3.16 人と神の境界線Ⅰ
「さて、こんな場所ではなんだし移動しましょうか。――ついてきなさい」
「あ、あぁ」
ほんの数分前まで怒髪天だったが、今はその感情は鳴りを潜めており、平常運転に戻った彼女は結弦、アリス、エステルを自らが作る光のゲートへと導く。
そんなフィリアの喜怒哀楽に未だついていけない彼らは一瞬顔を見合わせたが、よくよく思えばこの女神様はこういう人だったなと思い返し、ひとまずは従うことにした。
◇
ゲートの先は謁見の間へと繋がっており、そこには投獄されていたレンたちやキャロル、フリードといった顔見知り陣、そして毒を盛られて床に伏せていたはずのシャルロットの姿があった。
「おぉー! ぬしさまじゃ♪ 遅いぞぉ?」
「お前らがいつからここに居たのかは知らんが、俺らは寄り道なんてしてないからな? あとちょっと前まで捕まってたやつの態度じゃないぞ、それ」
「まぁまぁ無事に合流出来て良かったじゃないですか」
「まぁな」
何事も無かったように絡んでくる白音を結弦はめんどそうに相手し、アリスが二人の間を取り持つ。
見た感じケガも無さそうだし放っておいても問題ないか。――それよりも、
「それにしてもよく爺さんは顔を出せたな。死にかけたんだろ?」
「ご主人様!?」
皆の無事が確認できた事にひとまずの安堵を得た結弦は、横行な態度で国王のシャルロットに話しかける。
そもそもこの爺さんのドジのせいで俺らが捕まったからなぁ~ 今さら敬うなんて無理だろ……
「よい。どうせここには部外者は誰も居ないし、くだらんおべっかを並べるのも疲れる。ただ一人を除いてだが……」
シャルロットは結弦の態度を咎めることは無く、それどころか膝をつき頭を垂れた。――結弦の前を歩くフィリアに対して。
「そうね。一応貴方にとっては私は命の恩人ですもの、それはそれは感謝の気持ちを持って接してもらおうかしら?」
「あぁやっぱフィリアが助けてくれたんだな。――でも空気が重いからその辺にしてやってくれ」
「わかってるわ。私の可愛い可愛いアリスの親ですし? 下手に虐めてアリスに嫌われたくないわ」
「なんか凄い私情にまみれた理由だが……ってちょっと待て!」
何かサラッととんでもないこと言ったぞ、この女神様。
「当然でしょ? 私の巫女がそこら辺の田舎娘に務まるはずがないじゃない」
「フィリア様!? それって……そういうことなのですか?」
突然の事にアリスは同様を隠せない。
いきなり明かされた事実に驚いたアリスは結弦の影に隠れて背中越しにシャルロットへ視線を送る。
「ほらそこで下向いてるの、いつまでも固まってないで最後の一言くらい自分で言ったらどう?」
「むむ、クロノス様は手厳しいですな。――だがここまでお膳立てされたら隠すのも難しいか。――アリス、困っていることを承知の上でそなたに伝えよう。そなたの真の名は『アリス・ミラ・グラジオラス』、私の実子であり、皇位継承権第一位、つまるとこ次期女王である」
「「!!」」
シャルロットの言葉にアリスはもとより、結弦たち全員が息を飲む。
「当然私の娘でもあるからそこは忘れないように! ――もちろん巫女としてよ?」
「いや、そんなのどうでもいいんだが、本当なのか? 爺さん」
「私も今の今まで確信は持てなかった。――同じ名前、亡き妻そっくりの容姿や声音、ずっと偶然と思いたかったがクロノス様に言われた以上認めるしかないだろう」
「やはり地下で見たあの本は……いや、それよりもアリス大丈夫か?」
「え、えぇ……シャルロット陛下がお父様。――すみません今の気持ちを言葉に表せません」
「よい、今までずっと放っておいた駄目な父だ。無理して娘である必用もなし、どうするかは時間をかけてゆっくりと考えなさい」
「はい……わかりました」
アリスは自分の気持ちに整理をつけられず、曖昧な返事をするしかなかった。
心ここに在らずといった放心気味のアリスを見るのは随分と久しぶりかもしれない。いつも俺らのために甲斐甲斐しく付き合ってくれたこの子に対して、俺がどこまで支えてやれるか……少し考える必用があるな。
「よしっ! じゃあこの話はここまでとして……アリス、今のあなたの状況を説明するから。――正直こっちの方が重要なのでちゃんと聞くように」
「はい!」
空気を読んだフィリアが話題を変える。――まぁ自分で撒いた種なのだから当然と言えば当然か。
「さっきも言ったけどあなたは私と人類を繋ぐただ一つのパイプライン、『神託の巫女』よ。私の写し身であり人と神の境界線、簡単に言えば人間側の総大将ってところかしら」
「はぁ……」
「凄いことなのよ? 誰でもなれる訳じゃないし神様特典てんこ盛りなのだから。――とてもツイてるわ」
「おいそこのペテン師。適当な事言ってないで本当のことを言え。俺がそんな凄い巫女に偶然出逢えて一緒に旅をする……出来すぎててオチが読めるわ」
「これだから童貞はダメね。堪え性がないわ」
「どっ!!」
「結論から言ってしまえば結弦の言う通りある程度は私が仕組みました。結弦が最初に訪れる街で出逢うようにと。……ただ、ごめんなさい。『ある程度』は私が運命線を操作して仕組んだけれど『全て』ではないの。信徒に誓ってあなたを奴隷にするつもりは無かったの……信じて?」
フィリアはとても申し訳無さそうにアリスへと頭を下げる。
「大丈夫ですよ。フィリア様がどういう人なのかはご主人様の次くらいに理解しています。ご主人様に巡り会わせて頂いたことに感謝はあれど恨むことなどありえません。――それに私、ご主人様との関係……結構気に入っているんですよ?」
「ありがとう。そう言ってもらえると胸のつかえが一つ取れたわ」
アリスは疑う余地無くフィリアの言葉を信じ、フィリアの頭を上げさせる。
「今のところは順調に巫女としての使命を全うしてくれているわ。あなたに与えられている使命は結弦のサポートただそれだけ。――後は死なないこと。死んだらいざというときに私がこちらの世界でちゅどーんと暴れられなくなってしまうから♪」
「ちゅどーんって……」
「はいそこ! 私にいつも泣きついてくる坊やはどこの誰だったっけ?」
「ハイ……黙ってます。」
「よろしい。まぁ細かいことは追々教えてあげるから今は結弦のために精一杯仕えなさい」
「わかりました♪」
アリスの返事に満足したフィリアは自身の身体を光の粒子へと変換させる。
「じゃあ眠いから帰るわ。後は好きにしてちょうだい……っと忘れてたけど結弦?」
「なんだ?」
「後で話があるから今日は早いところ休みなさい」
「あいよ」
いつも通り言いたいことだけ言って後は俺任せですか。――キャロルやフリードなんかは終始ポカーンとしたままだし……あいつ事後処理が一番めんどくさいってことをちゃんと分かってるんだろうか?
久々過ぎて設定を逸脱している部分があるかもしれません。ご報告いただければ幸いです。
後、今後についてですが、しばらくは無理せず不定期にやらせてもらえればと思います。打ち切る予定はありませんので暖かい目でお付き合いいただければ嬉しいです。




