エピソード6
「・・・・・・。」
いきなりのことで、それがどーいう意味なのか、理解するまでただ黙るしかなかった。
いや、ほんとは、どんなに考えても答えなんてわからないのだけど。
当の本人は、ぼくの肩で寝ているわけで……
そうこうしているうちに、
「じゃ、よろしく! オレ、練習もどるわ!」
浩二は、スッキリしたような朗らかな顔をして、
スタスタ走っていってしまった。
スッキリしないのは、ぼくの方で。
“よろしく”って……ぼくにどうしろと……?
とりあえず、日誌を急いで書き終えてから、妹を起こした。
「う〜よく寝た!」
自転車に乗っているぼくの後ろで、妹が伸びをした。
ぼくは、夕陽に輪郭が光る雲をぽかんと見ながら、
さっきのことを繰り返し思い出していた。
人通りのない、まっすぐな道が続く。
と、いきなり視界が塞がれた。
キキー!!
ぼくは、ブレーキを握ってなんとか無事に自転車を止めた。
もちろん妹のしわざ。
「なっ、何すんだよ!!」
「なんか、お兄ちゃん、さっきから元気ないみたいだから☆」
なっ、何がしたいんだこいつはーー!!
妹の行動は意味不明だが、見透かされているようで、
それ以上怒る気にはなれない。
「お、おまえもさ、そういう危ないことするなよな。
一応、女の子なんだからさ……。」
「どうせ、いちおーっですよ。
さっきは……かわいいとか言ってたくせにぃ〜!」
妹はいかにも可愛気なさそうに口を大きく横に開く。
「はっ?! んなこと……」
ぼくは、“さっき”という状況を思い当てると、呆然となった。
ぼくが、浩二にさっき不意に言ったこと……。
「……おっ、おまえ、起きてたのか!!」
もう聞くまでもないんだけど。
妹は、ふふ〜んと得意げな表情をして、
「せっかく、男友達水入らずな感じに気を使ってあげたのになぁ〜」
妹はあの時、ぼくの背中でどんな気持ちでいたんだろうか……。
少しの沈黙の後、妹が口を開いた。
「人に好かれることは、しあわせなことだし、あたし、うれしいんだよ。」
「……。」
「でもね。あたし、お兄ちゃんと一緒じゃなきゃ、生きていることさえできなくて……
だから……ごめんね。」
まるで、浩二に言うかのような……。
「まぁ、いいんじゃね? オレ、浩二のこと、嫌いじゃないけどさ。」
「お、お兄ちゃんって、そういう趣味だったの〜!?」
なっ、なんでそうなる……。