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1ー異世界転生は突然に 9

 異世界転生日記2 晴れ

 昨日の夜に飲んだ池の水で腹を下す。朝起きると【自然治癒】と【水耐性】の二つのスキルを獲得し、どちらもレベルが2まで(一つ)上がっていた。現実は厳しい、それは異世界とて同じ事。異世界も甘くない、異世界の怖さを知った。今日も昨日の続きで拠点の強化。


 PS.夜空に大きな赤い月と小さな青い月を発見。ここが異世界だと改めて認識。



 我輩は神鳥の卵である。名前どころか、我輩の存在自体(そのもの)も忘れられている。どうやら我輩の主人は我輩と違って運が悪いらしい。研究対象として興味が尽きない。



 異世界転生日記3 晴れ

 この二日間(腹を下す)水以外を口にしていない、さすがに空腹。森の中を歩き食糧の確保へと向かった。動物の足跡らしき物を見つけるが気配は無かった。野生動物()を想像しただけで怖い。多分、僕には捕まえられないだろう。

 森を一周した。どうやら、僕の拠点である池は森の中心部に有るようだ。北には緑の(こけ)(おお)われた大きな岩が有るだけだったが、僕にしてはラッキーな事に森の南の方で木になっている洋梨のような木の実(超すっぱい)を発見した。ラッキーだったのも束の間、その実を食べれば食べるほど、下痢や嘔吐と共に各種耐性スキルと【自然治癒】のレベルが上がっていく。特に美味しい訳でもないのにだ。

 神様、ここの食糧は全て状態異常になるのでしょうか?今日は残念ながら、拠点の強化は出来ず。


 PS.食糧を食べていると獲得した【(おとこ)鑑定】にはドン引きしました。


 ※【漢鑑定】とは、食材や素材の性質が分からない者が己の身体を犠牲にして(使い)、そな性質を見極める漢の中の漢の為のスキル。スキルランクB



 我輩は神鳥の卵である。主人の食べる物全てに何かしらの状態異常が施されているのは、これ如何(いか)に…

 よく探せば、まともな食べ物もたくさん有るはず…ここは恵み多し精霊の住まう森なのだから。



 異世界転生日記4 晴れのち曇り

 これまでの経験を生かし、今日は火起こしにチャレンジ。言い換えれば単なる焚き火だが、遂に異世界拠点にも明かりが(とも)る。これで水の煮沸(竹に似た中が空洞の木を使用)や食材に火を通す事が可能になった。それだけでも大きな進歩だと思うし、素直に嬉しい。完全なアウトドア素人である僕では火をなかなか起こせなかった(推定二時間以上)が、相変わらず簡単に【火魔法】と【風魔法】スキルを獲得。でも、やっぱり使えない。


 PS.あれ?もしかて僕には魔法の才能がないのか?だが、普段から料理を(たしな)んでいたお陰で、料理の才能はあったのか、火で木の実を(あぶ)って炭にしただけでも【料理】スキルは獲得出来ました。【簡単能力取得(イージーモード)】よ、ありがとう。感謝します。



 我輩は神鳥の卵である。あんな原始的な方法を用いなくても、主人の持つパンタスマグリアを使えば、火などものの数秒で着くものを…喜ぶ主人が少し(むな)しく思える。



 異世界転生日記5 雨風

 さすがは素人建築の子供じみた秘密基地(にわか拠点)、雨と風に全く耐える事が出来ない。大きな木の下の方が遥かに雨を(しの)げる。夕方には僕の目の前で屋根が飛びました。拠点の改造は急務なようです。


 PS.毒リンゴを食べた白雪姫の気持ちが分かるようになりました。美味しそうと思えるのは何物にも勝る正義だ。他の耐性スキルを差し置いて、【毒耐性】がレベル10となり【猛毒耐性】に進化。



 我輩は神鳥の卵である。今日は腹痛に耐える主人について、精霊達から心配された。主人を見かねた精霊達が主人の見やすい位置に美味しい食べ物を配置してくれているらしいが、ことごとくハズレを引くらしい。主人よ、まさかわざとやっているのではあるまいな?



 異世界転生日記6 晴れ

 池の水面に写った僕の顔の頬が()けてきた。まともな物が食べたい…あまりの食への飢えからインベントリの中に約三十センチの神鳥の卵が有る事に気付いた。これだけあれば…

 茹で玉子や玉子焼き…様々な玉子料理を思い浮かべた。手に持つ玉子のステータス欄に、羽化まであと四日(・・)と書かれていなければ、今頃は胃袋の中に消えていた事だろう。


 PS.あと四日待てば肉をGETだ。



 我輩は神鳥の卵である。主人の喜劇(きげき)を共に見る精神の知人が増えた。この音のない世界において、嬉しい限りだ。

 主人がようやく我輩の存在を思い出してくれた。これは素直に嬉しい。ただし、本来の使い魔としてではなく、食糧として。これは素直に嬉しくない。



 異世界転生日記7 曇り

 異世界転生一週間、お肉まで三日。パンタスマグリアの新たな使い方が判明する。パンタスマグリアは武器だけでなく、鍋や包丁等の調理道具にも形を変えられた。驚く事に二つや三つ(複数)に分ける事も、また元通り一つにまとめる事も可能だった。僕は、パンタスマグリアの本体とは別に分けた方を分体と名付けた。この分体は一度しか形を変える事は出来ないが、強度等の面はパンタスマグリアに依存している。再び分体を本体にまとめれば、また同じように形を変える事が出来た。まるで、粘土のような武器だと言う事が判明。パンタスマグリアで遊んでいる内に【造型】と【加工】スキルを得た。それを利用して、まともな木製の箸と食器が完成。


 PS.着実にお肉へと近付く。待ってろよ、お肉様。



 我輩は神鳥の卵である。仮の名前はお肉様。初めて貰えた名前は非常に美味しそうな名前である。お肉様…お肉様…我輩がこの名前に慣れる事はあるのだろうか?



 異世界転生日記8 晴れ

 お肉様まであと二日。今日も今日とて、耐性スキルのレベルだけは上がる。心なしか肌の色が日焼けしてきたように感じられる。今が夏場?なのが救いかも知れない。

 不思議な出来事にも気付いた。この前、【伐採】したはずの木や木の実が元の状態に戻っていた。もしかして、この森の木や木の実は取り放題なのだろうか?どうやら追加検証が必要な事案らしい。


 PS.遂に【混乱耐性】が【錯乱耐性】に、【痺れ耐性】が【麻痺耐性】に、【呪い耐性】が【呪詛耐性】に進化しました。毒等の状態異常味の奥に微かな味わいも感じ始めました。いよいよ味覚がヤバイかも知れません。



 我輩は神鳥の卵である。名前はお肉様が定着…はっきり言って嫌で有る。相も変わらずハズレ食材を引き続ける主人。主人の運が悪くなければ、我輩が食べられる未来はなかったのではなかろうか?



 異世界転生日記9 晴れ

 明日は待ちに待った肉祭り。もうそれしか考えられない。早く明日になれ、早く明日になれ。


 PS.異世界(リヴァース)には【即死耐性】と言うものも有るそうです。朝起きると何故か獲得していました。僕は寝ている間に再び死んだのでしょうか?考えたく有りません。



 我輩は神鳥の卵である。主人の頭は我輩(お肉様)の事でいっぱいである。羨ましくも聞こえるが、我輩を全くもって嬉しくない。あと二日、そろそろ覚悟を決めよう。生まれてくる我輩に全てを託して…



 異世界転生日記10 晴れ

 今日は異世界転生生活において、革新的な出会いがあった…


「まだか…まだか…」

 目を血走らせながら、両手に抱え込む卵を睨み付けるような(まなこ)で見詰め続ける陸。


 陸が目覚めると、抱え込んで寝ていた神鳥の卵にうっすらとヒビが入っており、卵のステータスにも羽化まで残り三十分と表示されていた。それも少しずつ減ってきている。遂にカウントダウンの段階に入ったと言う事だ。


 つまり、それが陸の目を血走らせている(まばた)き厳禁と言う事に繋がってくる。


「…五分…五分…五分…五分…おっ、おぉ~四分!」

 残り時間が十分を切ってからは、ずっとこれの繰り返し。端から見れば、おかしな人にしか見えないだろう。まぁ、陸の周りに人は誰もいないのだが…



 我輩は神鳥の卵である。名前はお肉様…はたして、生まれた時にまともな名前は着けて貰えるのだろうか?


 生まれてくる我輩の為にも、この数日間主人の動向を見守らせて貰ったが、今日の主人が一番危ないだろう。あのカウントダウンも我輩の死へのカウントダウンと同意。


 これでも我輩は神鳥ラックバードとして生まれてくる(もの)。運の良さには自信がある。だか、主人の運の悪さの方が自信がある。我輩の運の良さを軽く上回るくらいには…


 残り、三分…そろそろ我輩の意識も薄れてきた…この数日、話相手になってくれた精霊の知人達にも感謝したい。願わくば、生まれてくる我輩達(・・・)に幸あらん事を…

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