プロローグ
「さてと…少し名残惜しい気もするけど、色々な能力も確認出来た事だし、そろそろここを離れるとしますかね」
「主~、やっと~?さすがに長かった~」
「こう言うのは出だしが肝心だからな。今後の為にも、きっちりやっておきたかっだんよ。ごめんな」
「良いよ~、もうなれた~。主の作るご飯が美味しかったら許す~」
衣は心もとないが最低限の食住だけは保証されていた、ある意味で快適な場所と言えなくはないこの場所から離れる決意を表す一人の青年とその青年を主と呼ぶ一匹の小鳥。
これは、前世…いや、これまでの輪廻において【不運】と言うスキルを背をわされた一人の人間が、輪廻の垣根が外れた異世界リヴァースで【不運】を覆す一つの物語。
ただし、それは決定している未来ではない。なぜなら彼は輪廻を外れて尚も、【不運】と言うスキルを背負って生きていかなければならないのだから。
とある場所。そこは静かで清らかで明るい、この世の楽園を体現したかのような高潔な場所。
「彼奴、ようやくあの場所を離れる決意をしたようじゃ」
宙に浮かぶ大きな水晶玉のような物に映し出された青年の動向を、まるで我が孫でも見ているかのような優しい表情を浮かべて見守る、どこか神々しい雰囲気を纏う長い白髭をたくわえた御老人。
「あら、そうなの?意外と長かったわね。一月くらいかしら?よくあんな誰もいない辺鄙な場所に、そんな長い間も居れましたわね。まぁ、私には全く関係のない事ですけど」
手に持つ本を見ながら、私はその青年には全く興味有りませんとでも言いたげな雰囲気を出しつつ、チラチラと横目で水晶玉のような物に目を走らせている若い女性。
本人は必死に隠しているようだが、他の三人から見れば、その青年に興味が有る事はバレバレだった。こちらも御老人と同じく、どこか神々しい雰囲気纏っている。
「残念、あっちの世界…彼の感覚では二月くらいだよ。こことは時間の流れが違うから、彼に全く興味がないルミナが間違うのも仕方ないと思うけどね、カイン」
「そうだね、アイン。きっと、ルミナは彼を嫌ってるんだよ。ギル、ここからは三人で覗こうよ」
お互いをアインとカインと呼んだ瓜二つの少年達は、ルミナと呼んだ女性が興味を持つ青年への気持ちをひた隠しにする様子を、ある言葉を強調する事で軽く弄り、ギルと呼んだ御老人に一つの提案をする。その顔はどこからどう見てもイタズラっ子にしか見えない。
勿論、アインとカインも本気の発言ではなく、興味なさそうな態度を見せている女性…ルミナを弄って遊びたいだけだ。
こちらも例の如く、どこか神々しい雰囲気を纏っていた。ただし、この場にいる四人の中でも遥かに強く…。
「アイン、カイン、ちょっとお待ちなさい。誰も彼が嫌いともに興味がないとも言ってませんわ」
どうやら、ルミナと呼ばれた女性は全く隠し事の出来ない残念な人物らしい。
「じゃあ、やっぱり彼に興味が有るんだね。ルミナは彼が好きなの?」
「だよね、彼の方はルミナを気に入ってたように見えたし」
アインとカインのルミナ弄りは止まらない。その様子をこれまた暖かい表情で見つめるギルと呼ばれた御老人。
「ほ、本当ですの?ち、違いますわ。そんな事は誰も言ってません!私は、私達が彼に与えた眷属の様子が気になっているだけです」
カインの「気に入ったように見えた」と言う言葉に満更でもなさそうな表情で頬を赤く染めるが、二人のイタズラめいた表情を見て、急に我に返り恥ずかしそうな表情で慌てて否定するルミナ。
どうやら彼女を残念な人物と呼んだのは誤りだったようだ。彼女は非常に分かりやすい、他人から見れば可愛いツンデレだったらしい。きっとその事はルミナ本人だけが否定するだろうけど。
「三人共、ふざけるのもその辺にしておくのじゃ。どのみち、もうわしらに出来るのはここから彼奴を見守る事だけじゃ」
「私は、アインとカインと違ってふざけてはいませんけど、それについてはギルに同意します」
「え~、僕はもっとルミナで遊びたいんだけどね、カイン」
「それについては僕も同じだよ、アイン。でもこれは彼の…天海 陸の終焉の物語だから、そろそろ外野は黙るとしよう。ギルも怖いしね」
「分かったよ、カイン。まぁ、僕達の出番もこれっきりと言う訳でもないからね」