1ー異世界転生は突然に 11
「…それでだ、ハッピーとラッキーは何が出来るんだ?」
これからの事を踏まえ、各々の能力の確認に移る陸。
そもそもの話、陸が神鳥の卵を転生特典として選んだ理由は、自分のマイナス能力に対する補填。寂しさを紛らわせる意味合いもなくはないが、本来の目的からすれば、二の次だろう。
「ラッキーはこれ~」
ラッキー・シュヴァルツ
神鳥ラッキーバード・1/2 S
所持能力
【幸運】 S※神鳥固有スキル
【神の知識】 S※神鳥固有スキル
【探知】 B
【魔力操作】 B
【雷魔法・レベル1】 B
【火炎魔法・レベル1】 B
【旋風魔法・レベル1】 B
【念話】 C※使い魔固有スキル
所持称号
〈神鳥・1/2〉〈幸運の導き手〉〈使い魔〉〈指導者〉
「ハッピーも見て~」
ハッピー・ヴァイス
神鳥ラッキーバード1/2 S
【幸福】 S※神鳥固有スキル
【神の知識】 S※神鳥固有スキル
【鑑定】 B
【魔力操作】 B
【泥魔法・レベル1】 B
【流水魔法・レベル1】 B
【赤土魔法・レベル1】 B
【念話】 C※使い魔固有スキル
所持称号
〈神鳥・1/2〉〈幸福の導き手〉〈使い魔〉〈指導者〉
ちなみに、【幸運】と【幸福】は【福運】スキルが半分に別れた形で、その元になった【福運】スキルは、所持者に常時幸せが訪れ、どんな複雑な選択肢でも間違える事がないと言われている。
【神々の知識】は神の叡智を持って知られざる事を示す事が出来るスキルで、使い魔となった神獣のみが所持する事が出来る。
「は、ははっ…ラッキーもハッピーも似たような能力をお持ちのようだけど、【幸運】と【幸福】の違いは?それと魔法も使えるのか?」
二匹は神鳥ラッキーバードが半分に別れた存在であって、幸福の鳥ではなかったはず。転生特典のリストにも、そんな説明は載ってなかった。それに、【探知】や【鑑定】は所持していたと思うけど、魔法は使えなかったはずだ。
五日もかけて念入りに転生特典を熟読した陸だけに、その事だけには自信が有った。しかし、全てにおいて二匹にご主人様と呼ばれている陸よりも能力が高い。これには陸も自信を大いに消失させた。顔が引き吊るのも無理はないだろう。
ー【消失】をGETしましたー
※【消失】は自身の不必要なスキルを消す事の出来るAランクスキル。エクストラスキルやユニークスキルには非対応。
それを、ご丁寧なことにスキルの獲得知らせる無機質な♪を以て証明される徹底ぶり。この時、陸は始めて自身の【不運・神】と【簡単能力取得】の簡単さに腹を立ていた。
「ラッキーの【幸運】はご主人様の付けてくれた名前に由来~」
「ハッピーの【幸福】も同じ~、魔法はご主人様の能力から派生~」
分かり易いような、分かり難いような二匹の説明。
多分、【幸運】も【幸福】も名付けを終えた時の成長時に、ラッキーとハッピーの元々のスキルが自主的に変化したものだろう。魔法も同様に…ただ、僕が取得しているものよりも上位スキルを自主している事については、納得がいかないのだけど…。
「なるほど…。称号と言うのは?」
僕のステータスとの一番大きな違い、僕のステータスに称号欄は無かったはずだ。
「存在証明~」「神からのご褒美~」「ステータスにも恩恵~」
それって、ゲームの感覚に近いのか?でも、カイン様達の説明に称号の話はなかったよな。神からのご褒美や恩恵なら、何かしらの説明が有っても良いがするんだけど…それとも、僕のステータスに無かったからか?
「ご主人も持ってる~」
一人で考える陸の思考に止めを刺すようなハッピーの一言。
「えっ?僕も?」
その一言で慌ててステータスを確認し始める陸。
天海 陸(仮)
人属 14歳
所持称号
〈呪われし神子〉〈否殺者〉〈見習い勇者〉〈四柱の加護〉〈駆け出し賢者〉〈ひよっ子覇者〉〈鼻垂れ魔王〉〈守護者研修中〉〈???〉〈魔導の呪縛〉〈魔導の制約〉〈魔導の連鎖〉〈神への反逆者〉〈神獣の契約者〉
「……」
陸は、その不穏な言葉だらけの称号達に言葉を失った。最初の二つ、三つ(推定だけど、三つ目は神々からの贈り物だろう)は分かる。僕のマイナススキルに由来するものだろう。最後の〈神獣の契約者〉はラッキーとハッピーとの契約した関係だろう。
ただし、〈呪われし神子〉の効果、止めをした時の経験値十倍だが、それ以外の経験値は0と言うのは些か厳しい気がする。
ただ、不確定な言葉を含んだ勇者や賢者や覇者や守護者や魔王、これ如何に?いや、まだこれら五種はステータスがプラスになっているから許せるよ。いやいや、良くない良くない。何この物騒な単語の羅列…勇者?賢者?覇者?守護者?挙げ句に魔王?普通は一つでも持て余す系じゃないかな?僕は一つも欲しくは有りません。
そして、何?この…
〈魔導の呪縛〉※遠距離攻撃魔法の禁止
〈魔導の制約〉※自身に対する回復魔法の回復制限
〈魔導の連鎖〉※攻撃魔法の威力低下
…の僕の生きの根を止める三つは。
もしかして、これのせいかな?僕が魔法を使えない理由は。特に〈魔導の呪縛〉だよ、遠距離攻撃魔法の禁止って何さ?僕はどうやって異世界で生き抜けば良いのだろうか?
最後に残った二つ。特に陸は、多くの加護までくれた神々に反逆するなんて考えられない…にも関わらず、〈神への反逆者〉の称号をその身に宿している現実。これは陸が見て見ぬふりをしようとするのも無理ない事だろう。そして、〈???〉名前すら不明な称号まで、多分同じく不明だった天職に由来しているのだろうけど…。この二つについて、陸は完全に無視を決め込む事にした。
「ご主人様~、これ生きる為に~」「修行が必要なやつ~」
陸の称号を確認したラッキーとハッピーの素直な感想。
「だよな~」
自身の意見も一致していたが為に、言葉の語尾が自然と二匹に重なった陸。修行の具体的な内容は分からないが、同意せずにはいられなかった。
「ご主人をラッキーが鍛える~」「ハッピーも~」
陸の返事に嬉しそうに飛び回って答えるラッキーとハッピー。
「ありがとう。それと、一つお願いが有るのだけどね、そのご主人様と言うのは止めてくれないかな?普通に陸で良いから」
ラッキーとハッピーにご主人様と呼ばれるのに慣れない陸。そんな主従関係よりも陸は、二匹との友達…もっと言えば、家族のような関係を望んでいた。
「ご主人様の呼び捨てダメ~、そもそも呼び難い~」
呼び捨ては絶対に無理だと翼を×のように交差させて主張するラッキー。
「陸様~、これも呼び難い~」
陸の発音が言えず、りっくになるハッピー。
「じゃ~、主様~」「お殿様~」「親方様~」「天海様~」「天様~」…
「それらは全て僕が却下だ」
ラッキーとハッピーの妥協案をばっさりと切り捨てる陸。そもそも陸は最後に付けられる様~が気持ち悪い。
「ではでは~、主~」
次の妥協案を提示してくるハッピー。
「主~、ラッキーもしっくりきた~。OK~?」
陸の返答を待たず、叩みかけるように肯定しようとすらラッキー。どうやら、この辺りがラッキーとハッピーの妥協点らしい。
「分かった。取り敢えずはそれでお願いします」
「らじゃ~」「OK~」
少し喜びを見せ、陸を中心に飛び回るラッキーとハッピー。
…と言うよりも、この後で出てくるフレーズ集が怖かった陸が、自分自身が呼ばれて恥ずかしくないギリギリのところで妥協する事にした。まぁ、他の案よりは充分ましだろう。あくまで、身分制度が生きているこの異世界の話だが…。
それにしても、陸は呼び難いのか…。
そう言えば、さっきのハッピーの発音だけでなく、神様の発音も少し可笑しかった気もする。まぁ、ハッピーの発音ほどではなかったから、あまり気にならなかったけど。そこは、元々漢字のない世界なのだから仕方がないかも知れないな。
それに、今さらながらだけど、漢字のないこの世界で、いつまでも天海陸の名前のままではいるのは変だし、悪い方向でも目立ちそうだ。
あっ!確か、神様にも一回だけ名前を変えられると言われてたっけ?変える気がなかったから気にしてなかったけど…もしかして、呼び難かったからか?
それにしても、名前ねぇ…陸と全く違うものに変えると反応するのに自信がないし…。陸のままだと、一回一回訂正するのも面倒そうだ。
…と、なると改名するしか選択肢はないのだけど…。出来る事ならラッキーやハッピーとも共通点は欲しい、家族のような…。えっ~とこの世界だと、名前が前で名字が後だったよな。これを教えてくれた、ギルおじいちゃんに感謝です。
「う~ん、う~ん…。そうだ!リック・アッシュ。今日から僕の名前はリック・アッシュだ」
しばらく悩んだ末に、陸は一つの名前を思い付いた。陸自身は知らない事だが、自分自身の名前を決め、宣言すると同時にステータスの名前もリック・アッシュへと変わっていた。これは特に大した事ではない。
その時同じくして、陸とラッキー、ハッピーの一人と二匹を繋ぐ見えないラインが形成されていた事に気付くものはなかった。
これなら、呼ばれ方にも違和感は無いし、ラッキーの黒色とハッピーの白色を混ぜ合わせた灰色で共通点も出来て、尚且つイニシャルは以前のまま変わらないと言う一石三鳥だ。陸は、その事も二匹に説明した。
「リックもアッシュも呼び易い~、良い名前~」
「ハッピーは気に入りました~」
陸と自分達との名前の共通性を知り、喜ぶ踊るラッキーとハッピー。天海陸と言う名前を捨てた陸個人としても意外と気に入っていた。
だが、この時安易に決めてしまったリック・アッシュと言う名前に、陸は後々の異世界生活で後悔し続ける事となるのだが、この時の陸…リックは知る由もなかった。




