる宣言ではない、リックの覚悟の現れ…と鳴門海峡答えはひとつだった。


「分かった。それで良いよ。僕が勝つ」

 最後に自分自身の心を決めるリックだった。


 しかし、この時のリックは知らなかった。今日までの狩りを助けてくれていたラッキーの【探索(リサーチ)】の本当の威力を…、ハッピーの【鑑定(サーチ)】の本来の器用さを…。





 二ヶ月を過ごした勝手知ったるディーヴァの森。木の上に潜んでいるリックは、息を潜めるながら無言で(・・・)魔法を放つ。


 使う魔法は【水魔法】の《ウォータ》の亜種。そのイメージは目に見えないぐらい細さを持つ長い糸。遠距離攻撃魔法を使えないリックが必死で考えたオリジナル魔法の一つ《水の糸(ウォータライン)》。


 その魔法の特性上、強度はないに等しいが形は変幻自在に変えられるし、一本につき最高百メートルの射程を誇り、最大でリックの手の指の数と同じ十本扱える。今回のリックは左手の五本の指を使い、クモの巣のような網目状に編んだものを自分を中心に球状で張り巡らしていた。リック命名、水蜘蛛の巣。


 リックの手の指から直接伸びているので、少しでも触れればリックにあ相手の位置が伝わる。その特性を生かして、リックの使えない【探索】代わりにも使え、その《水の糸》には他の魔法も流せるので、【付与魔法(エンチャント)】各種や【雷魔法】の触れた相手を感電させて痺れさせる《スタンパラライズ》とも相性の良い自慢の魔法。


 他にも、この魔法には捕獲を目的にした【泥魔法】ベースの応用編も有るのだが、今回の模擬戦の相手で空の飛べるラッキーとハッピーには効果が薄い為、リックは使用しない予定である。


 さらに、《水の糸》のカモフラージュとして同じような形状にしたパンタスマグリアを《水の糸》とは別位置で木の枝に見えるように配置していた。これが、狩りで大活躍していたリック必勝の待ち戦法の詳細。


 一対一で模擬戦を戦うなら、ほぼ負けない。なので、正面から正々堂々とパンタスマグリアで戦う方法も選択肢に有ったリックだが、罰ゲームを模擬戦開始直前で目の前に提示され、尚且つ二対一と言う不利な状況に、リックはこの二ヶ月で(つちか)った冷静さを欠く結果となっていた。


 そして、それは当然、模擬戦の相手となるラッキー達も分かっている。それでも、リックはこの魔法に密かな自信を持っていた。意外な方法で簡単に破られるとも知らずに…。




〔いつもの主~〕〔最大限で警戒中~〕

 ラッキーとハッピーが使うは【念話】、声に出さずとも意思の疎通が可能と言う使い魔の固有スキル。


 ラッキーの【探索(リサーチ)】の結果を二匹で共有していく。


〔五十メートル先の木の上~〕


〔らじゃ~、《ウォータ》〕

 位置を把握したハッピーが全身を覆うように《ウォータ》を(まと)った。


 そして、そこには何も無いかのように、リックの作った水蜘蛛の巣を通り抜けた。勿論、この時点で《水の糸》に《スタンパラライズ》を流されれば、ハッピーと普通にダメージを受ける。だが、同じ性質の水同士が重なると境界が分からなくなると言う水の特徴を利用したハッピーの一人勝ちだった。


 模擬戦後に、そんな簡単な攻略法が有った事を知り落ち込むリックに、今から同情しておきたい。


 その後も、リックの視角をつき少しずつリックへと近付いていくハッピー。一方、ラッキーはと言うと、リックの動きを【探索(リサーチ)】し、【念話】でまるで司令塔のように指示していた。すでに、ハッピーはリックの背後、数メートル。誰が見てもラッキー&ハッピーチームの勝ちは明白だった。



 すでに模擬戦開始から十数分、一向に近付いて来ないラッキーとハッピーをリックは不思議に思っていた。勿論、指先の《水の糸》への集中は継続中だ。


 来ないのか?それとも、水蜘蛛の巣を警戒して来れないのか?秒を重ねる毎に徐々に不安になっていくリック。


 自身の周りと《水の糸》の周りしか分からないリックの苛立ちが焦りに変わるのに、そう時間は掛からなかった。その時だった…


〔ダメダメ、動くのはまだ早いよ〕

 リックの耳元で囁きような声が聞こえる。それに対して思わず声を出しそうになったリックだが、寸前のところで手を口に当てる事で耐える事に成功した。


〔だから、動くのはダメだって。し~だよ、し~。分からないかな〕

 だが、いくら見ても声のする方向には誰もいない…いや、そこには()も見えない。つまり、答え(可能性)は一つ。


 …精霊か?


〔そうだよ。役目を終えようとしている風の中位精霊のゲイルさ〕

 それは、心で思った事に対して、頭の中に返事がくると言うリックにとっては妙な感覚だった。


 …それで、その風の中位精霊のゲイルさんが僕に何のようだ?それと、姿は見せないのか?


 これが罰ゲームが掛かった模擬戦の最中でなければ、風の中位精霊の登場を最大限に喜んだであろうリックも、今のタイミングでの登場は邪魔でしかない。でも、その心の奥底に有る願望だけは見え隠れしていた。


〔姿は今の君では無理かな?君にはまだ権利が無いからね〕


 …そうか、残念だ。じゃあな。


 リックは内心で、今は無理と言う言葉に物凄くガッカリしていた。言葉で現すよりも、ずっと…。


〔あ~、待って、待って。姿は無理だけど、ここ数日の君を見てて気に入ったからボクの力を託すよ。さぁ、ボクの言葉に続けて〕


 おい、ちょっと待て。せめて説明を…


〔いくよ。我、彼の武器に精霊ゲイルの魂を宿す〕

 リックの言葉を無視して先に進める風の中位精霊ゲイル。


 くそっ…!我、彼の武器に精霊ゲイルの魂を宿す…これで良いのか?


 リックが心の中で呪文の詠唱に聴こえなくもない精霊に対する宣誓。それを終えるとリックの右手に持つ鈍い鉛色をしたパンタスマグリアが淡い緑色へと変わっていた。


〔ありがとう、守護者様。これでボクの魂がその武器に根付いた。これでボクの力が使えるはずだよ。そして、これがボクからの最後のアドバイスだ〕


 お、おい、だから、もうちょっと分かりやすい説明をだな…。


〔君の背後に向かって、この武器を振るうんだ。《ゲイル》の言葉と共に…〕

 その事を残し、風の中位精霊ゲイルの意志がリックの頭の中に現れる事はなかった。

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